2024年11月27日
不服2024-2606 | 審決日 2024/6/26 |
適用条文 | 本願商標 | 判断 |
3条1項6号 | 幸せ食感 (標準文字) | × |
- 審判1審決抜粋
- 所感
(1)商標法第3条第1項第6号該当性について
本願商標は、「幸せ食感」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中、「幸せ」の文字は「幸福。好運。」などを、「食感」の文字は「歯ごたえや舌ざわりなど、食物を口に入れた時の感覚。」を、それぞれ意味する語であって(出典:「広辞苑 第七版」株式会社岩波書店)、これらはいずれも我が国において広く使用され、理解されている語であるから、本願商標に接する需要者は、これが両語を結合したものであると容易に看取し得るものといえる。
そして、原審提示の情報や、別掲の情報にあるように、本願の指定商品を取り扱う分野において、その商品の食感を端的に表現するための語として、「幸せ食感」の文字や、これに通じる「しあわせ食感」「幸せな食感」「しあわせな食感」の文字が、広く一般的に使用されている実情が認められる。
そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する需要者は、それが商品の食感を表現するための、宣伝広告用の語句であると理解するにとどまり、自他商品の識別標識としては認識し得ないものというのが相当である。
したがって、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標というべきであるから、商標法第3条第1項第6号に該当する。
(2)請求人の主張について
ア 請求人は、本願商標よりは、その指定商品との関係で直接的かつ具体的な意味合いを看取し得るものではないから、その商品の品質や特徴を端的に表したものとまではいえず、商標全体として造語と認識されるのが相当である旨主張する。
また、請求人は、原審において提示された、「幸せ食感」「しあわせ食感」等の文字の使用事例についても、どのような食感を表現しているのか統一的ではないから、本願商標からは特定の意味合いを看取し得ない上、使用事例はいずれも他の語と一緒に記述的に使用されているものであるから、「幸せ食感」又は「しあわせ食感」の文字が単独で一般に宣伝広告に使用されているという根拠にはなり得ない旨主張する。
しかしながら、「幸せ食感」等の文字の使用事例における、個別具体的な商品の食感が統一的ではなく、本願商標がその指定商品の品質等を直接的に表したものとはいえないとしても、上記(1)のとおり、「幸せ食感」の文字や、これに通じる「しあわせ食感」「幸せな食感」「しあわせな食感」の文字は、本願の指定商品を取り扱う分野において、商品の食感を端的に表現するための語句として、それがもはや商品の出所識別標識とは認識され得ないといい得るほどに、多くの者によって一般的に使用されているものである。
また、「幸せ食感」等の文字が前後に他の語を伴わず単独で使用されていると評価できる使用事例もある(例えば、別掲(5))上、他の語を伴って使用されている事例についても、「幸せ食感」又は「しあわせ食感」の文字が商品の食感を端的に表現するための語句として使用されていることに変わりはないから、宣伝広告に使用されているという根拠になり得ないともいえない。
そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する需要者は、それが商品の食感を表現するための、宣伝広告用の語句であると理解するにとどまり、自他商品の識別標識としては認識し得ないものというのが相当である。
・3条1項6号と3条1項3号
3条1項6号は、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」によって、同項1号から5号に直接該当しないが、3条の趣旨から認めるべきでない商標の登録を拒む規定である。
本件の「幸せ食感」は、幸せな食感という、ある意味で、食感という「品質」を、「幸せ」という比喩的な表現によって表そうとするものであり、一見すると3条1項3号に該当しそうにも思えるが、食感という品質を「幸せ」という言葉で表現すること自体は、通常の手段とは言えないため、3条1項3号で本件商標を拒絶するのは難しいところがある。が、「幸せ食感」という言葉自体が、食感の程度を表わすものと需要者が受け取ることは想像に難くないだろう。
そこで、3条1項6号の出番というわけである。
・3条1項6号に該当するというために
上記3条1項6号の規定は、もう少し短くして言うと「自他商品/役務の識別力がない」ということである。そうすると、同号該当性を判断するためのアプローチも、1号~5号までとは違い、「識別力を有しているか」という点になる。(1号~5号は、一般に識別力がないといえる類型を挙げているため、類型に該当するかを判断すればよい)
本件審決は、請求人の主張に対し「指定商品を取り扱う分野において、商品の食感を端的に表現するための語句として、それがもはや商品の出所識別標識とは認識され得ないといい得るほどに、多くの者によって一般的に使用されているもの」と述べた。
このように、「幸せ食感」は、それが使用され始めた当初は識別力を有していたかもしれないが、審決時においては、もはや識別力を有さなくなっていると評価されており、こういったキャッチ―な言葉は、時間との闘い(早く出願するほど登録に有利になる)といえるため、本件の事例を挙げながら、早期の商標出願の重要性をアドバイスできるとよいだろう。
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