2024年11月15日
不服2023-3061 | 審決日 2024/6/19 |
適用条文 | 本願商標 | 判断 |
3条1項3号 | Aimer (標準文字) | × |
- 審判1審決抜粋
- 所感
第3 当審の判断
1 本願商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)商標法第3条第1項第3号が…規定しているのは、このような商標は、指定商品との関係で、その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解される。
そうすると、本願商標が、その指定商品について商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、審決の時点において、本願商標がその指定商品との関係で商品の品質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、本願商標がその指定商品に使用された場合に、将来を含め、取引者、需要者によって商品の品質を表示したものと一般に認識されるものである必要があるものと解される(知的財産高等裁判所平成27年(行ケ)第10232号同28年4月14日判決)。
そして、「レコード,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」においては、当該商品に係る収録曲を歌唱する者、又は映像に出演し歌唱している者が誰であるかは、当該商品の主要な品質(内容)に該当するものである(知的財産高等裁判所平成25年(行ケ)第10158号同年12月17日判決)。
このことは、「インターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル,録画済みの磁気カード・磁気シート・磁気ディスク・光ディスク・ビデオテープ・ビデオディスク・DVD,電子出版物」についても同様であると解される。
(2)本願商標は、前記第1のとおり、「Aimer」の文字からなるものである。…「Aimer」の文字は、その取引者、需要者によって、当該シンガーソングライターを表したものと認識されるとみるのが相当である。…したがって、本願商標は、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法第3条第1項第3号に該当する。
2 請求人の主張について
(2)請求人は、「Aimer」の文字は、生産者、取引者が一般に使用せず、また、一般に使用される性質のものではない旨主張している。
しかしながら、…著作権法では、歌手等の実演家(同法第2条第1項第4号)には、実演家人格権を含む実演家の権利が定められており(同法第89条第1項)、実演家は、その実演(著作物を・・・演奏し、歌い、・・・その他の方法により演ずること。同法第2条第1項第3号。)の公衆への提供又は提示に際し、その氏名若しくはその芸名その他氏名に代えて用いられるものを実演家名として表示し、又は実演家名を表示しないこととする権利を有しており(氏名表示権。同法第90条の2第1項。)、実演を利用する者は、その実演につき既に実演家が表示しているところに従って実演家名を表示することができ(同条第2項)、また、実演を公衆に提供し、又は提示する者は、その実演家の死後においても、実演家が生存しているとしたならばその実演家人格権の侵害となるべき行為をしてはならないこととされている(同法第101条の3)。
このように、実演家は、実演家人格権としての氏名表示権を有しており、実演を利用する者は、実演家の死後においても、実演家が生存しているとしたならばその実演家人格権の侵害となるべき行為をしてはならないとされており、このことは、実演家の権利の存続期間(実演から70年。著作権法第101条。)の満了後も同様と解される。
そうすると、「レコード」等における歌手名について、これを例えば当該歌手が所属するレコード会社や芸能事務所に商標権として独占させた場合、レコード会社や芸能事務所を移籍したときの移籍先又は実演家の権利の存続期間満了後における当該実演の利用者は、歌手名を表示した場合には商標権侵害となり、表示しなかった場合には氏名表示権を侵害することとなり、いずれにおいても、当該実演の利用ができないこととなってしまう。
してみると、「レコード」等における歌手名については、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるといえ、たとえ当該歌手が所属するレコード会社や芸能事務所であっても、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないものといわなければならない。
したがって、シンガーソングライターを認識させる「Aimer」の文字からなる本願商標は、本件指定商品においては、取引に際し必要適切な表示であり、本件指定商品おける取引者、需要者によって一般に使用されるものというべきである。
この点からも、本件指定商品においては、「Aimer」の文字は、生産者、取引者が一般に使用するものであり、一般に使用される性質のものといえる。
・歌手名の3条1項3号該当性
レコードなどの商品との関係で歌手名は「品質」。そう覚えてしまえばよいと言えばそれだけなのだが、今回あえてこの事例を紹介したのは、請求人の主張に対する審決の見解が参考になると思ったからである。
歌手と繋がりの深い法律といえば、真っ先に思い浮かぶのは商標法ではなく「著作権法」であろう。
本件で審判官は、著作権法の規定を挙げ、そこで保護される歌手(実演家)の利益(権利)との関係から、商標法による権利保護を認めることで生ずる社会の実態に即した問題を指摘し、公益上適当でないと述べた。このようなアプローチは、商標法に限らず、いろんな場面で参考になるだろうから、実務家もこういった説得力のある論理展開ができるとよいように思う。
「「レコード」等における歌手名について、これを例えば当該歌手が所属するレコード会社や芸能事務所に商標権として独占させた場合、レコード会社や芸能事務所を移籍したときの移籍先又は実演家の権利の存続期間満了後における当該実演の利用者は、歌手名を表示した場合には商標権侵害となり、表示しなかった場合には氏名表示権を侵害することとなり、いずれにおいても、当該実演の利用ができないこととなってしまう。」
また、仮に、商標法が歌手名の保護を認め、商標権が存続する限り半永久的に、上述のような実演の利用ができない事態を生み出してしまうとなると、商標法は、憲法21条の表現の自由との関係でも問題となり得るであろうし、違憲と判断される可能性も十分にあるだろう。
バックナンバーはこちらから「これまでの商標」