特許実務のすすめ(無料公開版)

判例から得られた学びを実務に直結させるべく「実務からの逆引き」を可能としたページです。項目(実務内容)を選択すると「ヒント集」がオープンします。

出願

曖昧表現(略~、約~など)を用いた請求項

令和4年(行ケ)第10019号は、請求項において「略多角形」という言葉を用いて発明の特徴部分を表現したことで明確性要件違反とされた事例である。本件では、従来の「略でない多角形」形状を「略多角形」とすることで発明の効果が奏すると説明された特許出願であった。知財高裁は、「略多角形」が発明の作用効果の有無を分けること、及び、「略多角形」と「略でない多角形」のいずれもが発明の作用効果の発生に関わる特徴である「角の丸み」を有し得ることから、発明の効果を奏する形状と、そうでない形状とを客観的に区別できず、発明の技術的範囲が不明確であるとして、明確性要件違反と判断した。
・チェックポイント
①曖昧表現(略~など)を用いる部分が従来技術と相違する本願発明の特徴部分か
②「略A」も略でない「A」も、発明の効果(課題解決)に関係する特性を有するか
→①と②が共にYESの場合、明確性要件違反となるリスクが高くなる

明細書に直接記載のない請求項の作成(補正/分割時)

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先行調査文献との差別化/特許性を上げる工夫

発明の表現の幅(請求項の記載の幅)を拡げる

令和3年(行ケ)第10111号は、「レーザ加工装置」の発明において、加工対象物が「シリコンウェハである」という発明特定事項が「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハである」という発明特定事項へと訂正され、対象物が「溝が形成されていないシリコンウェハであること」によって進歩性が認められた事案である。
利用対象物を記載しておくと、後の審査で有利に働く可能性がある。
(本件では、明細書に直接の記載はなかったが、明細書や図面等の記載全体から「溝が形成されていないシリコンウェハ」を加工対象としていることが認識できるため認められたが、常に認められる保証はないので、明細書作成時に「発明対象」の外側まで意識して、特徴を捉えようとするのがよい)

<明記型の除くクレーム>
「除くクレーム」によって除外される対象が明細書等に記載されており、かつ、その対象が除かれ得ることも明細書等に記載されている
<非明記型の除くクレーム>

「除くクレーム」によって除外される対象が明細書等に記載されていないか、あるいは、除外される対象が記載されていても、その対象が除かれ得ることが明細書等に記載されていない

∵「除くクレーム」によって「除かれない発明」と「除かれる発明」の間で、発明の技術的意義の違いが生じる場合(除かれない発明が除かれる発明に対して更に技術的意義を有する場合)は、非明記型で「除くクレーム」にすると、「新たな技術的事項を導入したもの」となり、新規事項の追加と判断されるリスクが高い。一方で、出願時に明細書に記載する「明記型の除くクレーム」であれば、明細書に根拠記載がある以上、新規事項の追加とは判断されない。

発明の技術性を高める(進歩性を出しやすくする)

令和4年(行ケ)第10029号は、「課題」との関係から、本願発明についての「技術的な一体不可分」の主張を容れず、引用発明については「技術的な一体不可分」を認めた事例である。
本願発明の認定において「「ヘイズ値、内部ヘイズ値、及び、輝度分布の標準偏差」の三つの光学的特性が、技術的に一体不可分である」との主張に対して知財高裁は、ギラツキの抑制という課題との関係で「ギラツキと内部ヘイズ値が技術的に一体不可分であるとはいえない」と判断した。
一方で、引用発明の認定においては、ギラツキの防止という課題との関係で、「ギラツキと技術的に一体不可分である凹凸の形状を規定するものであり、内部ヘイズ値と表面ヘイズ値が技術的に一体不可分である」と判断した。

※単に、複数の技術が同じ課題の解決に寄与するというのではなく、複数の技術が一体となることで課題の解決に寄与すること=密接に関係していること、を説明しておくべきであることに注意
なお、学術的に「ヘイズ値=内部ヘイズ値+表面ヘイズ値」という関係にあるが、本願発明の認定でヘイズ値と内部ヘイズ値の技術的な一体不可分が認められなかったことからすると、複数の技術が学術的に密接に関係していることは、決め手にならないものと推察されることにも留意

「予測できない顕著な効果」を示す

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記載要件に対する工夫

サポート要件を不利に判断されないための配慮

令和5年(行ケ)第10020号で、知財高裁は、明細書の段落【0012】~【0015】に記載されていた請求項のコピー記載を挙げて、「本件各発明は、いずれも、形式的には本件明細書の【0012】~【0015】に記載されているといえるところ、本件明細書の発明の詳細な説明の記載、示唆及び本件出願日当時の技術常識に照らし、当業者において、本件各発明の構成を採用することにより本件各発明の課題を解決できると認識できるかを順に検討する。」と述べ、実施形態の記載に基づいて、サポート要件の充足性を判断した。
つまり、形式的な記載によってサポート要件が充足されるわけではなく、実施形態や実施例の記載から、本質的にサポートされているかを判断しているものと理解できる。

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サポート要件を満たす発明範囲を拡げる工夫

令和4年(行ケ)第10059号は、訂正後の請求項1が、明細書に記載されるどの実施例にも該当しなくなったが、サポート要件が認められた事例である。
本件で知財高裁は、「当業者において、本件明細書で説明された成分調整の方法に基づいて、参考例を起点として光学ガラス分野の当業者が通常行う試行錯誤を加えることにより本件発明1の各構成要件を満たす具体的組成に到達可能であると理解できるときには、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らし課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。」と判断し、本件明細書に、各パラメータが光学ガラスの特性に与える影響が記載されていたことから、これらの記載を基に通常行う試行錯誤の範囲で、本件発明1(訂正後の請求項1に係る発明)に到達できると解してサポート要件が認められた。

※明細書に記載された「発明に至る道程の説明(本件では「成分調整の方法」)」は、当業者の通常行う試行錯誤で「発明」に到達できる程度の「具体性」が必要とされる点に留意すべきである。

発明の課題(作用/効果)

記載要件への対応

PBPクレームとしての「明確性」

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権利化

<判断基準>

判旨より「補正」の立法趣旨を抜粋
「特許法は,補正について「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」しなければならないと定めることにより,出願当初から発明の開示が十分に行われるようにして,迅速な権利付与を担保し,発明の開示が不十分にしかされていない出願と出願当初から発明の開示が十分にされている出願との間の取扱いの公平性を確保するととともに,出願時に開示された発明の範囲を前提として行動した第三者が不測の不利益を被ることのないようにし,さらに,特許権付与後の段階である訂正の場面においても一貫して同様の要件を定めることによって,出願当初における発明の開示が十分に行われることを担保して,先願主義の原則を実質的に確保しようとしたものであると理解することができる」

補正

<判断基準>2号「特許請求の範囲の減縮」

令和3年(行ケ)第10111号は、「拒絶理由を発見しない請求項」に従属する請求項を新たに増やす補正が、目的要件に違反しているため認められなかった事例である。
知財高裁は、「同法17条の2第5項の趣旨は、拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判の請求と同時にする特許請求の範囲の補正について、既に行った先行技術文献調査の結果等を有効利用できる範囲内に制限することにより、迅速な審査を行うことができるようにしたことにあるものと解される。このような同項の趣旨及び同項2号の文言に照らすと、補正が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するというためには、補正後の請求項が補正前の請求項の発明特定事項を限定した関係にあることが必要であり、その判断に当たっては、補正後の請求項が補正前のどの請求項と対応関係にあるかを特定し、その上で、補正後の請求項が補正前の当該請求項の発明特定事項を限定するものかどうかを判断すべきものと解される。また、補正により新しい請求項を追加する増項補正であっても、補正後の新しい請求項がそれと対応関係にある補正前の特定の請求項の発明特定事項を限定するものであれば、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するものと解される。」と述べ、増項補正が認められる場合があるとしたものの、本件では、上記判断基準に適合しないため、認められなかった。
※「拒絶理由を発見しない請求項」に従属する請求項であっても(審査の迅速性が損なわれないように思えても)、この判断基準に合わない場合は認められない。

訂正

<趣旨>

下記判旨抜粋の他、補正の目的要件との趣旨の違いについては「コラム:「補正の目的要件」と「訂正の目的要件」」も参考

判旨抜粋
「訂正審判は、特許登録後に、特許権者が願書に添付した明細書等を自ら訂正するために請求する審判であるところ(特許法126条1項)、特許権は登録によりその権利の範囲が確定するものである上、訂正には遡及効があることから(同法128条)、恣意的にその内容の変更を認めるべきではなく、他方、特許権の一部に無効事由、記載の誤り、記載の不明瞭等の瑕疵がある場合、その瑕疵を是正して無効理由や取消理由を除去することができなければ特許権者に酷であり、不明確、不明瞭で権利範囲があいまいな特許権を放置しておくことは第三者にとっても好ましくないことから、特許権者と社会一般の利益の調和点として訂正審判の規定が設けられたものである。
 そして、特許法126条1項の規定は、同項柱書本文に続くただし書が「ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。」として同項1号~4号が掲げられていることから、同項の訂正が同項1号~4号を目的とするものに限られることは明らかである。これは、上記の訂正審判の趣旨から、訂正により第三者を害することがないよう、訂正が認められる範囲を厳格に制限したものと解される。」

発明の認定が適切であったか

<判断基準>請求項の記載の意味内容

令和4年(行ケ)第10007号で知財高裁は、「本願発明は、通常の意味内容により特許請求の範囲の記載を解釈するならば、冷媒量が特に多い「ビル用」のマルチエアコン(ビル用マルチ)に特定されているとは認められない。」と判断した上で、「仮に特許請求の範囲の記載の意味内容が、明細書又は図面において、通常の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されていれば、通常の意味内容とは異なるものとして解される余地はあるので、この点について検討すると、本願明細書等の記載をみても、本願発明のマルチエアコンがビル用に限定されている旨の定義又は説明を見出すことはできない。」と判断して、本願発明について、特許請求の範囲の記載の意味内容を、通常の意味内容とは異なるものとして解さなければならない理由はないと結論付けた。

「解される余地はある」と述べていることから、知財高裁の考えは、明細書等に定義/説明があれば常にそちらが優先されるというものでないことに注意。原則は「通常の意味内容」であり、「明細書等の定義/説明に基づく意味」はあくまで例外という位置付けになっている

「用語の意義」からアプローチする

「発明の用語の意義」の間接的当てはめ>
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「技術的な一体不可分」を利用する

技術的な一体不可分>
発明の認定において、「複数の構成要素(技術要素)」を「一つのまとまった技術=構成要件」と捉え、これらを分離して扱うべきではないとする論理
※「技術的な一体不可分」は、「課題(効果)」との関係で、その技術が密接に関係していることを主張すると認められやすい。具体的に、「課題1と技術Aとが密接な関係にあること、及び、同課題1と技術Bとが密接な関係にあること、技術AとBが一体的な関係で課題の解決に寄与していること」を主張するとよい。

令和4年(行ケ)第10029号は、「課題」との関係から、本願発明についての「技術的な一体不可分」の主張を容れず、引用発明については「技術的な一体不可分」を認めた事例である。
本願発明の認定において「「ヘイズ値、内部ヘイズ値、及び、輝度分布の標準偏差」の三つの光学的特性が、技術的に一体不可分である」との主張に対して知財高裁は、ギラツキの抑制という課題との関係で「ギラツキと内部ヘイズ値が技術的に一体不可分であるとはいえない」と判断した。
一方で、引用発明の認定においては、ギラツキの防止という課題との関係で、「ギラツキと技術的に一体不可分である凹凸の形状を規定するものであり、内部ヘイズ値と表面ヘイズ値が技術的に一体不可分である」と判断した。

なお、学術的に「ヘイズ値=内部ヘイズ値+表面ヘイズ値」という関係にあるが、本願発明の認定でヘイズ値と内部ヘイズ値の技術的な一体不可分が認められなかったことからすると、複数の技術が学術的に密接に関係していることは、決め手にならないものと推察されることにも留意

<判断基準>

事案の概要
発明の詳細な説明には「Raリパーゼ」を前提とした発明が説明されている一方で、請求項には「リパーゼ」と記載されていた。最高裁は、特段の事情がない以上、請求項の「リパーゼ」をRaリパーゼに限定して解釈することは、本願発明の要旨認定として誤りであると判断した。

<判断基準>引用発明の認定

令和4年(行ケ)第10007号は、引用発明の認定の基本的な考えが示された事例である。本件で知財高裁は、「引用発明の技術内容は、引用文献の記載を基礎として、客観的かつ具体的に認定・確定されなければならず、引用文献に記載された技術内容を、本願発明との対比に必要がないにもかかわらず抽象化したり、一般化したり、上位概念化したりすることは、恣意的な判断を容れるおそれが生じるため、原則として許されない。他方、引用発明の認定は、これを本願発明と対比させて、本願発明と引用発明との相違点に係る技術的構成を確定させることを目的としてされるものであるから、本願発明との対比に必要な技術的構成について過不足なく行われなければならず、換言すれば、引用発明の認定は、本願発明との対比及び判断を誤りなくすることができるように行うことで足りる。」と述べられた。

引用発明を、抽象化、上位概念化して認定することにより、引用発明に記載されていない技術的思想を認定すること許されない
※引用発明は、常に刊行物に書かれたとおりの具体的な構成として認定しなければならないとする理由はなく、本願発明との対比及び判断を誤りなくすることができるように、本願発明に示された技術的思想と対比する上で必要な限度で、刊行物の記載に基づいて、そこに示された技術的思想を表す構成を認定すること許される

<判断基準>「刊行物に記載された発明」の認定(全ての技術分野に共通)

判決より抜粋
「特許法29条1項は、同項3号の「特許出願前に・・・頒布された刊行物に記載された発明」については特許を受けることができないと規定し、同条2項は、同条1項3号に掲げる発明も含め、「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたとき」については特許を受けることができないと規定するものであるところ、上記「刊行物」に物の発明が記載されているというためには、同刊行物に当該物の発明の構成が開示されていることを要することはいうまでもないが、発明が技術的思想の創作であること(同法2条1項)に鑑みれば、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技術的思想が開示されていることを要するものというべきである。」

<判断基準>「刊行物に記載された発明」の認定(化学分野)

判決より抜粋
「特に、少なくとも化学分野の場合、化学物質の化学式や名称を、その製造方法その他の入手方法を見いだせているか否かには関係なく、形式的に表記すること自体可能である場合もあるから、刊行物に化学物質の発明としての技術的思想が開示されているというためには、一般に、当該化学物質の構成が開示されていることに止まらず、その製造方法その他の入手方法を理解し得る程度の記載があることを要するというべきである。また、刊行物に製造方法その他の入手方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見いだすことができることが必要であるというべきである。」

本願発明に記載されていない構成を含めた「引用発明」の認定

詳細は、参考コラム記事に記載

<拡張型の「技術的な一体不可分」>
本願の請求項に記載された構成要素に対応する引用文献の構成のみを対象に「技術的な一体不可分」を主張するのではなく、対応する構成要素が本願の請求項に記載されていない引用文献の構成も含めて「技術的な一体不可分」を主張すること(→そこから引用発明間の組合せが適切でないとの主張に繋げる

令和4年(行ケ)第10029号では、本願発明に「ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値であり、内部ヘイズ値が0.5%以上8.0%以下の範囲の値であり」との発明特定事項はあったが、「表面ヘイズ値」については記載されていなかった。
前審で特許庁が、本願発明の「内部ヘイズ値が0.5~8.0%」との発明特定事項に対して、引用文献の「内部ヘイズ値は5~30%である」との開示があることから進歩性がないと判断したのに対し、知財高裁は「表面ヘイズ値と切り離して内部ヘイズ値を調整することは示唆されておらず、引用文献において表面ヘイズ値と内部ヘイズ値は技術的に一体不可分である」とした上で、本願発明と引用文献とに共通するヘイズ値(=表面ヘイズ値+内部ヘイズ)が「60%」であることから、「ヘイズ値が60%の場合に、引用文献に記載される表面ヘイズ値の範囲(22~40%)において、内部ヘイズ値を20%以下とすることはできない」ため、進歩性がないとの判断は誤りであるとした。

相違点の認定が適切であったかの検討

論理付けの判断が適切であったかの検討

動機の有無

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設計的事項

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阻害要因

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「容易の容易」

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予測できない顕著な効果があるかの検討

<判断基準>

判決抜粋
「原審は,結局のところ,本件各発明の効果,取り分けその程度が,予測できない顕著なものであるかについて,優先日当時本件各発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か,当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から十分に検討することなく,本件化合物を本件各発明に係る用途に適用することを容易に想到することができたことを前提として,本件化合物と同等の効果を有する本件他の各化合物が存在することが優先日当時知られていたということのみから直ちに,本件各発明の効果が予測できない顕著なものであることを否定して本件審決を取り消したものとみるほかなく,このような原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。」

請求項の補正/訂正の検討

令和3年(行ケ)第10111号は、発明対象である「レーザ加工装置」の請求項において、レーザ加工装置そのものの構成ではなく、その「加工対象物」を限定する訂正によって、発明の進歩性が認められた事例である。
本件では、加工対象物が「シリコンウェハである」との発明特定事項から「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハである」へと訂正された。
知財高裁は、この訂正について「加工対象物のみを特定する事項にとどまらず、レーザ加工装置自体についてもその構造、機能を特定する意味を有するものと解するべきである」と述べた。また、進歩性判断では、主引用文献において「切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハを採用する動機はなく、むしろ阻害事由がある」と判断し、進歩性が認められた。

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<判断基準>(一般)

実施可能要件の立法趣旨(判決より抜粋)
「特許法36条4項1号は、特許による技術の独占が発明の詳細な説明をもって当該技術を公開したことへの代償として付与されるという仕組みを踏まえ、発明の詳細な説明の記載につき、実施可能要件を定める。このような同号の趣旨に鑑みると、明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足するためには、当該発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、特許を受けようとする発明の実施をすることができる程度の記載があることを要するものと解される。」

令和4年(行ケ)第10124号は、「「卵パックを移載するロボット」とは別個の装置(専用の構成)として実現することは、技術的には容易であり、明細書に具体的な開示がなくても、当業者であれば技術常識に基づいてさほどの困難を伴うことなくこれを実施できるといえる。」と述べ、「明細書に具体的な開示がないことから直ちに実施可能要件違反とはならず、実施に「困難性」がないことを、実施可能要件充足の根拠とした事例である。

<判断基準>(一般)

サポート要件の立法趣旨(判決より抜粋)
「特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。
 特許法旧36条5項1号の規定する明細書のサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。」

<判断基準>要求される記載の程度

判決より抜粋
「サポート要件を充足するには,明細書に接した当業者が,特許請求された発明が明細書に記載されていると合理的に認識できれば足り,また,課題の解決についても,当業者において,技術常識も踏まえて課題が解決できるであろうとの合理的な期待が得られる程度の記載があれば足りるのであって,厳密な科学的な証明に達する程度の記載までは不要であると解される。なぜなら,まず,サポート要件は,発明の公開の代償として独占権を与えるという特許制度の本質に由来するものであるから,明細書に接した当業者が当該発明の追試や分析をすることによって更なる技術の発展に資することができれば,サポート要件を課したことの目的は一応達せられるからであり,また,明細書が,先願主義の下での時間的制約の中で作成されるものであることも考慮すれば,その記載内容が,科学論文において要求されるほどの厳密さをもって論証されることまで要求するのは相当ではないからである。」

<判断基準>「課題」の認定

判旨を抜粋
「原告は、本件発明は従来技術()と比較して課題を解決する新たな部分を有さないとして、本件発明1~13の構成は、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えたものとしてサポート要件違反になる旨主張する。
 しかし、サポート要件の趣旨は、明細書の発明の詳細な説明に当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載することにより、発明の詳細な説明に記載していない発明が特許請求の範囲に記載され、公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生し特許制度の趣旨に反することを防止することにあるのであって、…特許請求の範囲に記載された発明が従来技術と比較して課題を解決する新たな部分を有するか否かは、サポート要件の判断において考慮すべきものではない。」

原告の主張は以下の通り
「本件審決は、本件発明により「本発明は、薄型、防水、節電、インスト
ールしやすい、及び、バッテリー交換が便利であるワイヤレススカッフプ
レートを提供することを目的とする」(本件明細書【0006】)との課
題の解決が実現できると認識できる旨認定しているが、「節電」は甲1公
報の発明により解決済みの課題である。
 …そうすると、本件発明は、従来技術と比較して発明の課題を解決する新たな部分を有さないから、少なくとも「節電」可能なワイヤレススカッフプレートを提供するという課題を解決できないことになる。
 なお、サポート要件の判断に当たっては、課題を解決できるか否かが重要な判断要素であるところ、発明の課題は従来技術との比較で検討されるものであるから、本件発明と従来技術との比較はサポート要件の判断に影響するというべきである。」

判旨を抜粋
「発明が解決しようとする課題は,一般的には,出願時の技術水準に照らして未解決であった課題であるから,発明の詳細な説明に,課題に関する記載が全くないといった例外的な事情がある場合においては,技術水準から課題を認定するなどしてこれを補うことも全く許されないではないと考えられる。
 しかしながら,記載要件の適否は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載に関する問題であるから,その判断は,第一次的にはこれらの記載に基づいてなされるべきであり,課題の認定,抽出に関しても,上記のような例外的な事情がある場合でない限りは同様であるといえる。
 したがって,出願時の技術水準等は,飽くまでその記載内容を理解するために補助的に参酌されるべき事項にすぎず,本来的には,課題を抽出するための事項として扱われるべきものではない(換言すれば,サポート要件の適否に関しては,発明の詳細な説明から当該発明の課題が読み取れる以上は,これに従って判断すれば十分なのであって,出願時の技術水準を考慮するなどという名目で,あえて周知技術や公知技術を取り込み,発明の詳細な説明に記載された課題とは異なる課題を認定することは必要でないし,相当でもない。出願時の技術水準等との比較は,行うとすれば進歩性の問題として行うべきものである。)。」

<判断基準>「パラメータ発明」の場合

下記の判決抜粋から、この要件は、パラメータ発明に依らない、発明一般におけるサポート要件の判断基準①及び②のうち、②を充足するために、パラメータ発明に課される要件と解することができる。
「特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきことは説示したとおりである。そして,本件発明は,特性値を表す二つの技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を構成要件とするものであり,いわゆるパラメータ発明に関するものであるところ,このような発明において,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するためには,…(上記判断基準に続く)」

①「発明の詳細な説明に記載された発明か」

②「当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものか」

「課題」の認定

「課題を解決できると認識できるか」の判断

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<試行錯誤論(サポート要件)>
明細書に記載された内容(発明に至る道程)に基づいて、実施例をベースに、当御者が通常行う試行錯誤(=発明に至る道程の説明に従った試行)によって、当業者が到達可能な発明であれば、当該発明も「課題を解決できると認識できる範囲のもの」であるとする論理

令和4年(行ケ)第10059号では、「当業者において、本件明細書で説明された成分調整の方法に基づいて、参考例を起点として光学ガラス分野の当業者が通常行う試行錯誤を加えることにより本件発明1の各構成要件を満たす具体的組成に到達可能であると理解できるときには、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らし課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。」と判断し、全ての実施例に該当しない請求項のサポート要件が認められた。

<判断基準>

明確性要件の立法趣旨(判決より抜粋)
「特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者の利益が不当に害されることがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。」

除くクレームの類型とクレームのオープン/クローズの関係
は、下表のように、クローズドクレームにおいて「内在型の外的除外」の除くクレームは認められない可能性が高い。

∵クローズドクレームに対する「内在型の外的除外」は、発明の対象が、他の構成を有する形態を既に除外しているため、結局のところ、既に除かれている部分の中でさらに特定の部分を除こうとするものであるから、何も除いていないに等しい。

令和4年(行ケ)第10125号では、本願発明:構成A~Cに対し、引用文献には具体的に「10重量%のA、20重量%のB、48重量%のC、及び、20重量%の構成D」の発明が記載され、また、構成A~Cとは関係せずに別途「好ましくは構成Dは1~99重量%となる」と記載されていたことから、本願発明を「構成A~C(1重量%以上の構成Dを含有するものを除く)」と訂正したが、知財高裁はこの「除くクレーム」を「引用文献に記載された発明と実質的に同一であると評価される蓋然性がある部分を除外しようとするもの」と解し、新規事項の追加にも該当しないことから、訂正が認められた。

PBPクレームの明確性要件

不可能・非実際的事情 <判断基準>

判決抜粋
「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば,これにより,第三者の利益が不当に害されることが生じかねず,問題がある。すなわち,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において,その製造方法が記載されていると,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか,又は物の発明であってもその特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができず,権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり,適当ではない。
他方,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが,その具体的内容,性質等によっては,出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり,特許出願の性質上,迅速性等を必要とすることに鑑みて,特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど,出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。そうすると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく,上記のような事情がある場合には,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として特許発明の技術的範囲を確定しても,第三者の利益を不当に害することがないというべきである。
以上によれば,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。」

PBPクレームとしての「明確性」

詳細は有料版にて

無効化

<争点>発明の認定

<判断基準>請求項の記載の意味内容

令和4年(行ケ)第10007号で知財高裁は、「本願発明は、通常の意味内容により特許請求の範囲の記載を解釈するならば、冷媒量が特に多い「ビル用」のマルチエアコン(ビル用マルチ)に特定されているとは認められない。」と判断した上で、「仮に特許請求の範囲の記載の意味内容が、明細書又は図面において、通常の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されていれば、通常の意味内容とは異なるものとして解される余地はあるので、この点について検討すると、本願明細書等の記載をみても、本願発明のマルチエアコンがビル用に限定されている旨の定義又は説明を見出すことはできない。」と判断して、本願発明について、特許請求の範囲の記載の意味内容を、通常の意味内容とは異なるものとして解さなければならない理由はないと結論付けた。

「解される余地はある」と述べていることから、知財高裁の考えは、明細書等に定義/説明があれば常にそちらが優先されるというものでないことに注意。原則は「通常の意味内容」であり、「明細書等の定義/説明に基づく意味」はあくまで例外という位置付けになっている

用語の意義

「発明の用語の意義」の間接的当てはめ手法>
詳細は有料版にて

<判断基準>

事案の概要
発明の詳細な説明には「Raリパーゼ」を前提とした発明が説明されている一方で、請求項には「リパーゼ」と記載されていた。最高裁は、特段の事情がない以上、請求項の「リパーゼ」をRaリパーゼに限定して解釈することは、本願発明の要旨認定として誤りであると判断した。

<判断基準>引用発明の認定

令和4年(行ケ)第10007号は、引用発明の認定の基本的な考えが示された事例である。本件で知財高裁は、「引用発明の技術内容は、引用文献の記載を基礎として、客観的かつ具体的に認定・確定されなければならず、引用文献に記載された技術内容を、本願発明との対比に必要がないにもかかわらず抽象化したり、一般化したり、上位概念化したりすることは、恣意的な判断を容れるおそれが生じるため、原則として許されない。他方、引用発明の認定は、これを本願発明と対比させて、本願発明と引用発明との相違点に係る技術的構成を確定させることを目的としてされるものであるから、本願発明との対比に必要な技術的構成について過不足なく行われなければならず、換言すれば、引用発明の認定は、本願発明との対比及び判断を誤りなくすることができるように行うことで足りる。」と述べられた。

引用発明を、抽象化、上位概念化して認定することにより、引用発明に記載されていない技術的思想を認定すること許されない
※引用発明は、常に刊行物に書かれたとおりの具体的な構成として認定しなければならないとする理由はなく、本願発明との対比及び判断を誤りなくすることができるように、本願発明に示された技術的思想と対比する上で必要な限度で、刊行物の記載に基づいて、そこに示された技術的思想を表す構成を認定すること許される

<判断基準>「刊行物に記載された発明」の認定(全ての技術分野に共通)

判決より抜粋
「特許法29条1項は、同項3号の「特許出願前に・・・頒布された刊行物に記載された発明」については特許を受けることができないと規定し、同条2項は、同条1項3号に掲げる発明も含め、「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたとき」については特許を受けることができないと規定するものであるところ、上記「刊行物」に物の発明が記載されているというためには、同刊行物に当該物の発明の構成が開示されていることを要することはいうまでもないが、発明が技術的思想の創作であること(同法2条1項)に鑑みれば、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技術的思想が開示されていることを要するものというべきである。」

<判断基準>「刊行物に記載された発明」の認定(化学分野)

判決より抜粋
「特に、少なくとも化学分野の場合、化学物質の化学式や名称を、その製造方法その他の入手方法を見いだせているか否かには関係なく、形式的に表記すること自体可能である場合もあるから、刊行物に化学物質の発明としての技術的思想が開示されているというためには、一般に、当該化学物質の構成が開示されていることに止まらず、その製造方法その他の入手方法を理解し得る程度の記載があることを要するというべきである。また、刊行物に製造方法その他の入手方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見いだすことができることが必要であるというべきである。」

<争点>相違点の認定

<争点>論理付け

組合せの動機

<技術分野の上位化アプローチ
引用文献1の発明と引用文献2の発明の技術分野が共通するレベルにまで技術分野を上位概念化し、その技術分野の当業者の視点から動機付けを判断するアプローチ

※引用文献1及び2には、上位概念の技術分野における「課題」が記載されていない可能性が高いため、当該技術分野における周知/自明な「課題」から動機付けをアプローチすることが考えられる。

令和4年(行ケ)第10037号では、「本件公然実施発明は、空調服(技術分野A1)の技術分野に属すると認められるのに対し、甲30発明は、介護用パンツ(技術分野A2)の技術分野に属する発明であると認められるが、いずれも「被服」(技術分野A)であるという点では関連性を有する。被服の技術分野においては、2つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、そもそも2つの紐状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容易ではないとの周知かつ自明の課題(技術分野Aの課題α)が存在したものと認められる。本件公然実施発明に接した当業者は、被服の分野における周知かつ自明の課題を認識し、甲30発明がこの課題を解決する手段と認識するため動機付けが認められる。」と判断された。

<周知関連別課題の認識
引用文献に記載されている「課題」の「解決手段」が、その技術分野における「周知な課題」の「解決手段」にもなっている場合に、引用文献の「課題」と「周知な課題」の関連性や共通性から、当業者が「「周知な課題」の「解決手段」として認識することを主張する論法

令和4年(行ケ)第10037号では、「介護用パンツを履く者にとって作業が簡単ではないことから「装着の容易さ」を課題とした甲30号証における解決手段が、被服の技術分野における「2つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、そもそも2つの紐状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容易ではない」という周知かつ自明の課題を解決する手段として、当業者が認識するものと認められる」と判断され、甲30号証の直接的な課題とは異なる課題を解決する手段と認定し、組合せの動機付けが判断された。
本件では、具体的な中身は違うが「装着の容易さ」という広い意味での共通性が、課題同士の関連性といえ、「周知の課題を解決する手段としても認識される」との判断に影響したといえる。

設計的事項

技術的意義の有無判断>
本願発明の相違点に係る構成に技術的意義が無く、引用発明の相違点に係る構成に技術的意義が無いならば、引用発明の構成を本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である、と主張する

構成不足型の相違点と構成相違型の相違点
構成不足型は、「引用発明は~を有さないが、本件発明は~を有する」といった構成が足りていない相違点の類型のこと。構成相違型は「引用発明における構成は~であるが、本件発明における構成は~である」といった構成同士が異なっている類型のこと

令和4年(行ケ)第10111号では、「相違点1は、本件発明1においては、「ほぼ水平に」延びる段差部であるのに対して、甲1発明1においては、「やや下方に」延びる段差部であるが、段差部が「ほぼ水平に」延びるものとすることについて何らかの技術的意義があるとは認められず、段差部が「やや下方に」延びることに何らかの技術的意義があるとは認められず、甲1発明1において「やや下方に」延びる段差部を「ほぼ水平に」延びるように構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないというべきである。」と判断された。

<判断基準>(一般)

実施可能要件の立法趣旨(判決より抜粋)
「特許法36条4項1号は、特許による技術の独占が発明の詳細な説明をもって当該技術を公開したことへの代償として付与されるという仕組みを踏まえ、発明の詳細な説明の記載につき、実施可能要件を定める。このような同号の趣旨に鑑みると、明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足するためには、当該発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、特許を受けようとする発明の実施をすることができる程度の記載があることを要するものと解される。」

令和4年(行ケ)第10124号は、「「卵パックを移載するロボット」とは別個の装置(専用の構成)として実現することは、技術的には容易であり、明細書に具体的な開示がなくても、当業者であれば技術常識に基づいてさほどの困難を伴うことなくこれを実施できるといえる。」と述べ、「明細書に具体的な開示がないことから直ちに実施可能要件違反とはならず、実施に「困難性」がないことを、実施可能要件充足の根拠とした事例である。

<判断基準>(一般)

サポート要件の立法趣旨(判決より抜粋)
「特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。
 特許法旧36条5項1号の規定する明細書のサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。」

<判断基準>要求される記載の程度

判決より抜粋
「サポート要件を充足するには,明細書に接した当業者が,特許請求された発明が明細書に記載されていると合理的に認識できれば足り,また,課題の解決についても,当業者において,技術常識も踏まえて課題が解決できるであろうとの合理的な期待が得られる程度の記載があれば足りるのであって,厳密な科学的な証明に達する程度の記載までは不要であると解される。なぜなら,まず,サポート要件は,発明の公開の代償として独占権を与えるという特許制度の本質に由来するものであるから,明細書に接した当業者が当該発明の追試や分析をすることによって更なる技術の発展に資することができれば,サポート要件を課したことの目的は一応達せられるからであり,また,明細書が,先願主義の下での時間的制約の中で作成されるものであることも考慮すれば,その記載内容が,科学論文において要求されるほどの厳密さをもって論証されることまで要求するのは相当ではないからである。」

<判断基準>「課題」の認定

判旨を抜粋
「原告は、本件発明は従来技術()と比較して課題を解決する新たな部分を有さないとして、本件発明1~13の構成は、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えたものとしてサポート要件違反になる旨主張する。
 しかし、サポート要件の趣旨は、明細書の発明の詳細な説明に当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載することにより、発明の詳細な説明に記載していない発明が特許請求の範囲に記載され、公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生し特許制度の趣旨に反することを防止することにあるのであって、…特許請求の範囲に記載された発明が従来技術と比較して課題を解決する新たな部分を有するか否かは、サポート要件の判断において考慮すべきものではない。」

原告の主張は以下の通り
「本件審決は、本件発明により「本発明は、薄型、防水、節電、インスト
ールしやすい、及び、バッテリー交換が便利であるワイヤレススカッフプ
レートを提供することを目的とする」(本件明細書【0006】)との課
題の解決が実現できると認識できる旨認定しているが、「節電」は甲1公
報の発明により解決済みの課題である。
 …そうすると、本件発明は、従来技術と比較して発明の課題を解決する新たな部分を有さないから、少なくとも「節電」可能なワイヤレススカッフプレートを提供するという課題を解決できないことになる。
 なお、サポート要件の判断に当たっては、課題を解決できるか否かが重要な判断要素であるところ、発明の課題は従来技術との比較で検討されるものであるから、本件発明と従来技術との比較はサポート要件の判断に影響するというべきである。」

判旨を抜粋
「発明が解決しようとする課題は,一般的には,出願時の技術水準に照らして未解決であった課題であるから,発明の詳細な説明に,課題に関する記載が全くないといった例外的な事情がある場合においては,技術水準から課題を認定するなどしてこれを補うことも全く許されないではないと考えられる。
 しかしながら,記載要件の適否は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載に関する問題であるから,その判断は,第一次的にはこれらの記載に基づいてなされるべきであり,課題の認定,抽出に関しても,上記のような例外的な事情がある場合でない限りは同様であるといえる。
 したがって,出願時の技術水準等は,飽くまでその記載内容を理解するために補助的に参酌されるべき事項にすぎず,本来的には,課題を抽出するための事項として扱われるべきものではない(換言すれば,サポート要件の適否に関しては,発明の詳細な説明から当該発明の課題が読み取れる以上は,これに従って判断すれば十分なのであって,出願時の技術水準を考慮するなどという名目で,あえて周知技術や公知技術を取り込み,発明の詳細な説明に記載された課題とは異なる課題を認定することは必要でないし,相当でもない。出願時の技術水準等との比較は,行うとすれば進歩性の問題として行うべきものである。)。」

<判断基準>「パラメータ発明」の場合

下記の判決抜粋から、この要件は、パラメータ発明に依らない、発明一般におけるサポート要件の判断基準①及び②のうち、②を充足するために、パラメータ発明に課される要件と解することができる。
「特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきことは説示したとおりである。そして,本件発明は,特性値を表す二つの技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を構成要件とするものであり,いわゆるパラメータ発明に関するものであるところ,このような発明において,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するためには,…(上記判断基準に続く)」

①「発明の詳細な説明に記載された発明か」

②「当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものか」

「課題」の認定

「課題を解決できると認識できるか」の判断

構成/工程対比アプローチ>
詳細は有料版にて

<判断基準>

明確性要件の立法趣旨(判決より抜粋)
「特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする
発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮
に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が付与された発
明の技術的範囲が不明確となり、第三者の利益が不当に害されることがあり得るの
で、そのような不都合な結果を防止することにある。」

第三者の利益が不当に害される(不測の損害を被る)といえるか

令和4年(行ケ)第10019号は、請求項において「略多角形」という言葉を用いて発明の特徴部分を表現したことで明確性要件違反とされた事例である。本件では、従来の「略でない多角形」形状を「略多角形」とすることで発明の効果が奏すると説明された特許出願であった。知財高裁は、「略多角形」が発明の作用効果の有無を分けること、及び、「略多角形」と「略でない多角形」のいずれもが発明の作用効果の発生に関わる特徴である「角の丸み」を有し得ることから、発明の効果を奏する形状と、そうでない形状とを客観的に区別できず、発明の技術的範囲が不明確であるとして、明確性要件違反と判断した。
・チェックポイント
①曖昧表現(略~など)を用いる部分が従来技術と相違する本願発明の特徴部分か
②「略A」も略でない「A」も、発明の効果(課題解決)に関係する特性を有するか
→①と②が共にYESの場合、明確性要件違反が認められる可能性が高くなる

PBPクレームの明確性要件

PBPクレームとしての「明確性」

PBP特有の「明確性」判断の詳細については有料版にて

不可能・非実際的事情 <判断基準>

判決抜粋
「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば,これにより,第三者の利益が不当に害されることが生じかねず,問題がある。すなわち,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において,その製造方法が記載されていると,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか,又は物の発明であってもその特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができず,権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり,適当ではない。
他方,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが,その具体的内容,性質等によっては,出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり,特許出願の性質上,迅速性等を必要とすることに鑑みて,特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど,出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。そうすると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく,上記のような事情がある場合には,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として特許発明の技術的範囲を確定しても,第三者の利益を不当に害することがないというべきである。
以上によれば,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。」

権利行使

訴えの利益

<判断基準

特に補足はなし

請求原因の追加

<判断基準>行使する請求項の追加/変更

消滅時効

<判断基準>「損害および加害者を知った時」

判旨を抜粋
「民法七二四条にいう「加害者ヲ知リタル時」とは、同条で時効の起算点に関する
特則を設けた趣旨に鑑みれば、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもと
に、その可能な程度にこれを知つた時を意味するものと解するのが相当であり、被
害者が不法行為の当時加害者の住所氏名を的確に知らず、しかも当時の状況におい
てこれに対する賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その
状況が止み、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき、初めて「加害者ヲ知リタ
ル時」にあたるものというべきである。」

参考判例の判旨を抜粋
「民法724条前段の消滅時効の起算点は,被害者等が「損害及び加害者を知った時」,すなわち加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに,その可能な程度にこれを知った時を意味するものと解するのが相当であり(最高裁判所昭和48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照),また,違法行為による損害の発生及び加害者を現実に了知したことを要すると解されるこれを物の製造販売による特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の事案についてより具体的にいうと,被害者である特許権者が,加害者による当該物の製造販売の事実及びそれによる損害発生の事実を認識したことに加え,当該物が当該特許権に係る特許発明の技術的範囲に属することを認識したことも必要である。なぜならば,特許権者にそのような認識がなければ,加害者による当該物件の製造販売行為が自己の特許権を侵害する不法行為であることを認識することはできず,そのため,加害者に対する損害賠償請求権を事実上行使し得ないからである。」

その他 手続一般

取消訴訟における主張の制限

<判断基準>

判旨を抜粋
「法が定めた特許に関する処分に対する不服制度及び審判手続の構造と性格に照らすときは、特許無効の審判の審決に対する取消の訴においてその判断の違法が争われる場合には、専ら当該審判手続において現実に争われ、かつ、審理判断された特定の無効原因に関するもののみが審理の対象とされるべきものであり、それ以外の無効原因については、右訴訟においてこれを審決の違法事由として主張し、裁判所の判断を求めることを許さないとするのが法の趣旨であると解すべきである。
 そこで、進んで右にいう無効原因の特定について考えるのに、法…に掲げられている各事由は、いずれも特許の無効原因をなすものとしてその性質及び内容を異にするものであるから、そのそれぞれが別個独立の無効原因となるべきものと解するのが相当であるし、更にまた、同条同項一号の場合についても…これまた各規定違反ごとに無効原因が異なると解すべきである。しかしながら、無効原因を単に右のような該当条項ないしは違反規定のみによつて抽象的に特定することで足りるかどうかは、特許制度に関する法の仕組みの全体に照らし、特に法…が、前記のように、確定審決における一事不再理の効果の及ぶ範囲を同一の事実及び証拠によつて限定すべきものとしていることとの関連を考慮して、慎重に決定されなければならない。
 思うに、特許の基本的要件は、法一条に定める「新規ナル工業的発明」に該当することであり、特許すべきかどうか、又は特許が無効かどうかについて最も多く問題になるのも、右法条に適合するかどうか、なかんずく当該発明が「新規ナル」ものであるかどうかである…。すなわち、ある発明が法にいう「新規ナル」もの(以下「新規性」という。)に当たるかどうかは、常に、その当時における公知事実との対比においてこれを検討、判断すべきものとされているのである。ところが、このような公知事実は、広範多岐にわたつて存在し、問題の発明との関連において対比されるべき公知事実をもれなく探知することは極めて困難であるのみならず、このような関連性を有する公知事実が存する場合においても、そこに示されている技術内容は種々様々であるから、新規性の有無も、これらの公知事実ごとに、各別に問題の発明と対比して検討し、逐一判断を施さなければならないのである。法が前述のような独得の構造を有する審査、無効審判の制度と手続を定めたのは、発明の新規性の判断のもつ右のような困難と
特殊性の考慮に基づくものと考えられるのであり、前記法一一七条の規定も、発明の新規性の有無が証拠として引用された特定の公知事実に示される具体的な技術内容との対比において個別的に判断されざるをえないことの反映として、その趣旨を理解することができるのである。そうであるとすれば、無効審判における判断の対象となるべき無効原因もまた、具体的に特定されたそれであることを要し、たとえ同じく発明の新規性に関するものであつても、例えば、特定の公知事実との対比における無効の主張と、他の公知事実との対比における無効の主張とは、それぞれ別個の理由をなすものと解さなければならない。」

前訴判決確定後の後訴における主張の制限

<判断基準>判決の拘束力(行訴法33条1項)

判旨を抜粋
「1 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは、審判官は特許法一八一条二項の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法三三条一項の規定により、右取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は取消判決の右認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって、再度の審判手続において、審判官は、取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと、あるいは右主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができないのは当然である。
 このように、再度の審決取消訴訟においては、審判官が当該取消判決の主文のよって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上、その拘束力に従ってされた再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは、確定した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず、再度の審決の違法(取消)事由たり得ないのである(取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断の当否それ自体は、再度の審決取消訴訟の審理の対象とならないのであるから、当事者が拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断を誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返し、これを裏付けるための新たな立証をすることは、およそ無意味な訴訟活動というほかはない)。
 2 以上に説示するところを特許無効審判事件の審決取消訴訟について具体的に考察すれば、特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により、審決の認定判断を誤りであるとしてこれが取り消されて確定した場合には、再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果、審判官は同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されないのであり、したがって、再度の審決取消訴訟において、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りである(同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができた)として、これを裏付けるための新たな立証をし、更には裁判所がこれを採用して、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることが許されないことは明らかである。」

判決の拘束力の及ぶ範囲

本件の知財高裁は、進歩性判断における「論理付け(主引用発明に副引用発明を適用する動機)」が争点となり取消判決が確定した第一次(前訴)判決の「判決の拘束力」に基づき、再審理となった無効審判で「第一次判決で審理判断されなかった事項(「相違点の認定」における実質的相違点性)を主張すること」が許されないと判断した。

判旨抜粋
「確かに、乙22によると、第一次判決においては、原告が本件訴訟において取消事由1及び2として指摘する事項(相違点2又は4に係る本件発明1等の構成のうち本件構成に係る部分の実質的相違点性)についての判断がされなかったものと認められる。しかしながら5 、本件発明1等に係る甲1引用発明に基づく進歩性の判断は、本件発明1等及び甲1引用発明の各認定並びにこれを前提とする一致点及び相違点の認定を踏まえて行われる法律判断である。前記のとおり、拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、甲1引用発明に基づく進歩性欠如を否定した第一次判決の法律判断の前提となった本件発明1等と甲1引用発明との間の相違点に係る事実認定についても、第一次判決の拘束力は及ぶというべきである。したがって、本件審決の審判官が、同じ甲1引用発明に基づく進歩性の判断に当たり、第一次判決とは別異の事実を認定して異なる判断を加えることは、第一次判決の拘束力により許されず、第一次判決の拘束力に従ってされた本件審決は適法なものである。」

<判断基準>既判力(民訴法114条1項)

第一次取消訴訟において一部取消、一部請求が棄却された後に、一部取消によって特許庁に戻された再審理の場で、再度、請求棄却となった部分について同様の主張が繰り返されたことについて、第二次取消訴訟にあたる本件の知財高裁は「既判力」から主張そのものが許されないと判断した。

判旨抜粋
「前記認定のとおり、第一次判決(原告の請求を棄却した部分。以下同じ。)は、本件発明4につき、これが本件出願日前に当業者において甲1引用発明に基づき容易に発明をすることができたものとはいえないと判断して、これと同じ判断をした第一次審決を是認し、原告の請求を棄却したものである。そして、第一次判決は、その後確定したのであるから、甲1引用発明に基づき、本件発明4が進歩性を欠くとはいえないとした第一次審決に違法性がないことは、既判力をもって確定されているというべきである。
 本件で問題となっているのは、本件審決の違法性であって、第一次審決の違法性ではないが、原告が、本件訴訟において、甲1引用発明に基づき、本件発明4が進歩性を欠く旨主張(取消事由3)し、進歩性欠如を否定した本件審決の判断部分が違法である旨主張することは、実質的にみれば、第一次審決の違法性に関し既判力が生じている部分(同じ引用発明に基づき進歩性がないとはいえないとの判断)について、これと異なる判断を求めるものとして、許されないというべきである。」