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判例特許

令和5年(行ケ)第10013号 拒絶審決の取消請求事件(vs 特許庁) 

進歩性:「容易の容易」の分水嶺~二段階の容易から進歩性を否定した事例~
2023/12/26判決言渡 判決文リンク
#特許 #進歩性

1.本件の学び(雑感まででいえること)

・権利化 無効化 #進歩性 #容易の容易

 主引用発明に副引用発明1を適用し、さらに副引用発明2を適用して本願発明に想到するとき、「副引用発明2を適用する課題を、主引用発明に副引用発明を適用した発明から認識できるものの、主引用発明からは認識できない場合」であっても、進歩性が認められるとは限らない。(「容易の容易」であるから進歩性がある、という主張が通らないケースがある。)

∵本件で知財高裁は、主引用発明に「周知の事項1」及び「周知の事項2」を適用するときの論理付けの判断において、「周知の事項1を適用した引用発明の課題」を認定し、周知の事項2が、この課題を解決する手段であることから、周知の事項1を適用した引用発明に周知の事項2を適用する動機付けを認めた。そして、本件で認定された「周知の事項1を適用した引用発明の課題」は、主引用発明からは認識できない課題であった。

2.概要

  発明の名称を「磁極ハウジングの製作方法、他」とする特許出願(特願2019-510750号。以下「本件出願」という。)の出願人であるブローゼ・ファールツォイクタイレ・ゲーエムベーハー及びシュルホルツ ゲーエムベーハー(以下、「原告ら」という。)が、特許庁のした拒絶審決の取消しを求めた事案である。

 争点は、進歩性の判断である。

 審決は、請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)に対し、甲5(国際公開第2012/113432号)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に、甲6~甲8号証に基づく「周知の事項1」と、甲9号証に基づく「周知の事項2」を採用することで、当業者が容易に想到し得たものである、と判断した。

 引用発明が記載される甲5号証は、本件出願の出願人の一人である、ブローゼの出願であり、下図に本件出願と甲5号証を対比して図示しているが、内容も似ているものである。(図1は、磁極ハウジングの製作方法の経過を概略的に示す図である。)

 図の対比から、本件出願の発明と甲5号証の発明が相違する部分は、下左図の赤枠の部分であり、磁極管2の管端部12aがカバー14で閉鎖される部分に当たる。また、本件出願において、カバー14を磁極管2に固定する概略的なプロセスが、下右図である。

 具体的に、本件出願の請求項1(本件発明1)は、以下の通りである。なお、審決で相違点と認定された部分を下線で示しているが、この部分は、上の右図(図4)を見ながら読むと、理解しやすいだろう。

【請求項1】(下線部が審決で相違点とされた部分)
 予め亜鉛メッキされた金属薄板材料からなる管外周壁(4)が用意され、
 管縦方向(L)に延在する前記管外周壁(4)の直線状の外周壁縦方向エッジ(6)が互いに向き合うように、金属薄板材料からなる前記管外周壁(4)が円筒状磁極管(2)に変形され、
 前記管外周壁(4)が溶接装置(28)に供給され、前記管外周壁(4)の前記外周壁縦方向エッジ(6)がレーザー溶接継目(10)によって互いに材料結合式に連結され、周方向に閉じた前記円筒状磁極管(2)を形成し、前記外周壁縦方向エッジ(6)間の流体封止的な突き合わせエッジ連結が実現され、
 前記円筒状磁極管(2)の一方の端面を閉鎖するカバー(14)が設けられている、電動機用磁極ハウジング(16)を製作するための方法において、
 前記円筒状磁極管(2)がプレス装置(34)に供給され、前記円筒状磁極管(2)の前記一方の端面側の管端部(12a)の内壁側に、前記カバー(14)を支持するための半径方向の載置面5 (36)と軸方向の環状壁区間(38)を有する段付き部(32)が全周にわたって形成され、
 前記カバー(14)が前記載置面に配置され、
 前記カバー(14)を越えて突出する軸方向の前記環状壁区間(38)の領域が前記カバー(14)を保持しつつ全周にわたって前記一方の端面側の管端部(12a)の塑性変形によって半径方向内側に変形され、それにより前記カバー(14)が端板として、前記カバー(14)と前記円筒状磁極管(2)の間に流体封止的連結を形成するように前記円筒状磁極管(2)の前記一方の端面側の前記管端部(12a)にかみ合い結合式に固定されることを特徴とする方法。

 これに対し、審決では、周知の事項1及び2がそれぞれ、以下のように認定された。

【周知の事項1】
 電動機のハウジングに端板としてカバーを取り付ける際、ハウジングの内壁に、カバーを支持するための載置面と軸方向に延びる環状薄肉部を全周にわたって形成し、カバーを当該載置面に配置し、当該環状薄肉部をハウジングの全周にわたって半径方向内側に変形させ、カバーを圧着して固定すること
【周知の事項2】
 管状部材の管端部に段付き部を形成する際、プレス装置を用いること

 本件で、知財高裁は、審決の通りに、引用発明、周知の事項1、及び、周知の事項2を認定した上で、次のようにして、進歩性がない旨の結論を導いた。

知財高裁の判断(判決より抜粋。下線、太字は付記)
「周知の事項1の引用発明への適用
 ア 技術分野
 引用発明の内容(…)によると、引用発明は、電動機用の磁極ハウジングの技術分野に属する発明である。他方、甲6から8までの記載内容(前記(2)から(4)まで)によると、周知の事項1も、電動機に用いられる円筒状のカバー等又は円筒状のカバー等を用いた電動機の技術分野に属する技術であると認められる。したがって、引用発明と周知の事項1とは、その属する技術分野を共通にするということができる。
 イ 引用発明の課題
 …引用発明は、「前記チューブ・シース2の前記縦方向のエッジ3がレーザーによる溶接の継ぎ目5を用いて接続され、溶接された前記ポールチューブ1を形成し、液体及びガスを透過させない継ぎ目エッジが保証され、」との構成を有し、また、…甲5には、引用発明のチューブ・シース2の縦方向の2つのエッジ3が溶接により流体封止的に連結される旨の記載がある。このように、引用発明は、シリンダー状のポールチューブ1を形成するに当たり、チューブ・シース2の両端(縦方向)である2つのエッジ3を流体封止的に固定することを前提とするものであるが、2つのエッジ3の流体封止的な固定が実現されても、ポールチューブ1のチューブ末端6aとベアリング保護板7とが流体封止的に固定されなければ、電気モーターのためのポールケーシングの全体としては流体封止的な密閉が実現されないことになり、2つのエッジ3の流体封止的な固定の趣旨が没却されることになる。以上によると、引用発明には、ポールチューブ1のチューブ末端6aとベアリング保護板7とを流体封止的に固定するとの課題が内在しているものと認めるのが相当である。
 ウ 引用発明の課題の解決手段
 …周知の事項1(要するに、ハウジングの全周にわたってハウジングの端部に段付き部を形成し、ハウジングのカバーを当該段付き部に配置し、ハウジングの全周にわたって当該端部の環状薄肉部を変形させて加締め加工を施す旨の技術)を用いてハウジングのカバーを当該ハウジングに取り付けた場合、ハウジングの内部に外部から水分等が浸入しないようにすること、すなわち、ハウジングとカバーとの流体封止的な固定を実現することができるものと認められる(…)。
 そうすると、周知の事項1は、引用発明に内在する前記イの課題を解決することができる手段(技術)であるといえる。
 エ 周知の事項1を引用発明に適用する動機付け等
 以上によると、引用発明に周知の事項1を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。なお、甲5から8までの記載によっても、当該適用に阻害要因があるものと認めることはできず、その他、当該適用に阻害要因があるものと認めるに足りる証拠はない。
 周知の事項2の引用発明への適用
 ア 動機付けの有無
 (ア) 技術分野
 …引用発明は、電動機用の磁極ハウジングの技術分野に属する発明であり、周知の事項1は、電動機に用いられる円筒状のカバー等又は円筒状のカバー等を用いた電動機の技術分野に属する技術である。他方、甲9並びに乙1及び2の記載内容(前記(1)から(3)まで)によると、周知の事項2も、電動機に用いられる管状のハウジング等又は管状のハウジング等を用いた電動機の技術分野に属する技術であると認められる。したがって、周知の事項1を適用した引用発明と周知の事項2とは、その属する技術分野を共通にするものといえる。
 (イ) 周知の事項1を適用した引用発明の課題
 周知の事項1は、電動機のハウジングの端部に段付き部を形成することを前提とする技術であるから、周知の事項1を適用した引用発明においては、当然のことながら、当該段付き部の形成をどのような方法により行うかについて検討する必要が生じるところ、これは、周知の事項1を適用した引用発明が有する課題であるといえる。
 (ウ) 周知の事項1を適用した引用発明の課題の解決手段
 周知の事項2は、管状部材の管端部に段付き部を形成するための具体的な方法(プレス装置の使用)を示す技術であるから、周知の事項2は、周知の事項1を適用した引用発明が当然に有する前記(イ)の課題を解決することのできる手段(技術)であるといえる。
 (エ) 小括
 以上によると、周知の事項1を適用した引用発明に周知の事項2を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。」

3.雑感

3-1.判決についての感想

全体的な結果について:納得度90%

 本件は、感覚的には「進歩性がない」という結論が妥当と感じる案件であった。「感覚的」というのはつまり、相違点を実質的に見た時に、先行文献の開示からすると、本件発明に進歩性を認めるような技術が十分にあるようには思えなかった。(全く論理的ではない言い草だが)

 引用発明は、出願人の一人が過去に出願した甲5号証であり、この引用発明に対する進歩は、ざっくりと言ってしまえば、円筒の内側に段付き部を形成し、段を利用してカバーを停め、固定すること、また、この段付き部はプレス装置によって形成されることである。

 仮に、円筒の内側に段付き部を形成しなければならないという事情が発生した場合に、その段付き部をプレス加工によって形成することは、当業者が適宜選択する設計的事項と言ってもよいかもしれない。(本件では、設計的事項という論理構成は採られていないが)
 そのため、「段付き部がプレス装置によって形成されること」は、実質的には、進歩性の判断に寄与するような事項ではないように感じられ、周知の事項1の動機付けさえ言えれば進歩性がないことの論理付けはできたようにも思えた。

 さて、本記事のサブタイトルには「容易の容易の分水嶺」という大仰なテーマが記されているが、まずは「容易の容易」について簡単に説明する。

 最初に、「容易の容易」とは「進歩性がある」ことを主張するための論法である。少なくともここでは、「進歩性がある」といえる場合を「容易の容易」と定義することとする。なぜなら、「進歩性が認められる容易の容易」と「進歩性が認められない容易の容易」という分類をすることにはあまり実益がないように思えるからである。
 体系的に細かく分類して研究するという意味では、細分化する意義があるかもしれないが、私の中での「容易の容易」という概念の置き場所は、「進歩性がある」という範囲の中である。

 特許法上の法律用語として「容易の容易」という言葉があるわけではないが、それなりに実務を経験していれば、進歩性の議論の中で耳にすることはあるだろうし、実際に拒絶理由対応の意見書で使ったことがある人もいるだろう。(私自身はというと、今のところは「容易の容易」という言葉を意見書で使ったことはない。)
 安直に言えば、「容易に想到する発明からさらに容易に想到する発明は、容易に想到する発明ではない」という主張であり、主引用発明に複数の副引用発明を組合せて本願発明に想到するときに使われる主張であり、概念的に図示すれば、以下のようになる。

 

 ここで、忘れないで頂きたい点は、いずれの組合せも、個々で見れば「容易に想到する」という点である。

 そもそも、主引用発明から第1組合せ発明に想到することや、第1組合せ発明から第2組合せ発明に想到することが容易でなければ、進歩性が認められるのは当然であり、「容易の容易」という概念の中に組み込む必要はないだろう。主引用発明と本願発明との相違点のうちの1つでも容易に想到しない相違点があれば、進歩性は認められるというだけの話だからである。(また、これらのケースを正確に表現するならば、「容易の容易」ではなく、「非容易の容易」や「容易の非容易」であろう。)

 言わずもがなではあるが、進歩性の審査において、複数の副引用発明を組合せることが一律に認められない(=進歩性がある)と判断されるわけでないことは、これまでの審査や判例実務からも明らかである。
 通常は、それぞれが「容易に想到する発明」である複数の発明を組み合わせても、だからといって容易想到性が高くなるということにはならないだろう。例えば、テストに、同じレベルの複数の問題があったからといって、時間は掛かるがテスト自体の難易度は上がらない。しかしながら、この通常の場合とは異なり、「容易の容易」といえる場合には、複数の発明の組合せによって「発明の容易想到性」が高くなり、結果的に進歩性が認められるのである。

 なかには、複数の副引用発明の組合せを、直列型と並列型に分類し、直列型を「容易の容易」と捉える説明がされていることもあるが、私個人としては、この捉え方にはあまり有意性を見い出せない。理由は、直列と並列の境界が曖昧だからである。並列型と評しているケースを直列型と捉えることはできるし、直列型と評しているケースを並列型と捉えることもできてしまう。「なんとなく」言わんとしたいことはわかるが、明確な定義を持たない分類は、分類としての用を十分に成すことができないのである。

 あえて、他の何かにたとえてイメージするとしたら、数学(算数)のテスト問題をイメージすると掴みやすいかもしれない。たとえば、同じレベルの問題(二桁の足し算)が複数あったからといって、そのテストの難易度は上がらないだろう。正答率が50%だとしたら、問題が2問あっても10問あっても、テストの点数は100点満点中50点である。総合的な難易度が上がらないのであれば、いくつの問題(副引用発明)を用意した(組み合わせた)ところで、脳は疲れるかもしれないが難易度(容易性)に影響はない。
 一方で、1問目の答えを利用して2問目の問題を解くような問題で、2問目まで解けないと得点にならない場合を考えてみると、各問題の正答率が50%でも、この問題の正答率は50%にはならない(25%になる)。
 このように、同じ2つの問題を用意するテストであっても、2つ目の問題(2つ目の副引用発明の組合せ)が、1つ目の問題(1つ目の副引用発明の組合せ)を前提として解かなければならない場合には、難易度(容易性)に影響することになる。
 それぞれが同じレベルの問題である必要はないが、「容易の容易」を後者のようにイメージすると、捉えやすくなるかもしれない。(正確性はさておき)

 平成27年(行ケ)第10149号は、「容易の容易」を判断した事例であり、「容易の容易」を把握するために欠かすことのできない重要な判例といえるだろう。この事件で裁判所は、「容易の容易」という形態に一つの解を示した。
 平成27年(行ケ)第10149号で裁判所は「…周知技術3は,シェルの上部が密閉されていることを前提として,…課題を解決するための手段である。引用例1には,シェルの上部が密閉されていることは開示されておらず,よって,当業者が引用発明1自体について上記課題を認識することは考え難い。当業者は,前記のとおり引用発明1に周知例2に開示された構成を適用して「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」という構成を想到し,同構成について上記課題を認識し,周知技術3の適用を考えるものということができるが,これはいわゆる「容易の容易」に当たるから,…容易想到性を認めることはできない。」

 弁理士の高橋政治先生の言葉を借りれば※1、平成27年(行ケ)第10149号の裁判所の判断を一般化すると「主引用発明に副引用発明1を適用し、さらに別の副引用発明2を適用する場合において、副引用発明2を適用する(動機付けとしての)課題を、主引用発明に副引用発明を適用してなる発明からは認識できるものの、主引用発明からは認識できないのであれば、副引用発明2を適用することは容易ではない。」ということになり、これがいわゆる「容易の容易」に該当するケースということになる。

 私も、本件をきっかけに詳細に検討するまでは、「容易の容易」について高橋先生と同様の理解を持っていた。

 副引用発明2を適用するための動機となり得る「課題」が、「主引用発明からは認識できず、主引用発明に副引用発明1を適用した発明において認識できる課題」であるか否かを判断し、「YES」であれば、「容易の容易であるため、進歩性がある」という論理が成立するものと考えていた。

 しかしながら、本件は、この論理が成立しなかった事例ということができる。

 本件では、まず、主引用発明に「周知の事項1」を適用したが、この「周知の事項1」は、「ハウジングの内壁に、環状薄肉部を全周にわたって形成する」という事項を含んでいた。そして、さらに適用する「周知の事項2」は、「段付き部(厚肉部と薄肉部によって形成される部分)を形成する際にプレス装置を用いる」という事項であった。
 つまり、環状薄肉部を形成しなければ、段付き部は形成されないため、「周知の事項2」を適用する動機は、「主引用発明に周知の事項1を適用した発明」においては生じ得るものの、そもそも段付き部が形成されていない主引用発明においては、段付き部をどのようにして形成するかという課題など生じようがないのである。

 そのため、本件で知財高裁が採った進歩性判断における論理付けの流れは、引用発明に周知の事項1を適用する動機付けを判断した上で、さらに、周知の事項2の引用発明への適用において「周知の事項1を適用した引用発明の課題」を認定し、周知の事項2が当該課題の解決手段となることを認定して、「周知の事項1を適用した引用発明に周知の事項2を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である」という結論を導くものとなっており、平成27年(行ケ)第10149号の判例から一般化された「容易の容易」の該当例に真っ向から反するものとなったのである。

 「容易の容易」とは何か。その本質を見極めるためには、今一度、考えを見つめ直す必要が出てきたのである。

 裁判所も最近は「容易の容易」という言葉を使わずに進歩性を判断しているように感じられ、実際に進歩性判断をしていく中で、本件のように当てはまらない事例が出てくることから、この論理の体系化が難しいと感じているのかもしれない。

 しかしながら、進歩性があると主張できる「容易の容易」論は何か、その答えに近付くこと自体は、権利化/無効化を検討する上で非常に有益なはずである。よって、無謀にも「容易の容易」の分水嶺の検討を試みたわけである。
 そして、今回の検討(事例分析および本質論からのアプローチ)によって、「容易の容易」の分水嶺を見極めるために、平成27年(行ケ)第10149号で示された判断要素に加えて、さらに必要な判断要素があるという結論に至った。以降の「詳細な検討」では、この点を詳細に説明する。

 なお、今回、「容易の容易」の分水嶺がどこにあるのかを検討するに当たり、本件以外にもこれまでの判例で「容易の容易」に関連しそうな題材を集めた。題材の選定には、独自で探したものの他、弁護士の高石秀樹先生の論稿※2も参考とさせていただいた。

 候補に上がったのは、平成26年(行ケ)第10149号、平成27年(行ケ)第10094号、平成27年(行ケ)第10149号、平成28年(行ケ)第10119号、平成28年(行ケ)第10186号、平成28年(行ケ)第10265号、平成30年(行ケ)第10024号、令和2年(ネ)第10044号、令和2年(行ケ)第10144号、令和3年(行ケ)第10129号、の計10の判例である。

 また、10件の判例の内容を精査し、上述した「容易の容易」の定義に該当しないもの、つまり、「非容易の容易」や「容易の非容易」に該当するものは、考察の対象から外した。
 具体的に、主引用発明から第1組合せ発明に想到する動機がないケース(非容易の容易)として、平成28年(行ケ)第10186号、平成30年(行ケ)第10024号、及び、令和2年(行ケ)第10144号が挙げられ、第1組合せ発明から第2組合せ発明に想到する動機がないケース(容易の非容易)として、平成27年(行ケ)第10094号、及び、平成28年(行ケ)第10265号が挙げられる。その根拠となる裁判所の判断を、以下に簡単に引用しておく(特に根拠となる部分に下線を付している)。

検討除外判例1:平成28年(行ケ)第10186号
「エ 引用発明1に引用発明2を組み合わせることについて
 …引用発明1と引用発明2は,いずれも色彩記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料を使用してはいるが,…両発明は,その構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なるものといえる。したがって,当業者において引用発明1に引用発明2を組み合わせることを発想するとはおよそ考え難い
 オ 相違点5に係る本件発明1の構成の容易想到性について
 (ア) 前記エのとおり,当業者が引用発明1にこれと構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なる引用発明2を組み合わせることを容易に想到し得たとは考え難く,よって,相違点5に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たとはいえない。

検討除外判例2:平成30年(行ケ)第10024号
「4 取消事由2(本件発明1について,甲3文献を主引例とし,甲2文献及び甲4文献を副引例とする進歩性判断の誤り)について
 …(2) 原告は,甲3発明に甲4技術事項を適用し,さらに甲4技術事項を適用した甲3発明に原告主張甲2技術事項を適用して,本件発明1を容易に想到することができた旨主張するので,同主張について検討する。
 …,甲3発明は,…サーボ・パターンによって何等かの情報を符号化して埋め込むことについての記載はなく,また,そのような符号化が必要であるとの示唆もなく,ましてや,サーボバンド識別情報を同一のサーボバンド内に符号化することの必要性についての示唆はない。
 …したがって,甲3発明にサーボバンド上に各種の情報を符号化する技術である甲4技術事項やサーボバンド識別情報を同一のサーボバンド内に符号化する技術である原告主張甲2技術事項を適用する動機付けがあると認めることはできない。

検討除外判例3:令和2年(行ケ)第10144号
「エ 相違点B1-1に関する容易想到性について
 …甲1に記載された発明は,…専らビタミンに係る課題が指摘されているのであるから,上記各段落の記載に接した当業者においては,甲1でその解決が検討されている課題は,欠乏症が問題となる「微量元素やビタミン」のうちビタミンを対象とするものと理解するというべきである。
 …そもそも輸液の投与前に微量元素を何らかの形で輸液容器の構成の中に組み込んでおくこと自体が想定されていないのであるから,同段落の記載が,微量元素を収容した容器をあらかじめ2室バッグの一方の室に収納することについて,示唆したり動機付けたりするものであるとはいえない
 そして,…バッグインバッグの構成が有する技術的意味を溶液の具体的な組成との関係では必ずしも明らかにしていないというべきであるから,同図から,上記のとおりビタミンと直ちに同様には取り扱うことができない微量元素について,その収容方法に関して何らかの示唆や動機付けがされるともいえない。
 その他,甲1に,微量金属元素についてバッグインバッグの構成を採用することの示唆や動機付けがあるとみるべき事情は認められない。

検討除外判例4:平成27年(行ケ)第10094号
「(2) 相違点の容易想到性について
 ア 引用発明1に引用発明2を適用したとしても,…引用発明1の主カバー12に固定された各土付着防止部材20は,その固定位置全てが隣接する他の土付着防止部材20と互いに重なるようにはなるものの,引用発明1の後部カバー13に引用発明2の弾性部材23として設けられた土付着防止部材20は,その進行方向前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるものではないから,本件発明1には至らない。
 …引用例2には,…前端部23aが飛散した土の侵入を防止するという作用効果を奏するのは,前端部23aがブラケット19に密着しているからであり,前端部23aを更に前方に延設して低摩擦係数の部材14と重ね合わせた状態にするのは,その作用効果を強めるためである。
 ここで,仮に,弾性部材23の前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がったとすると,…前端部23aは,下方,すなわち,ブラケット19との密着を保つことが困難になる方向に移動することになる。…上記の作用効果が減殺されることは,明らかである。
 …したがって,引用発明2の弾性部材23について端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のものに変更することは,引用発明2の目的に反する
 …そうすると,引用発明2において,弾性部材23の前方側の端部寄りの部分を自重で垂れ下がるようにすることには,そもそも阻害要因があると認められる。当業者が適宜になし得る程度のものということはできない。

検討除外判例5:平成28年(行ケ)第10265号
「ウ 引用例3事項を適用する動機付け
 …当業者は,引用発明Aが検知の対象とするタグに,盗難防止装置に使用されるものであって,警報動作の開始及び終了の作用機序が共通し,さらに作動能力が拡張された引用例3事項の付け札を適用する動機付けがあるというべきである
 エ 引用例3事項を適用した引用発明Aの構成
 …引用発明Aに引用例3事項を適用しても,相違点2に係る本件訂正発明8の構成に至らないというべきである。
 オ 本件審決の判断について
 …本件審決は,引用発明Aに引用例3事項を適用するに当たり,周知技術を考慮して変更した引用例3事項を適用することによって,本件訂正発明8を容易に想到することができるとするものである。…本件審決の上記判断は,直ちに採用できるものではない。
 (ウ) 引用例3事項の変更について
 a 引用発明A及び引用例3事項の内容
 …引用発明Aにも引用例3にも,審決認定周知技術を適用する示唆はないから,仮に審決認定周知技術が認められたとしても,引用発明Aに引用例3事項を適用するに当たり,審決認定周知技術を前提に,引用例3事項の構成を変更しようとは考えないというべきである。」

※1 弁理士・技術士 高橋政治のサイト「2017年10月18日 【進歩性】副引用発明が2つある場合、『「容易の容易」は容易ではないから進歩性がある』と言えるのか?」より引用
※2 高石 秀樹「「容易の容易」の射程範囲(第三の公知文献の位置付け)」パテント2018 Vol.71 No.13

4.本件のより詳細な考察

4-1.「容易の容易」の分水嶺はどこか
(イ)事例の分析
(ロ)本質論からのアプローチ
(ハ)第1発明工程の介在からみる「容易の容易」の分水嶺

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