不服2023-10564 | 審決日 2024/7/1 |
適用条文 | 本願商標 | 引用商標 | 判断 |
4条1項11号 | 〇 (非類似) |
- 審判1審決抜粋
- 所感
4 当審の判断
本願商標は、別掲1のとおり、灰色の横長長方形の下方を円弧状に切り落とした図形を配し、当該図形の中央付近には、動物のごとき図形、その左には、ハート型の図形の下に曲線を引き一輪の花を表したような図形を描き、円弧状に切り落とした部分の上方には「フィルたん」(「ん」の文字の右端の払いの先端部分には上記ハート型の図形が描かれている。)の文字を、当該文字の下には「ワンタッチ」の片仮名を、「フィルたん」の文字よりも大きく横書きにしてなるものである。
そして、本願商標の構成中の「ワンタッチ」の片仮名は、「1回触れること。一つの操作。また、機器などの操作が極度に簡単であること。」(「広辞苑 第七版」発行者:株式会社岩波書店)を意味する語であるところ、別掲2のとおり、本願の当審補正商品の分野においては、「ワンタッチ」の語は、フィルター等の取り付け・取り外しが簡単にできる商品であることを表す際、しばしば使用されている実情からは、上記意味合いを容易に認識、理解させる語であると認められ、本願の当審補正商品との関係において、自他商品の識別標識としての機能を有さないか、あるいは、当該機能を有するとしても、その機能は非常に弱いものと判断するのが相当であり、このことは、別掲2の事例からも確認できる。
また、本願商標の構成中の「ワンタッチ」の片仮名が、取引者、需要者の間に広く認識されている等、商品の出所標識として強く支配的な印象を与えるとみるべき特段の事情もない。
そうすると、本願商標は、その構成中の「ワンタッチ」の片仮名が大きく書されているとしても、上記取引の実情にあって、これに接する取引者、需要者が、当該文字のみに着目して、取引にあたるものとはいい難い。
したがって、本願の当審補正商品と引用商標の指定商品の類否について判断するまでもなく、本願商標の構成中の「ワンタッチ」の文字を要部として分離、抽出し、その上で、本願商標と引用商標とが、称呼及び観念において類似する商標であるとして、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。
・識別力のない語が大きく表示されていても要部認定されなければ通る
本件は、本願商標をパッと見た感じと、審決の判断の間に、大きなずれがあるように感じた。
「フィルたん」の文字の小ささ、「フィルたん」の文字がその真上のキャラクターの幅に収まるように配置されている。そして、「ワンタッチ」の文字はあまりに大きく支配的である。
これらの事情を考慮すれば、一般の需要者は、「フィルたん」を、このキャラクターの名称であると読み取り、「ワンタッチ」が「フィルたんシリーズの商品名」と捉える傾向にありそうな気がする。
そうすると、「キャラクター+「フィルたん」」と「ワンタッチ」は、看る者には、分離して捉えられるのではないか。私個人は、「ワンタッチ」を分離した原査定の方が、一般の需要者の感覚に近いのではないかと思っている。
一方で、審査の仕方として眺めると「見た目の印象とは関係なく、要部認定できるか否か」によって本願商標を考えなければならない。要部認定できなければ、どれだけ「ワンタッチ」の文字が大きくても、本願商標の文字部分の称呼は「フィルたんワンタッチ」になるのである。そして「フィルたんワンタッチ」と「ワンタッチ」は非類似となる。
つまり、要部認定されるか否かが、本願商標の審査結果を分ける分岐点であり、ある意味でそこだけが論点となる。
ほぼ確実にいえることは、仮に本願商標が文字部分だけだとしたら、「フィルたん」と「ワンタッチ」は分離できるということである。
そうすると、逆説的に、図形と絡めて一体的な商標デザインとしたことで、要部認定を免れた事例ということができよう。
私には「フィルたん」はキャラクター名にしか見えないのだが。。。
不服2023-1067 | 審決日 2024/3/12 |
適用条文 | 本願商標 | 判断 |
3条1項3号 | × |
- 審判1審決抜粋
- 所感
(1)商標法第3条第1項第3号該当性について
ア 本願商標について
本願商標は、別掲1のとおり、ブロック体の「Eye」及び「Shampoo」の文字を、中心をそろえて上下二段に表し、その下方に、筆記体風の「Pro」の文字を、中心をややずらして右上がりに横書きし、当該「Pro」の文字に沿うように右上がりの下線が配されているものである(すべての構成要素は、青色で表されている。)。
そして、本願の指定商品を取り扱う業界においては、原審で示した用例のとおり、まつ毛用シャンプー又はまつ毛洗浄用化粧品が「アイシャンプー」の名称で表示され、一般に製造、販売されている実情があり(別掲2(1)~(3))、また、「Pro(プロ)」の文字は、プロ仕様の商品であるという特長を表すために、取引上一般に使用されている実情がある(別掲2(4)、(5))。
さらに、同業界において、商品の名称やその特長を、商品容器等に、書体や配置を違えて表示する例もある(別掲3)ことからすると、本願商標の態様(色彩、書体、配置)は、取引上、普通に採択されている程度のものであって、格別特異なものともいえないことから、いまだ普通に用いられる方法の域を脱していないものとみるのが相当である。
そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、プロ仕様のまつ毛用シャンプー又はまつ毛洗浄用化粧品であること、すなわち、商品の品質を表したものとして理解、認識するにとどまり、商品の出所を表示する標識又は自他商品の識別標識として認識することはないとみるのが相当である。
したがって、本願商標は、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるから、商標法第3条第1項第3号に該当する。
・普通に用いられる方法での表示-文字の書体や配置
本件は「普通に用いられる方法」をどう解すべきかがわかりやすい事例である。
3条1項3号の「普通に用いられる方法」は、商標実務に疎い者は、通常、標準文字をイメージする人が多いだろう。特殊な書体を用いるとどうなるのか、複数の書体を混ぜるとどうなるのか、2段や3段に分けるとどうなるのか、といった疑問を持つ者も少なくないと思う。
本件では、本願商標は「普通に用いられる方法」」の域を脱していないと判断され、3条1項3号に該当すると判断された。
では、「普通に用いられる方法」の域はどこにあるのか。
審決からもわかるように、この域は、指定商品/役務に係る業界で、どのように商品等表示がされているかといった実情から判断される。つまり、「普通に用いられる方法」とは、全ての商品/役務に共通するような表示方法ではなく、業界に応じでその範囲が変わるものである。
今回の本願商標における指定商品は「まつ毛用シャンプー」であり、美容系の業界では、デザイン性のある文字表記で商品等表示がなされていることが多い。
「普通に用いられる方法」を難しく考える必要はなく、単に、その業界ではどのような商品等表示が一般的・普遍的に用いられているのかを基準に考えればよい。そしてその基準は、業界の実態(査定/審決時における実態)から判断されるため、クライアントには「同じ商品を扱う業界でよく見るような表示の仕方は該当する可能性が高いです」とアドバイスするとよいだろう。
不服2023-4047 | 決定日 2024/5/22 |
適用条文 | 本件商標 | 判断 |
3条1項3号 | 鮨 青海 (標準文字) | 〇 |
- 審判1審決抜粋
- 所感
2 拒絶の理由の要旨
原査定は、「本願商標は「鮨 青海」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「鮨」の文字は、「酢と調味料とを適宜にまぜ合わせた飯に、魚介類・野菜などを取り合わせたもの。」の意味を有し、「青海」の文字は「東京都江東区の地名」の意味を有するから、本願商標は、全体として「青海(地名)の鮨」ほどの意味合いを容易に認識させる。また、例えば、本願の指定役務を取り扱う業界において、鮨屋(寿司屋)の店名に、「鮨 ○○」の文字が一般的に使用されている実情、東京都江東区青海に寿司屋が存在する実情が認められる。そうすると、本願商標をその指定役務中、例えば「青海(地名)におけるすしの提供」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、役務の質を表示したものとして認識するにとどまるから、本願商標は、単にその役務の質を普通に用いられる方法で表示するにすぎないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記役務以外の役務に使用するときは、役務の質の誤認を生ずるおそれがあるから、同法第4条第1項第16号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。
3 当審の判断
本願商標は、上記1のとおり、「鮨 青海」の文字を標準文字で表してなるものである。
そして、本願商標の構成中「青海」の文字(語)は、「あおうみ」の読みで「青々とした海。」(「大辞林第4版」株式会社三省堂)、「せいかい」の読みで「中国、チベット高原の北東部を占める省。」(前掲書)及び「中国青海省東部にある大塩水湖。中国西部、青蔵高原の北東部に位置する省。」(「広辞苑第7版」株式会社岩波書店)、又は「おうみ」の読みで「新潟県南西部。糸魚川市西部。」(「コンサイス日本地名事典(第5版)」株式会社三省堂)及び「山口県北西部。長門市北部の島名など。」(前掲書)のように、様々な読み及び意味を有する語であることが認められるものの、当該語が、原審説示のとおり、東京都江東区の地名を表示したものとして、一般に認識されるというべき事情は見いだせない。
そうすると、本願商標は、原審説示のように「青海(地名)の鮨」といった意味合いを直ちに認識させるとはいえないものである。
また、当審において職権をもって調査するも、本願の指定役務を取り扱う業界において、「鮨 青海」の文字が、役務の質を表すものとして使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を役務の質を表示したものと認識するというべき事情は発見できなかった。
してみれば、本願商標は、これをその指定役務について使用しても、役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえず、かつ、役務の質の誤認を生ずるおそれがあるものということもできない。
・原査定と審決の違い
本件において、原査定と審決の違いは、大きく二つあるだろう。
一つは、「青海」が「東京都江東区の地名」の意味を有するものと認識されるかである。
もう一つは、「使用されている事実」の判断の仕方である。
原査定は、すんなりと「青海」を「東京都江東区の地名」と認めたが、審決は「青海」の文字に「様々な読み及び意味がある」ことを認定し、必ずしも「東京都江東区の地名」を認識するとはいえないものと判断した。
この点は、審査する者のさじ加減のようにも思える。辞書にいくつかの意味があっても、本件審決のように判断されない事例もある。商標登録を否定する方向なら原査定のように認め、肯定する方向なら審決のように認めるのだろう。
また、原査定は「鮨 〇〇」が使用されている事実、及び、東京都江東区青海に寿司屋が存在する事実、を組合せて判断することで、「鮨 青海」の3条1項3号該当性を認めたが、審決は「鮨 青海」という商標そのものが使用されている事実の有無を判断することで3条1項3号の該当性を否定した。
この点は興味深い。原査定のように、複数の事情を組合せることが必ずしも間違った判断手法であるということはない。実際に、このような事実認定を重ねて「使用の事実」を認めた事例もある。この部分を考察してみよう。
・「鮨 〇〇」という使用の事実
確かに「鮨 〇〇」という鮨屋の表記は珍しくない。しかしながら、鮨屋が「鮨 〇〇」という表記をするときに、「〇〇」の部分に地名を入れるというのは普通といえるだろうか。私の感覚では、鮨屋は名前を入れることが多いのではないかと思うし、地名のみを記載しようとは思わないのではないか。
また、魚は陸の生き物ではなく海や川の生き物であり、大間のマグロのように一部地名と紐付いたブランドはあるが、基本的には、特定の地名と結び付いてはいない。
そうすると、「鮨 〇〇」の「〇〇」に地名が入ったからといって、その鮨屋で出される魚がその地名のものとは思わないだろうし、仮に、東京都江東区青海以外の場所に、この商標の鮨屋があったところで、「青海」の地名が関係すると認識する需要者は少ないと思う。(それよりは、青海さんという人が営んでいる鮨屋と思う方が普通な気がする。)
原査定は、「鮨 〇〇」という使用の事実を認めたが、「鮨 〇〇」に入る文字として一般に地名が使われている事実、については判断していなかった。そのため、論理に飛躍があったということもできよう。
本件で「鮨 青梅」の3条1項3号該当性を認めるための使用の事実を認定するには、①「鮨 〇〇」という使用の事実と②青海に鮨屋が存在する事実だけでなく、③鮨 〇〇」に入る文字として一般に地名が使われている事実も認められていれば、3条1項3号に該当するとの判断も合理的であったように思える。
不服2023-6798 | 決定日 2024/6/5 |
適用条文 | 本件商標 | 引用商標 | 判断 |
4条1項11号 | (色彩は原本参照) | 〇 |
- 審判1審決抜粋
- 所感
本願商標は、別掲1のとおり、2文字目の「V」の文字の右斜線の中間付近を斜めに切り落とした部分に、四稜星のごとき図形(以下、単に「星図形」という。)を配し、青色で横書きにした「UVC」(以下、単に「UVC」という。)の欧文字の下に、「UVC」の欧文字よりもやや小さく「265nm」の文字を青色で横書きにしてなるところ、構成中の「265nm」の文字は、「UVC」の欧文字よりも、やや小さく書されているものの、両文字は、いずれも同じ青色の丸みを帯びた書体で、左右の幅をそろえ、略矩形をかたどるように近接して書されていることから、本願商標は、外観上、一体的な印象を与えるものである。
そして、本願商標の構成中の「星図形」は、我が国において特定の事物又は意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情は認められないものの、「UVC」の欧文字は、「波長が200~280ナノメートルの紫外線。」を、「nm」は長さの単位「ナノメートル」(いずれも「デジタル大辞泉」(別掲3))を意味することからすれば、本願商標は、構成全体として、「波長が265ナノメートルの紫外線」ほどの意味合いを認識させるものであり、本願商標の構成中の「UVC」の欧文字と、「265nm」の文字とは、観念上のつながりが認められるものである。
さらに、本願商標の構成中の「UVC」の欧文字又は引用商標が、取引者、需要者の間に広く認識されている等強く支配的な印象を与えるとみるべき特段の事情もない。
そうすると、本願商標に接する取引者、需要者は、その構成中の「265nm」の文字を捨象し、「UVC」の欧文字のみに着目するというより、むしろ本願商標の構成全体をもって一体不可分のものと認識、把握すると判断するのが相当である。
したがって、本願の指定商品と引用商標の指定商品の類否について判断するまでもなく、本願商標の構成中の「UVC」の文字を要部として分離、抽出し、その上で、本願商標と引用商標とが、外観において「UVC」の綴りを共通にし、「ユーブイシー」の称呼を共通にする類似の商標であるとして、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。
・結合商標と認定されるためのテクニック「左右の幅をそろえ、略矩形をかたどるように近接して書されていること」
審決は「構成中の「265nm」の文字は、「UVC」の欧文字よりも、やや小さく書されているものの、両文字は、いずれも同じ青色の丸みを帯びた書体で、左右の幅をそろえ、略矩形をかたどるように近接して書されていることから、本願商標は、外観上、一体的な印象を与えるものである。」と判断した。
自体や文字の色を揃えることも要素として影響しているが、これ自体は普通のことであろう。つまり、自体や色が違えば一体性を否定する材料とはなるが、揃っているからといってそこまで積極的な肯定材料にはならないように思う。
本件で商標一体性の大きな肯定要素となったのは、「左右の端をそろえ、近接していること」ではないかと思う。これは、「看者にまとまりのある印象を持たせること」だけでなく、「文字サイズの大小関係を必然的に相殺する」ことになる。
つまり、文字数の異なる2つの文字を、両端を揃えて2行に並べれば、必然的に、それぞれの行の文字の大きさは異なる。従って、文字の大きさが異なるという否定材料を打ち消してくれる理由となるだろう。(但、程度問題はある。審決は「やや」小さく書されていると評価しており、あまりに大小関係が大きいと相殺しきれなくなるだろう)
・3条1項3号とならない商標出願
本願商標は「UVC265nm」の文字が表れているものと見ることができ、「波長が265ナノメートルの紫外線」ほどの意味合いを認識させるものと判断されている。
UVCとは、紫外線(UV)の分類の一種であり、光の波長に応じてUVA、UVB、UVCと分かれている。それぞれの波長範囲は、UVAが315~400、UVBが280~315、UVCが100~280と説明されている(若干値の違う説明もされているが、だいたいこの辺りの波長である)。
そうすると、出願人である「ダイキン工業株式会社」は、265nmのUVCの光を用いて何かをしたがっていることが予想される。(実際に、ダイキン工業株式会社のホームページを調べてみると、2021年12月10日から、空気清浄技術「ストリーマ」と、ウイルスや菌の抑制効果が高い波長265nmの深紫外線を照射する「UVC LED」を搭載した空気清浄機を発売していたようである。)
本願の指定商品は「業務用電気給湯機」であるが、この商品に利用することを考えているのかもしれない。(なお、ダイキンは同じ商標を「業務用暖冷房装置,家庭用電熱用品類,空気調和装置」の指定商品で分割出願して商標登録している(商標第6724655号)。)
UVC265nmとは、光の波長そのものを表するに過ぎないため、これらの商品において、UVCを用いることが珍しくない状態になってしまってから商標出願をしても、3条1項3号のリスクが高くなる。
性能や機能に直結するような言葉で商標を取得したい場合、3条1項3号とならないためには、これが「性能や機能」として業界に認識される前に、商標を取得しておくことであり、タイミングの見極めは、ビジネス戦略にも直結するといえるだろう。
不服2023-5457 | 決定日 2024/5/13 |
適用条文 | 本件商標 | 判断 |
3条1項3号 | はあとねいる (標準文字) | 〇 |
- 審判1審決抜粋
- 所感
3 原査定の拒絶の理由
本願商標は、「はあとねいる」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「はあと」の文字は「ハート」を容易に想起させるものであり、「ねいる」の文字は「爪。」を意味する語だから、本願商標は全体として「ハートのようなデザインの爪」ほどの意味合いを表す。
そして、本願商標の指定役務を取り扱う業界において、「ハートネイル」の語が上記意味合いを指称するものとして一般的に使用されている。
そうすると、本願商標をその指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「ハートのようなデザインの爪に関する役務」であることを認識するにとどまるから、本願商標は、単に役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記役務以外の役務に使用するときは、役務の質の誤認を生ずるおそれがあるから、同法第4条第1項第16号に該当する。
4 当審の判断
本願商標は、「はあとねいる」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同種文字を、同じ大きさ及び書体で、間隔なく、横一列にまとまりのよい構成よりなるものであるから、全体で一連一体の語を表してなると看取できる。
そして、本願商標の構成文字は、原審が指摘するような「ハート」及び「ネイル」の文字に通じる可能性があるとしても、長音を使用せずに全てを平仮名表記してなるから、構成文字全体としては、特定の意味を有する成語に直ちに通じるものではなく、具体的な意味合いは、直ちに認識、理解できない。
また、当審において職権をもって調査するも、本願商標の指定役務に係る業界において、「はあとねいる」の文字が、役務の質等を具体的に表示するものとして取引上一般的に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を役務の質等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
そうすると、本願商標は、その指定役務について、役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章とはいえず、また、役務の質の誤認を生ずるおそれはない。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当しないから、本願商標がそれらに該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
・長音「ー」を平仮名「あ」に変えるテクニック
本件では、審査と審決で判断が異なったポイントが「はあとねいる」の「あ」の部分にあるといえるだろう。
審決は「「ハート」及び「ネイル」の文字に通じる可能性があるとしても、長音を使用せずに全てを平仮名表記してなるから」と述べた上で、「はあとねいる」の商標によって具体的な意味合いを直ちに認識できないと判断した。
そして、この判断の違いによって、「指定商品役務の業界において一般に使用されている事実」の認識対象が、「ハートネイル」から「はあとねいる」に変わったことが大きい。
「ハートネイル」の使用事実は認められる一方で「はあとねいる」の使用事実は認められないため、3条1項3号該当性が否定され、商標登録が認められたのである。
このように、「ハートネイル」というおそらくは一般的な用語であろうことが予想される文字であっても、この文字をベースにして長音部分を仮名に変えるなどすることで、「ハートネイル」の認識からそれなりに離れた「商標」を作ることができれば、3条の拒絶理由は回避できる可能性があるということは、商標検討のテクニックとして覚えておくとよいだろう。
余談ではあるが、本件商標は「ハアトネイル」や「はあとネイル」ではなく「はあとねいる」であったこと、つまり、全てを「ひらがな」で表記していることも考慮要素の一つに入っているように思える。「ハート」や「ネイル」は通常カタカナで用いられる語であるから、これをひらがなにすることで「ハートネイル」への認識は遠ざかるのであろう。
不服2022-12589 | 決定日 2023/12/5 |
適用条文 | 本件商標 | 判断 |
3条1項3号 | × |
- 審判1審決抜粋
- 所感
4 当審の判断
(1)立体商標における商品の形状について
商標法は、商標登録を受けようとする商標が、立体的形状(文字、図形、記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合についても、所定の要件を満たす限り、登録を受けることができる旨規定する(商標法第2条第1項、同法第5条第2項参照)。
しかしながら、以下の理由により、立体商標における商品等の形状は、通常、自他商品の識別機能を果たし得ず、商標法第3条第1項第3号に該当するものと解される。
ア 商品の形状は、多くの場合、商品に期待される機能をより効果的に発揮させたり、商品の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって、商品の出所を表示し、自他商品を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように、商品の製造者、供給者の観点からすれば、商品の形状は、多くの場合、それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの、すなわち、商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また、商品の形状を見る需要者の観点からしても、商品の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し、出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。
そうすると、商品の形状は、多くの場合に、商品の機能又は美感に資することを目的として採用されるものであり、客観的に見て、そのような目的のために採用されたと認められる形状は、特段の事情のない限り、商品の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法第3条第1項第3号に該当すると解するのが相当である。
イ また、商品の具体的形状は、商品の機能又は美感に資することを目的として採用されるが、一方で、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、通常は、ある程度の選択の幅があるといえる。しかし、同種の商品について、機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、商品の機能又は美感に資することを目的とする形状として、商標法第3条第1項第3号に該当するものというべきである。その理由は、商品の機能又は美感に資することを目的とする形状は、同種の商品に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは、公益上の観点から必ずしも適切でないことにある。
ウ さらに、商品に、需要者において予測し得ないような斬新な形状が用いられた場合であっても、当該形状が専ら商品の機能向上の観点から選択されたものであるときには、商標法第4条第1項第18号の趣旨を勘案すれば、商標法第3条第1項第3号に該当するというべきである。その理由として、商品が同種の商品に見られない独特の形状を有する場合に、商品の機能の観点からは発明ないし考案として、商品の美感の観点からは意匠として、それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば、その限りにおいて独占権が付与されることがあり得るが、これらの法の保護の対象になり得る形状について、商標権によって保護を与えることは、商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると、特許法、意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり、自由競争の不当な制限に当たり公益に反することが挙げられる。
以上、知的財産高等裁判所、平成18年(行ケ)第10555号 同19年6月27日判決、平成19年(行ケ)第10215号 同20年5月29日判決及び平成22年(行ケ)第10253号 同23年6月29日判決参照のこと。
(2)本願商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
本願商標は、別掲1のとおりの立体商標であり、原審で説示したとおり、本願の指定商品である「歯科用機械器具、充填用器具」には、歯科用印象材用の自動練和・混合器やディスペンサーガン等に取り付けて使用し、2種類の歯科用印象材を保持することができるカートリッジから押し出された2種類の歯科用印象材を練和又は混合するための撹拌翼を内部に有するノズル及び同カートリッジに装着するためのアダプターから構成される「歯科材料を練和又は混和する器具」が含まれ得るところ、当該器具は、その性質や機能を確保するために、撹拌翼を内部に有するノズル及びカートリッジに装着するためのアダプターから構成されることが必要な一方で、商品の機能又は美感に資する目的のために、様々な立体的形状が採用され、それに装飾等が施されている実情にある(拒絶理由通知書における【参照情報】(1)(3)(4)参照)。
そして、本願商標の立体的形状は、撹拌翼を内部に有するノズル及びカートリッジに装着するためのアダプターから構成されており、「歯科材料を練和又は混和する器具」について、機能に資することを目的として採用されたものと認められ、また、「歯科材料を練和又は混和する器具」の形状として、取引者、需要者において、機能に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のものであるから、それを超えて、本願商標の特徴をもって、商品の出所を識別する標識として認識させるものとはいえない。
さらに、商品に付される色彩は、一般に、商品の魅力向上等に資する装飾等と認識されるものであるから、仮に、本願商標に係る立体的形状に付された色彩が、「歯科材料を練和又は混和する器具」に通常使用される色彩ではないとしても、当該色彩は、商品の魅力向上等の美感に資する目的で使用され得る色彩の一類型といわざるを得ない。
そうすると、本願商標を、「歯科材料を練和又は混和する器具」をはじめとする指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、該商品の機能又は美感に資する目的のために採用された、黄色の彩色を施した「歯科材料を練和又は混和する器具」の一形状を立体的に表したものであると認識するにとどまるものといえるから、本願商標は、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標と判断するのが相当である。
・商品の形状に係る立体商標についての判断基準
本件では、商品の形状に係る立体商標についての3条1項3号の判断基準について、段階的に裁判例がまとめられているため、わかりやすい。
まず、大原則として、「商品の形状は、多くの場合に、商品の機能又は美感に資することを目的として採用されるものであるため、客観的に見て、そのような目的のために採用されたと認められる形状」は3条1項3号に該当することになる。
また、この大原則における「機能又は美観に資することを目的として採用される」か否かの判断基準として「商品について、機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、商品の機能又は美感に資することを目的とする形状」となる(3条1項3号に該当する)。
本件ではここからさらに、「商品に、需要者において予測し得ないような斬新な形状が用いられた場合であっても、当該形状が専ら商品の機能向上の観点から選択されたものであるときには、商標法第4条第1項第18号の趣旨を勘案すれば、商標法第3条第1項第3号に該当するというべきである」としている。
本件では、上記の判断基準に基づき、本願商標の形状が3条1項3号に該当すると判断された。
・色彩をどう評価すべきか
私見ではあるが、日本は「色彩」をあまり評価しない。半永久的な権利保護が可能という商標の特色(影響の大きさ)を考慮して、看者にとって特徴的な色であっても「当業者が使うかもしれない」色彩はなるべく商標権を認めようとしない傾向がある(ルブタンレッド等)。
しかしながら、ファッション業界のように、色使いそのものがデザインの重要なウェイトを占め、自由に色彩を使えるようにすべき分野もあれば、色彩そのものが、需要者にとっての購買動機にほとんど影響を与えないような分野もある。後者の分野においては、「色彩」によって自他商品を識別しようとすることも許されてよいのではないかと個人的には思う。(つまり、その商品役務の事業分野において「機能及び美観の観点から「色彩」が果たす影響力」を、考慮要素の一つとし、色彩保護の可能性を拡げてあげるべきではないだろうか)
本件審決は、上記の判断基準を挙げたが、色彩については、「商品に付される色彩は、一般に、商品の魅力向上等に資する装飾等と認識されるものであるから、仮に、本願商標に係る立体的形状に付された色彩が、「歯科材料を練和又は混和する器具」に通常使用される色彩ではないとしても、当該色彩は、商品の魅力向上等の美感に資する目的で使用され得る色彩の一類型といわざるを得ない」と判断している。
しかし、きちんと読めばわかるが(特に下線部)、この判断内容は、もはや一般論として、商品の形状についての立体商標において、「色彩」は商標識別力を有さないと言っているに等しい。(審決は、商品役務の性質に着目することなく、通常使用される色彩であるとないとにかかわらず、3条1項3号に該当すると言っている。)
これでは、商標法がなぜ「色彩」を認めたのか、それは色彩が識別力を持ち得ることもあり得るという実状も踏まえれば、法の趣旨に反する判断になっているように感じる。
率直な感想を言えば、「歯科用機械器具」という商品が、機能面から自ずと形状に制約が生じ、外観の形状から自他商品の識別が難しいのであれば、寧ろ「色彩」によって自他商品の識別を図ろうとすることは、商標法の目的にも適っており、需要者はその美観を評価するよりも、商品の識別に利用できるメリットを享受することができ、「黄色」を独占したところで当業者が被る制約も軽微であるといえるならば、認めてよかったのではないかと思う。
この判断の是非は慎重に検討すべきであろう。
不服2022-19508 | 決定日 2024/5/17 |
適用条文 | 本件商標 | 判断 |
3条1項3号 | ストロングライトシステム (標準文字) | × |
不服2022-18374 | 決定日 2024/7/10 |
適用条文 | 本件商標 | 判断 |
3条1項3号 | メイン市場 (標準文字) | 〇 |
- 審判1審決抜粋
- 審判2審決抜粋
- 所感
第5 当審の判断
1 本願商標を構成する文字の語義及び使用状況並びに指定商品の取引の実情について
…
(2)本願の指定商品である家庭用の脱毛器の分野においては、…光を利用して脱毛を行う方式(光脱毛)が多く採用されている実情がうかがえる。
また、本願商標の構成中の「ライト」の文字は、別掲2のとおり、脱毛の分野において、「光」を表す語として使用されている。
さらに、本願商標の構成中の「ストロング」の文字は、上記(1)のとおり「強い、強力な」等の意味を有するものであるところ、家庭用の脱毛機は、クリニック等で使用される脱毛器と比較して強い力で照射できないことから、メーカーによっては、家庭用の範囲内での高出力化を試みるなど、従来品よりも強化された光の照射を特徴として掲げる商品も見られる(別掲3参照。)。
(3)…そうすると、本願の指定商品の分野においては、本願商標「ストロングライトシステム」の構成文字全体からは、「強い光の方式」ほどの意味合いを理解させるものであるとともに、商品の優位性や特徴を表す語として認識され得るものというのが相当である。
2 商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号該当性について
上記1によれば、「ストロングライトシステム」の文字よりなる本願商標を、その指定商品に使用をしても、これに接する取引者、需要者は、「強い光の方式」ほどの意味合いをもって、商品の品質、特徴を表したものと認識するにとどまるというのが相当である。
加えて、本願商標は、上記1(1)で述べたとおり標準文字で表されたものであるから、普通に用いられる方法で表されたものである。
したがって、本願商標は、商品の品質、特徴を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるから、商標法第3条第1項第3号に該当し、また、本願商標を、「ストロングライトシステム(強い光の方式)」と関連のない商品(例えば、光を利用せず、毛を挟んで抜くローラー式の家庭用脱毛機械器具)に使用をするときには、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるから、同法第4条第1項第16号に該当する。
別掲1 本願の指定商品である家庭用の脱毛器の分野において、光を利用して脱毛を行う方式(光脱毛)が多く採用されている実情
(1)「ビックカメラ.com」のウェブサイトにおいて、「【2024年】脱毛器のおすすめランキング19選 VIOやヒゲに対応したモノも紹介!」の見出しの下、「「光美容器」は、フラッシュやレーザーなどによる光を肌に照射して、ムダ毛を目立ちにくくするアイテム。毛が根本的になくなるわけではないため、継続的にケアを行う必要があります。」、「家庭用脱毛器で多く採用されているのが「フラッシュ式」です。光を利用してムダ毛を目立たなくする仕様。痛みを感じにくい上、広範囲に照射できるのが特徴です。」の記載がある。
…
別掲2 「ライト」の文字が、脱毛の分野において、「光」を表す語として使用されている実情
(1)「MUSEE PLATINUM」のウェブサイトにおいて、「光脱毛の仕組みは?レーザー脱毛との違いや料金について紹介」の見出しの下、「光脱毛とは、ライトを肌にあてて毛根にダメージを与える脱毛方法です。」、「光脱毛の仕組み/光脱毛は、照射すると毛根にダメージをもたらすライトを使用しています。」の記載がある。
…
3 当審の判断
本願商標は、「メイン市場」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「メイン」の文字は「主要なこと。最も重要な部分。」等の意味を、「市場」の文字は「売り手と買い手とが特定の商品や証券などを取引する場所。」等の意味をそれぞれ有する語(株式会社岩波書店 広辞苑第七版)として、いずれも我が国において広く親しまれている語であることから、これらの語を組み合わせた本願商標は、全体として「主要な市場」程度の意味合いを理解させるものであるが、その指定役務に係る具体的な質(内容)を表示するものではない。
そして、当審において職権をもって調査するも、本願の補正後の指定役務を取り扱う業界において、「メイン市場」の文字が、役務の具体的な質等を表示するものとして取引上一般に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を役務の質等を表示するものと認識するというべき事情も発見できなかった。
そうすると、本願商標は、その補正後の指定役務に使用しても、役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章とはいえず、自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものである。
・3条1項3号の判断における「使用の事実」のウェイト
本件では「使用の事実」の有無によって判断が分かれた事例を並べてみた。
1件目の「ストロングライトシステム」は脱毛に関する指定商品役務との関係で3条1項3号に該当すると判断され、2件目の「メイン市場」は有価証券の取引に関する指定役務との関係で3条1項3号には該当しないと判断された。
3条1項3号の判断において「使用の事実の有無」は大きなウェイトを占めているように感じられる。
・判断される「使用の事実」とは
1件目の「ストロングライトシステム」において注目しておくべきことは、判断される「使用の事実」が「ストロングライトシステムという言葉が使用されている事実ではない」ということである。
つまり、「使用の事実」における判断対象は商標そのものに限らないということである。
審決は、指定商品である「家庭用の脱毛器」における取引の実情として「メーカーによっては、家庭用の範囲内での高出力化を試みるなど、従来品よりも強化された光の照射を特徴として掲げる商品も見られる」といった使用の事実を挙げた上で、「ストロングライトシステム」が、「強い光の方式」という意味合いの品質・特徴を需要者に認識させるものであるとしている。
商標出願の際に、「使用の事実の有無」を調査するときには、商標そのものだけでなく、その商標の意味合いを考慮した上で調査をすべきであろう。
不服2022-9489 | 決定日 2024/6/10 |
適用条文 | 本件商標 | 判断 |
3条1項3号 | × |
- 審判1審決抜粋
- 所感
1 立体商標と商標法第3条第1項第3号について
(1)ア 商標法第3条第1項第3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである(最高裁昭和53年(行ツ)第129号判決参照)。
イ また、商標法が立体的形状(文字、図形、記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)についても商標登録を受けることができる旨を規定する(同法第2条第1項、第5条第2項第2号)一方で、同法及びその委任を受けた商標法施行令において、商品又は商品の包装が当然に備える特徴のうち立体的形状のみからなる商標については商標登録を受けることができないと定められていること(同法第4条第1項第18号、同施行令第1条中)に照らすと、同法は、商品等の立体的形状のうち、その機能を確保するために不可欠な立体的形状を含む商品等が当然に備える立体的形状については、特定の者に独占させることを許さないとするものと解される。
(2)ア そもそも商品等の立体的形状は、多くの場合、商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり商品等の美観をより優れたものとしたりする等の目的で選択されるものであって、直ちに商品の出所を表示し、自他商品を識別する標識として用いられるものではなく、商品の製造者・供給者の観点からすると、多くの場合、それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの、すなわち商標としての機能を果たすものとして採用するものとはいえない。
また、商品等の立体的形状を見る需要者や取引者の観点からしても、その立体的形状は、商品等の機能や美観を際立たせるために選択されたものと認識されるのが通常であって、商品の出所を表示し、自他商品を識別するために選択されたものと認識される場合は多くないというべきである。
上記のような商品等の立体的形状の特質と、前記(1)の商標法第3条第1項第3号等の趣旨を併せて考慮すると、客観的に見て、商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されたと認められる商品等の形状は、特段の事情のない限り、商品の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法第3条第1項第3号に該当するというべきである。
イ また、商品等の具体的形状には、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、ある程度の選択の幅があるといえるものの、商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状が同種の商品に関与する者において使用することを欲するものであり、先に商標出願したことのみを理由として特定人に当該形状の独占使用を認めることは公益上適当でないことからすると、上記のような幅の中で選択された形状が特徴を有していたとしても、それが機能又は美観上の理由による形状の選択として予測し得る範囲のものである限りは、商標法第3条第1項第3号に該当すると解すべきである(令和4年(行ケ)第10050号、令和4年12月26日知財高裁判決参照)。
2 本願商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)本願商標は、…構成全体として、館内設備(書棚、平台、案内板、照明など)を整然と配置した店舗、施設等の内装を表示したものと認識できる。
(2)本願商標の指定役務「…」は、書店などの店舗等において提供されるものであり、取扱商品である書籍や文房具等を品揃えし、顧客のそれら商品の選択が容易となるように、店舗内の書棚や平台に陳列、展示し、幅広い需要者に向けて、書籍や文房具等を購入させるために便宜を図る役務である。
(3)そして、印刷物等の小売業に係る書店などの店舗等の内装において、天井(ル―バー状のものを含む)、壁面や通路に設置した書棚や平台、案内板(書棚の天井付近に設置したものを含む)又は照明(平台上に設置したランプシェード付きのものを含む)などを備えることは、当該店舗において効率的に書籍や文房具等を陳列、展示し、また、店舗内の美観や利用者の利便性を高めるために必要とされる構成要素であり、それら店舗の内装において極めて一般的に採択されている取引の実情がある(別掲2参照)。
(4)以上を踏まえると、本願商標の構成要素(天井、書棚、平台、案内板、照明など)及びそれらの構成配置はいずれも、その指定役務を提供する店舗の内装としてはその機能を確保するために必要とされるものであるから、客観的に見て、役務の提供の場所、提供の用に供する物等の機能若しくは美観に資する目的で採用された形状、又はそのような理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであるから、それを超えて、その立体的形状をもって、役務の出所を識別する標識として認識させるものとはいえない。…
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
3 請求人の主張について
(1)請求人は、(ア)本願商標は、請求人が東京都渋谷区所在の「代官山蔦屋書店」にて2011年12月から使用するもので…独創的な空間デザインからなり、請求人が特徴的な工夫を凝らしてブランド価値を創出し、サービスの提供や製品の販売を行っている店舗等の内装である、(イ)「代官山蔦屋書店」の空間デザインは国内外で高い評価を受け、様々な賞を受賞しているものであり、本願商標に係る内装は、需要者の予測を遥かに超えた予測不可能な内装である等を述べ、本願商標は自他役務識別力を十分に発揮する旨を主張する。
しかしながら、…本願商標の構成要素(天井、書棚、平台、案内板、照明など)及びそれらの構成配置はいずれも、その指定役務を提供する店舗の内装としてはその機能を確保するために必要とされるものであるから、客観的に見て、役務の提供の場所、提供の用に供する物等の機能若しくは美観に資する目的で採用された形状、又はそのような理由による形状の選択と予測し得る範囲のものである。
そして、請求人が本願商標の立体的形状を使用する「代官山蔦屋書店」の空間デザインが国内外で様々な賞を受賞したとしても、当該事実が、その指定役務に係る需要者が、本願商標をして、請求人の出所識別標識であると認識することに直ちにつながるものではない。また、たとえ、本願商標に係るデザイン的側面などが評価されたとしても、それらのことは、需要者等が、役務を選択するに際し、役務の提供の場所、提供の用に供する物等の機能性や、その外観上の美感という嗜好上の意味合いを与え得るにすぎず、客観的に、需要者はそれを未だ指定役務の提供に係る役務の提供の場所、提供の用に供する物等の立体的形状の一類型を表したものと認識するにとどまるものであるから、本願商標が、役務の提供の場所、提供の用に供する物等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるとの上記認定を左右するものではない。
(2)請求人は、請求人が「T」の欧文字をモチーフにしたロゴマークや「Tポイント」「Tカード」などに関連する登録商標を多数所有し「T」の欧文字を有効に利用したブランド戦略を展開していること、また、請求人の「代官山蔦屋書店」がインターネットや雑誌等のメディアで多数取り上げられ、大きく「T」が表れた建造物全体、小さな「T」が連続してなる外壁及び本願商標を含む内装の写真が掲載され、その斬新で特徴的な店舗の外観・内装の空間デザインが注目されたことを考え合わせると、本願商標の「照明スタンド付き平台」の足元は、商品を置く天板と脚がつながって「T」の欧文字が足元に形成されているのが需要者に明らかに認識できるものであり、本願商標は、商品等の形状そのものの範囲を出ない立体的形状に識別力を有する文字や図形等の標章が付されているといえるものであり、内装に係る立体商標全体として、自他役務の識別力があると判断されるべき旨を主張する。
しかしながら、本願商標の構成中、「平台(照明スタンド付き)」の側面には、上部の縁に横方向及び中央に縦方向に、線状の突起による装飾が施されているとしても、単に当該平台の装飾としての印象を与えるにすぎず、それが出所識別標識たり得る特徴として機能するとは評価し難い。
(3)請求人は、(ア)本願商標の構成要素の中で「照明スタンド付き平台」は本願商標において最も目立つ位置に配置されているから、「照明スタンド付き平台」は本願商標の要部である、(イ)要部である「照明スタンド付き平台」は、「(a)ぼんぼり型ライトが付いている」、「(b)ぼんぼり型ライトの形状が複数ある」、「(c)高さが2種類ある」、「(d)足元が「T」のデザインになっている」という4つの特徴を持つ特殊なデザインであって、一般的な形状ではなく、看者に独特な視覚的印象を与える特異なものである、(ウ)複数の「照明スタンド付き平台」を列をなして配置した「マガジンストリート」と呼ばれる通路を形成する空間デザインは、請求人が運営する全国の「蔦屋書店」等で使用され、請求人の「蔦屋書店ブランド」を表す象徴的なものとして、需要者に広く浸透している、(エ)「照明スタンド付き平台」は、本願の指定役務の出所を表示し、自他役務を識別する標識として、長年にわたり継続して使用された結果、その形状が自他役務識別力を獲得している等を述べ、本願商標は、「通常の形状より変更され又は装飾を施される等により特徴を有しており」かつ「需要者において、機能又は美感上の理由による形状の変更又は装飾等と予測し得る範囲のものでない」というべきものであり、「役務の提供の用に供する物の形状そのものの範囲を出ないもの」ということはできず、自他役務識別力を有している旨を主張する。
しかしながら、本願商標は、上記2(1)のとおり、構成全体として、館内設備(書棚、平台、案内板、照明など)を整然と配置した店舗、施設等の内装を表示したものと認識できるものであり、また、上記2(3)のとおり、照明スタンド(ランプシェード付きのものを含む。)を設置した平台などを備えることは、店舗の内装において極めて一般的に採択されている取引の実情があることを鑑みれば、本願商標の特定の構成要素(ランプシェード付きの照明などを含む。)が、自他役務の出所識別標識として機能するものではない。
・商品等の立体的形状についての3条1項3号の判断基準
本件は、立体商標についての判断基準を示した判例を挙げている。まとめると、以下のようになる。
客観的に見て、商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されたと認められる商品等の形状は、特段の事情のない限り、商品の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法第3条第1項第3号に該当するというべきである。
また、商品等の具体的形状が、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、ある程度の選択の幅の中で選択された形状が特徴を有していたとしても、それが機能又は美観上の理由による形状の選択として予測し得る範囲のものである限りは、商標法第3条第1項第3号に該当すると解すべきである(令和4年(行ケ)第10050号、令和4年12月26日知財高裁判決参照)。
・3条1項3号の位置付け
商品等の立体的形状に関しては、4条1項18号がある。同号には「機能の確保に不可欠」という要件があるが、3条1項3号にはこのような要件はない。4条1項18号は、機能的必然性から、本来的に特許や意匠で有限的に保護されるものであり、無期限的に権利を保有できる商標としての保護性を否定するものであるが、3条1項3号は「何人も使用を欲する」という観点であり、考え方の本質には違いがある。
一方で、文字による商標であれば「何人も使用を欲する」とは、品質などの表示で使いたくなるような表示ということになるが、商品等の立体的形状の場合、どうしても物理的機能性や美観といった、いわゆる特許的/意匠的な要素が入り込むことになり、機能的・美観的な観点から「何人も使用を欲する」ような立体的形状を判断することになる。
そして、この点については、「商品等の立体的形状は、多くの場合、商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり商品等の美観をより優れたものとしたりする等の目的で選択されるものであって、多くの場合、それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの、すなわち商標としての機能を果たすものとして採用するものとはいえない」と判断されている。
・主張すべき内容
上記判断に照らせば、商品等の立体的形状に係る商標を取得したい場合に、主張すべきことは「機能又は美観上の理由による形状の選択として予測し得る範囲のものでない」ことである。
本件で出願人(請求人)は、独創的な空間デザインであるとか、ブランド価値の高さ、空間デザインは国内外で高い評価を受け、様々な賞を受賞していることなどを主張しているが、「デザイン性の高さ(高い評価)」の主張は直接的には響かない印象がある。
独創的なデザインであっても、空間デザインは美観上の理由からなされるものである以上、上記要件に照らせば、美観上の理由による形状の選択として予測し得る範囲となり得るからである。
独創的なデザインの中に「予測し得る範囲を超えた形状の選択」があることを主張しなければならない。(商品等の立体的形状の商標のハードルの高さがここにあるといえよう)
異議2023-900190 | 決定日 2024/4/18 |
適用条文 | 本件商標 | 引用商標 | 判断 |
4条1項11号 | SoFun (標準文字) | × (商標類似) |
- 審判1審決抜粋
- 所感
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、上記第1のとおり、「SoFun」の文字を標準文字で表してなるところ、当該語は、辞書類に載録されている語ではなく、特定の意味合いをもって親しまれている語でもないことから、一種の造語として認識されるものである。
したがって、本件商標は、その構成文字に相応して「ソファン」の称呼が生じ、特定の観念を生じない一種の造語として認識される。
(2)引用商標について
引用商標は、別掲のとおり、「Sofirn」の欧文字及び「ソファン」の片仮名を2段に横書きしてなるところ、下段の片仮名は、上段の欧文字の読みを表したものと理解されるものである。
そして、当該語は、辞書類に載録されている語ではなく、特定の意味合いをもって親しまれている語でもないことから、一種の造語として認識されるものである。
したがって、引用商標は、その構成文字に相応して「ソファン」の称呼が生じ、特定の観念を生じない一種の造語として認識される。
(3)本件商標と引用商標の類否について
本件商標と引用商標との類否を検討するに、両商標は、全体の外観において相違するとしても、本件商標と引用商標の上段の「Sofirn」とは、語頭部の「SoF(Sof)」について、3文字目が大文字と小文字の差異があるものの、その文字のつづりを同じくするものであって、末尾の「n」も同じくするものであるから、それらの構成文字の中間部において「u」と「ir」の差異を有してなるも、外観において近似した印象を与えるものである。
そして、称呼においては、本件商標と引用商標は、共に「ソファン」の称呼を生じるものであるから、両者は称呼を同一にするものである。
さらに、観念においては、本件商標と引用商標とは、共に特定の観念を生じないものであるから、両者は観念において比較することはできない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、観念において比較することができないものの、外観において差異を有するとしても、その差異は上記のとおり商標の類否全体に大きな影響を与えるものではなく、近似した印象を与えるものであり、「ソファン」の称呼を共通にするものであるから、両者の外観、称呼、観念等によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両商標は相紛れるおそれのある、互いに類似の商標というのが相当である。
(6)本件商標権者の主張について
ア 本件商標権者は、本件商標は「SoFun」の文字から構成されるところ、その構成中「So」は「とても」、「Fun」は「おもしろい」を示す語として日本人の中に広く浸透しており、「SoFun」であれば「とてもおもしろい」の意味合いがあるとほぼ全員が認識するものと考えられ、さらに、本件商標権者のウェブページ(乙1)に示されるように、本件商標権者は「中小企業が再び輝く社会を作り、日本をおもしろくする。」をビジョンとして社名と商標の周知活動、広報活動を行っており、一般需要者の間にも「SoFun」に「とてもおもしろい」の意味合いがあると強く根付いている旨主張する。
しかしながら、たとえ、「So」が「とても」を、「Fun」が「おもしろい」を表す語であるとしても、両語をスペースを介さずに結合してなる「SoFun」の文字(語)は、一般に使用される辞書類に載録されていることは認められず、特定の意味合いをもって親しまれている語であるともいえないことから、一種の造語として認識されるというべきである。
そして、本件商標権者が提出した証拠によっては、同人が同人のウェブサイトにおいて「中小企業が再び輝く社会を作り、日本をおもしろくする。」をビジョンとして掲げていることはうかがえるものの、「SoFun」の文字が、一般の需要者の間に、「とてもおもしろい」の意味合いがあると認識されていることを具体的に立証したものと認めることはできない。
・外観近似は厳しめ?
本件は、「SoFun」と「Sofirn」を比較し、これらの外観において、差異の影響は大きくなく、近似した印象を与えると判断された。
率直な感想をいえば、「需要者において、この2つの外観が似ていると感じられることは稀ではないか」と思った。
2つの商標が、時と場所を同じくしたところに並べて表示されていても、また、時と場所を異にしたところに表示されていても、私なら見間違うことはない。それくらいに外観には明瞭な違いがあるように思える。
そもそも、引用商標は「ソファン」の片仮名がなければ、誰もが素直にこのアルファベットの綴りを「ソファン」と読むとはいえないだろう。「ソフィアン」と呼ぶ人もいそうであるし「ソファーン」と呼ぶ人もいそうだが「ソファン」と短く呼ぶ人はいない気がする。
だからこそ引用商標は「ソファン」のフリガナを振っている、とも考えることができる。つまり、振り仮名を考慮せずに、アルファベットの綴りだけを比較すれば、これらは称呼の違いにも影響を与えるものであろう。
私は本件決定には反対の立場であるが(商標非類似と思うが)、本件には、次のような事情があったことが異議申立人によって明らかにされている。
「登録第6274921号商標(甲3(1))の審査段階において、登録第5895546号商標(甲2)を引用した拒絶理由通知(甲3(2))を受け、これに対応するために同一又は類似する指定商品(電気通信機械器具など)を削除した結果、拒絶の理由が解消した経緯からも裏付けられる。」
この登録第6274921号は「Sofun」であり(fが小文字)、引用商標は本件と同じものである。つまり、fが小文字か大文字かの違いのみである商標に対し、別件で特許庁は4条1項11号と判断していたのである。
特許庁には、これと異なる判断がしづらいというバイアスがかかっていたかもしれない。
異議2023-900185 | 決定日 2024/6/11 |
適用条文 | 本願商標 | 引用商標 | 判断 |
4条1項11号 | 〇 (商標非類似) |
- 審判1審決抜粋
- 所感
(3)本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標の類否を検討すると、両者の外観は、本件商標が全体としてややデザイン化された文字からなるのに対し、引用商標はいずれも普通の書体で表されており、引用商標の構成文字「HUGO(hugo)」との比較において末尾が「oo」か「O(o)」かの差異を有するところ、当該差異は5文字と4文字という比較的短い文字構成からなる両者の外観の視覚的印象に与える影響は小さいものといえないから、外観において両者は判然と区別し得るものとみるのが相当である。
次に、本件商標から生じる「ハグー」の称呼と引用商標から生じる「ヒューゴ」又は「フゴ」の称呼を比較すると、両者は構成音が明らかに相違するから、両者をそれぞれ一連に称呼しても、明瞭に聴別し得るものと判断するのが相当である。
さらに、観念においては、本件商標と引用商標は、いずれも特定の観念を生じないものであるから、両者の観念は比較することができない。
そうすると、本件商標と引用商標は、外観、称呼において区別し得るものであり、観念において比較できないものであるから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。…
(4)以上のとおり、本件商標と引用商標1ないし引用商標3は非類似の商標であるから、本件商標の指定商品と引用商標1ないし引用商標3の指定商品が同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
・1文字違いの商標の外観 「文字数」の要素
本件は、「Hugoo」と「Hugo」の1文字違いの商標について、その外観が「判然と区別し得るもの」と判断された事例である。
この判断の根拠の要素として、審判は「5文字と4文字という比較的短い文字構成からなる両者の外観の視覚的印象に差異(1文字違い)が与える影響は小さいものといえない」と述べている。
少ない文字数になるほど、1文字の違いは視認しやすい。(極端な例をあげれば、99文字と100文字より、3文字と4文字の方が1文字違いがわかりやすい。)
しかしながら、本件では、外観の違いよりも、「称呼」の違いの方が判断に大きく影響したように思える。
審判は「「ハグー」の称呼と、「ヒューゴ」又は「フゴ」の称呼を比較すると、両者は構成音が明らかに相違するから明瞭に聴別し得る」と判断しており、外観よりも称呼の違いの方が明瞭であると判断していることがわかる。
「Hugoo」をヒューゴやフゴとは読めないし、「Hugo」をハグーとも読めない。(※個人的には、「Hugoo」はフゴ―とも読めそうだが(ローマ字読み)、審判は「ハグー」の称呼だけを認定している。)
つまり、称呼の違いが明瞭であるという支配的要素があり、これを補強する形で、外観の要素が評価されたのだろうと推察する。
例えば、同じ1文字違いでも、本件商標が「Huugo」であった場合、引用商標「Hugo」に対して、本件とは異なる結論が導かれた可能性も十分に考えられるだろう。
異議2023-900199 | 決定日 2024/6/27 |
適用条文 | 本願商標 | 引用商標 | 判断 |
4条1項11号 | WISI (標準文字) | 〇 (商標非類似) |
本願指定商品 | 第41類「電子出版物の提供,ビデオの制作,音響記録媒体及び映像記録媒体の貸与,ビデオの撮影」他 |
- 審判1審決抜粋
- 所感
第3 登録異議の申立ての理由
(1)本件商標の指定役務中の「電子出版物の提供」に含まれる「電子出版物」に関して、特許情報プラットフォームJ-PlatPat(以下「特許情報プラットフォーム」という。)の商品・役務名検索で、引用商標の指定商品に付された類似群コード「11A01、11A03、11A04、11A05、11B01、11C01」(以下「引用類似群コード」という。)が付された商標を検索した結果(甲3)を添付する。
甲第3号証中のNo.3に対応する商標登録第4843043号(甲4)に引用類似群コード中の「11B01」「11C01」が付されている。
(2)本件商標の指定役務中の「ビデオの制作」「ビデオの撮影」に使われる「ビデオカメラ」に関して、特許情報プラットフォームの商品・役務名検索で、引用類似群コードが付された商標を検索した結果(甲5)を添付する。
甲第5号証中、No.4の商標登録第5666910号(甲6)及びNo.5の商標登録第4878600号(甲7)に引用類似群コード中の「11B01」「11C01」が付され、No.15の商標登録第4890212号(甲8)に引用類似群コード中の「11A01」「11A03」「11A05」「11B01」「11C01」が付され、No.49の商標登録第5275975号(甲9)に引用類似群コード中の「11B01」が付され、No.50の商標登録第5257376号(甲10)に引用類似群コードの「11A01」「11A03」「11A04」「11A05」「11B01」「11C01」が付されている。
(3)本件商標の指定役務中の「映像記録媒体の貸与」に含まれる「映像記録」に関して、特許情報プラットフォームの商品・役務名検索で、引用類似群コードが付された商標を検索した結果(甲11)を添付する。
甲第11号証中、No.1の商標登録第4866840号(甲12)及びNo.2の商標登録第5596900号(甲13)に引用類似群コード中の「11A01」「11A04」「11B01」「11C01」が付され、No.4の商標登録第5532177号(甲14)に引用類似群コード中の「11A01」「11A03」「11A05」「11B01」「11C01」が付されている。
3 したがって、本件商標は、引用商標の指定商品に付された類似群コードに含まれる指定役務を指定しており、本件商標の指定役務は引用商標の指定商品と類似する。
第4 当審の判断
(1)商品・役務間の類否判断について
商標法第4条第1項第11号に規定する指定商品と指定役務の類否については、それらの商品と役務が通常同一営業主により製造、販売又は提供されている等の事情により、それらの商品と役務に同一又は類似の商標を使用した場合に、同一営業主の製造、販売又は提供に係る商品又は役務と誤認混同されるおそれがあるか否かによって判断すべきである(平成30年(行ケ)第10085号同年12月20日知財高裁判決)。
(2)本件商標の指定役務と引用商標の指定商品の類否について
ア(ア)本件商標の指定役務中「電子出版物の提供」と引用商標の指定商品について
本件商標の指定役務中、第41類「電子出版物の提供」は、電気通信回線を通じて電子出版物を供覧させる役務であるのに対し、引用商標の指定商品である第9類「配電用又は制御用機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,衛星通信用送信機・衛星通信用受信機その他の電気通信機械器具,電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器を含む。),その他の電子応用機械器具及びその部品」(以下、これらの商品を「引用商標の指定商品」という。)は、電力を配給すること、制御することを目的とする機械器具、電話機械器具、無線通信機械器具といった電気通信に用いる機械器具、電子の作用を応用したもので、電子の作用をその機械器具の機能の本質的な要素とするものなど、電気に関係ある機械器具として取引される商品であるから、役務と商品の用途、役務の提供場所と商品の販売場所、需要者の範囲は異なり、役務の提供と商品の製造・販売が同一営業主によって行われているのが一般的であるとまではいえない。
(イ)本件商標の指定役務中「ビデオの制作」「ビデオの撮影」と引用商標の指定商品について
本件商標の指定役務中、第41類「ビデオの制作」は、教育・文化・娯楽・スポーツ用(映画・放送番組用のものを含む。)のビデオを制作する役務であり、また、第41類「ビデオの撮影」は、ビデオを撮影する役務であるのに対し、引用商標の指定商品は、上記(ア)のとおりの商品であって、役務と商品の用途、役務の提供場所と商品の販売場所、需要者の範囲は異なり、役務の提供と商品の製造・販売が同一営業主によって行われているのが一般的であるとまではいえない。
(ウ)本件商標の指定役務中「映像記録媒体の貸与」と引用商標の指定商品について
本件商標の指定役務中、第41類「映像記録媒体の貸与」は、録画済み磁気テープの貸与など、映像を記録した媒体の貸与の役務であるのに対し、引用商標の指定商品は、上記(ア)のとおりの商品であって、役務と商品の用途、役務の提供場所と商品の販売場所、需要者の範囲は異なり、役務の提供と商品の製造・販売が同一営業主によって行われているのが一般的であるとまではいえない。
(エ)申立人は、本件商標の指定役務中の上記(ア)ないし(ウ)の各役務と引用商標の指定商品とが類似すると主張しているものの、その裏付けとなる取引の実情(それらの商品と役務が通常同一営業主により製造、販売又は提供されている等の事情)に関する証拠の提出はなく、当審において職権で調査するも、両者が類似するというべき事情は見いだせない。
イ 上記ア以外の本件商標の指定役務と引用商標の指定商品について
上記ア以外の本件商標の指定役務と引用商標の指定商品についても、これらの役務と商品が類似することを裏付ける証拠の提出はなく、当審において職権で調査するも、両者が類似するというべき事情は見いだせず、上記アと同様に、役務と商品の用途、役務の提供場所と商品の販売場所、需要者の範囲は異なり、役務の提供と商品の製造・販売が同一営業主によって行われているのが一般的であるとまではいえない。
ウ 判断
上記(1)を踏まえて上記ア及びイを総合して判断するに、本件商標の指定役務と引用商標の指定商品は、いずれにおいても、通常同一営業主により製造、販売又は提供されている等の事情により、それらの商品と役務に同一又は類似の商標を使用した場合に、同一営業主の製造、販売又は提供に係る商品又は役務と誤認混同されるおそれがあるものということはできないものであり、非類似の役務及び商品というのが相当である。
・商品役務の類否判断
本件は、商品役務の類否判断の仕方について裁判例が引用されていたため、取り上げた。
商標法第4条第1項第11号に規定する指定商品と指定役務の類否については、それらの商品と役務が通常同一営業主により製造、販売又は提供されている等の事情により、それらの商品と役務に同一又は類似の商標を使用した場合に、同一営業主の製造、販売又は提供に係る商品又は役務と誤認混同されるおそれがあるか否かによって判断すべきである(平成30年(行ケ)第10085号同年12月20日知財高裁判決)
本件で、異議申立人は、「類似群コード」に基づく主張を展開したが、「類似群コード」はあくあで、便宜的に類否判断を行えるためのものであり、類似関係になりやすいものを定めているに過ぎない。
特許庁HPにも「この「類似商品・役務審査基準」は、生産部門、販売部門、原材料、品質等において共通性を有する商品、又は、提供手段、目的若しくは提供場所等において共通性を有する役務をグルーピングし、同じグループに属する商品群又は役務群は、原則として、類似する商品又は役務であると推定するものとしています。」と説明されており、審査実務上、類似するものと推定されるに留まる。(ここで言う「推定」は、審査実務上の「推定」であって、法律上の「推定」ではないでしょう。)
よって、個々の商品役務との関係について、全ての組合せが類似することまではいえず、これについては、上記の判断基準に基づいて判断される。
本件では「役務の提供と商品の製造・販売が同一営業主によって行われているのが一般的であるとまではいえない」と判断され、「誤認混同されるおそれがあるものということはできないものであり、非類似の役務及び商品というのが相当である」とされた。
異議2023-900142 | 決定日 2024/5/31 |
適用条文 | 本願商標 | 引用商標2 | 判断 |
4条1項11号 | 〇 (商標非類似) |
- 審判1審決抜粋
- 所感
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、左側の一部が円状に欠けた青色の円図形(以下「青色図形」という。)と青色図形内の右側に白抜きされた欧文字「G」とその右横に「EEP」の青字の欧文字(以下これらの欧文字をまとめて「GEEP」という。)を配してなるところ、白抜きされた「G」の欧文字を含む青色図形と「EEP」の欧文字は近接して配置され、同じ色彩で書されていることから、外観上、構成全体として一体的なものとして印象づけられるものである。
そして、本件商標の構成中の「GEEP」の欧文字は、「ヤギと羊の混合種」(小学館発行「ランダムハウス英和大辞典 第2版」)の意味を有し、「ギープ」と発音される英単語として掲載されているものの、当該文字は、一般に慣れ親しまれた英単語とはいい難く、また、本件商標の指定商品の分野において、特定の意味合いを有する語として知られているという事情は見いだせない。
また、特定の意味合いを想起させない欧文字からなる商標を称呼するときは、我が国で広く親しまれている英語風又はローマ字風の発音をもって称呼されるのが一般的といえるところ、申立人が主張するとおり、「GEE」の欧文字は、「ジー」と発音される場合があることから、「GEEP」の欧文字は、「ジープ」の称呼が生じる場合もあると認めるのが相当である。…
したがって、本件商標は、その構成中「GEEP」の欧文字より、「ギープ」又は「ジープ」の称呼が生じ、特定の意味合いは生じないものである。…
(3)本件商標と引用商標の類否について
ア 外観について
本件商標と引用商標1ないし引用商標6とを比較すると、両者は、上記(1)及び(2)のとおりの構成よりなるところ、青色図形の有無及び色彩において相違し、「GEEP」の1文字目の「G」と「JEEP」の1文字目の「J」の差異を有し、外観上、その印象は著しく相違し、判然と区別できるものである。…
したがって、本件商標と引用商標とは、いずれも外観上、その印象は著しく相違し、判然と区別できるものである。
イ 称呼について
本件商標から生じる「ギープ」の称呼と引用商標から生じる「ジープ」の称呼とは、…称呼上、聞き誤るおそれはないものである。
本件商標から生じる「ジープ」の称呼と引用商標から生じる「ジープ」の称呼とは、共通する。
ウ 観念について
本件商標は、特定の観念が生じないのに対し、引用商標は、「申立人の四輪駆動小型自動車のブランド」の観念を生じるものであるから、観念上相紛れるおそれがないものである。
エ 判断
上記アないしウによれば、本件商標より「ギープ」の称呼が生じる場合、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念において、いずれも相違し、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきであって、別異の商標というべきである。
また、本件商標より「ジープ」の称呼が生じる場合、本件商標と引用商標とは、称呼が共通するとしても、外観においてその印象は著しく相違し、また、観念においても両者は明確に区別することができるから、このような明らかな相違は、称呼の共通性による印象を凌駕するほど顕著なものであるといえる。
したがって、本件商標と引用商標は、その外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきである。
・「図形」を利用した一体的な商標
本件は、外観、称呼、観念のうち、特に外観の違いが結果に大きく影響したと考えられる事例である。
決定は、「JEEP」が著名商標であることを認定した上でなお、「本願商標と引用商標は、称呼が共通するとしても、外観においてその印象は著しく相違し、また、観念においても両者は明確に区別することができる
」と判断した。
著名商標すら非類似とされるのであるから、あえて文字部分と図形部分が一体となるように商標を作ることで、他の商標との差別化を図る、という戦略は、選択肢の一つとして持っておいてもよいかもしれない。
特に、本件商標は、「JEEP」との文字上の違いとなる「G」の部分に図形を用いて、Gが強調されるようにもなっている。うまく図形を使った商標だと感心してしまう。
・親しみのない英単語→特定の意味合いを想起させない欧文字の称呼
本件では「GEEP」は辞書の意味を有しているが、一般に親しまれた英単語ではなく、特定の意味合いを想起させない欧文字であると評価し、このような語については「特定の意味合いを想起させない欧文字からなる商標を称呼するときは、我が国で広く親しまれている英語風又はローマ字風の発音をもって称呼されるのが一般的といえる」と判断された。
称呼について考えるときに、このような考え方をしっておくのは有益であろう。
まず、その商標の語が「一般に慣れ親しまれた単語ではないという事実から、特定の意味合いを想起させない欧文字である」と主張し、その上で上記赤線のフレーズから「英単語の読みではなく、英語風又はローマ字風の発音で称呼されるのが一般的である」と主張するとよいだろう。
異議2023-685003 | 審決日 2024/6/5 |
適用条文 | 本願商標 | 引用商標2 | 判断 |
4条1項11号 | 〇 (商標非類似) |
- 審判1審決抜粋
- 所感
3)商標法第4条第1項第11号該当性
ア 本件商標
…本件商標からは、中央部分の楕円形の内部の「pastaZARA」と下方の「Sublime」の文字部分を分離抽出して観察することができる。
…「pastaZARA」の文字部分は、楕円形内にまとまりよく同じ書体で一体的に表されており、かかる構成からすれば、「pasta」の文字部分が指定商品及び指定役務の品質や質等を表示したものとして認識されるというよりは、むしろ、「pastaZARA」の文字全体で一体のものとして認識、把握されるものであるから、当該文字部分からは、「パスタザラ」の称呼が生じるものである。
そして、「pasta」の文字は「パスタ(スパゲッティ・マカロニなどの麺類の総称)」の意味を有する語(ベーシックジーニアス英和辞典 株式会社大修館書店)として親しまれている語ではあるものの「ZARA」の文字は、辞書等に記載された成語ではなく特定の意味を有しない造語であるから、「pastaZARA」の文字全体としては特定の意味を有しない造語と理解されるものである。
…なお、申立人は、本件商標構成中の「pasta」の文字は、「ZARA」と分離して異なる書体で記載され、指定商品・指定役務との関係で識別力が強い語句とはいえない旨主張するが、上記のとおり、「pastaZARA」の文字は同じ書体で楕円形図形の中にまとまりよく表されているから、構成文字全体で一体のものとして認識、把握されるものである。
また、当該文字部分から生ずる「パスタザラ」の称呼も無理なく一連に称呼し得るものである。
したがって、本件商標の構成中「ZARA」の文字部分が強い印象を与えるものということはできない。
ウ 本件商標と引用商標の類否
(イ)本件商標と引用商標2の類否について
本件商標は別掲1のとおりの構成からなるものであり、引用商標2は、別掲3のとおり「ZARA」の欧文字を横書きしてなるものであるから、本件商標と引用商標2は、外観上、相紛れることのない、別異のものとして認識し、把握されるというべきである。
また、本件商標の文字部分と引用商標2を比較してみても、本件商標の「pastaZARA」…と引用商標2の「ZARA」とは構成文字の相違から、明確に区別できるものである。
次に、称呼においては、本件商標から生じる…「パスタザラ」…の称呼と引用商標2から生じる「ザラ」の称呼とは、明らかに音数が相違するから、明瞭に聴別できるものである。
さらに、観念においては、本件商標は、特定の観念を生じないものであり、引用商標2は、その指定商品との関係においては、申立人のファッションブランド「ZARA」の観念を生じる場合があるが、その指定役務との関係においては特定の観念を生じないから、本件商標と引用商標2とは、観念において相紛れるおそれはないか比較することはできない。
そうすると、本件商標と引用商標2は、外観及び称呼において相違し、観念において相紛れるおそれはないか比較することができないものであるから、これらを総合して判断すれば、両商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
・「pastaZARA」に対する判断
本件で決定は「pastaZARA」が一体的な商標であり、「パスタザラ」の称呼を生ずると判断したが、私はこの判断には疑問がある。
まず、本件商標は、小文字の「pasta」と大文字の「ZARA」が繋がっており、看者において両部分は明確に区別され得るようにも思える。
また、私が気になったのは、この商標を付した商品(パスタ)が流通し、それなりの知名度を得たとして、一般の消費者はこの商品を「パスタザラ」呼ぶだろうかという点である。
私なら、この商品を呼ぶときには「ザラのパスタ」と呼ぶと思うし、誰かと話すときも「パスタザラおいしいよね」ではなく「ザラのパスタおいしいよね」と話す方が普通ではないかと思う。
不服2024-860 | 審決日 2024/6/5 |
適用条文 | 本願商標 | 引用商標1 | 判断 |
4条1項11号 | 〇 (商標非類似) |
不服2023-8151 | 審決日 2024/6/25 |
適用条文 | 本願商標 | 引用商標1 | 判断 |
4条1項11号 | × (商標類似) |
- 審判1審決抜粋
- 審判2審決抜粋
- 所感
5 当審の判断
本願商標は、別掲1のとおり、上段に「MT」の文字、中段に「METATRON」の文字(上段と中段の文字の間には一本の横線が配置されている。)及び下段に黒色の長方形の図形内に「LUKA」の文字を白抜きにてそれぞれ横書きしてなるところ、全ての文字が同じ書体にて表され、かつ、中段の文字と下段の黒色の長方形の図形が幅をそろえて、バランスよく配置されていることから、視覚的にまとまりよく一体的に表された印象を与えるものであって、構成文字全体から生じる「エムティメタトロンルカ」の称呼も無理なく一連に称呼し得る。
そして、本願商標の構成中、「MT」の文字は、欧文字2文字であり、「METATRON」の文字は、「ユダヤ教の天使の名前」(出典:Weblio英和辞書(https://ejje.weblio.jp/content/metatron))の意味合いを有する語であるが、我が国において親しまれているとはいい難いものであり、また、「LUKA」の文字は、一般的な辞書等に掲載のない語であって、それぞれ本願商標の指定商品及び指定役務との関係で直ちに特定の意味合いを想起させるとはいえない。そして、上記のとおり、本願商標がまとまりのよい構成になっていることを踏まえれば、本願商標は、構成全体で一体の造語を表してなるものと理解されるとみるのが相当であり、いずれかの文字が、自他商品役務の識別標識として強く支配的な印象を与える、もしくは自他商品役務の出所識別標識としての機能を有しない部分として省略されるとは考え難い。
そうとすると、本願商標に接する取引者、需要者は、その構成中の「MT」及び「METATRON」の文字を捨象し、「LUKA」の文字部分のみに着目して取引に当たるというよりは、むしろ本願商標の構成文字部分全体をもって取引に資されるというのが相当である。
してみれば、本願商標は、その構成全体から「エムティメタトロンルカ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
したがって、本願商標の構成中、「LUKA」の文字部分を分離抽出し、これを前提に、本願商標と引用商標とが類似する商標であるとして、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。
(2)本願商標について
本願商標は、別掲1のとおり、欧文字「Y」を図案化したとおぼしき図形を左側に配し、その右側の上段に、大きく、「SCORPIO」の文字を、右側の下段に、小さく、「ELECTRiC」の文字を表してなるものである。
そして、本願商標の構成中の図形部分は、直ちに特定の事物を想起させないから、これよりは特定の称呼及び観念は生じないものである。
また、「SCORPIO」の欧文字は、「さそり座」を意味する英語(「ジーニアス英和辞典 第5版」株式会社大修館書店)であるが、これが、我が国において一般に親しまれている語であるとはいえないから、特定の意味合いは想起されず、これよりは、当該欧文字を英語風又はローマ字風に発音した、「スコーピオ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。
他方、「ELECTRiC」の欧文字は、構成中「i」の欧文字が小文字となっているものの、この欧文字全体として、「電気の」を意味する英語(前掲書参照)である「ELECTRIC」の文字を表したものと容易に理解されるものである。
そして、この欧文字は、本願の指定商品中、第12類に属する指定商品との関係において、需要者に、商品の品質を表したものと認識させることから、当該部分は自他商品の識別標識としての機能を有しないか、極めて弱いものというのが相当であり、これより、自他商品の識別標識としての称呼及び観念は生じない。
また、本願商標は、図形部分と各文字部分とが、重なることなく、間隔を空けて配置されていることから、視覚上、分離して看取、把握され得るものであり、構成上からは、図形部分と各文字部分とが、それらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合している事情は見いだせない。さらに、図形部分及び「SCORPIO」の文字部分は、いずれも特定の観念を生じないものであるから、これらの図形部分及び各文字部分との間に、観念的にも密接な関連性を見いだすことはできない。
そうすると、本願商標は、その構成中の図形部分と、「SCORPIO」の文字部分とが、それぞれ独立して需要者に対し商品の出所識別標識としての機能を果たし得るものといえる。…
したがって、本願商標からは、本願要部に相応して、「スコーピオ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。
(3)引用商標について
引用商標は、濃淡のある緑色で、「SCORPiO」の文字を筆書き風に表してなるところ、これよりは、「スコーピオ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。
(4)本願商標と引用商標の類否について
本願商標と引用商標を比較すると、外観について、全体の構成との比較においては相違するものの、本願要部である「SCORPIO」の文字部分と、引用商標の「SCORPiO」の文字との比較においては、文字の書体や「I」と「i」の大文字と小文字の差異等の相違があるとしても、それぞれの構成中の欧文字7文字全てが、同じ綴りからなるものであるから、両者は外観上、近似した印象を与えるというのが相当である。
そして、称呼においては、「スコーピオ」の称呼を共通にするものである。
また、観念においては、いずれも特定の観念が生じないから比較することができない。
したがって、本願要部と引用商標とは、観念において比較できないとしても、「スコーピオ」の称呼を共通にし、外観上近似した印象を与えるものであるから、これらの外観、称呼及び観念によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して考察すれば、本願商標と引用商標は、相紛れるおそれのある類似の商標というのが相当である。
・一般に親しみのない語との結合
審決2は以前(2024年9月2日)に載せた事例であるが、今回は「一般に親しみのない語 + 別の語」の組合せで、要部認定が認められなかった事例と要部認定された事例の比較として載せた。
第1本願商標は「MT METATRON LUKA」であるが、MTはMETATRONの略と捉えることができ、白地に黒文字の「MT METATRON」と黒字に白文字の「LUKA」で視覚上分かれていることから、少なくとも「MT METATRON」が一体的な結合商標となることにはわかる。
一方で、視覚的に分かれている「LUKA」がさらに結合されるか。審決は、「LUKA」が辞書にない語で特定に意味合いを想起させないことから、「いずれかの文字が、自他商品役務の識別標識として強く支配的な印象を与える、もしくは自他商品役務の出所識別標識としての機能を有しない部分として省略されるとは考え難い」とした。
「一般に親しみのない語」と「特定の意味合いを想起させない語」はどちらも、商品役務の識別性を有し、識別性の程度にも大きな差が無い。
第2本願商標は、「一般に親しみのない語(SCORPIO)」と「一般に親しみのある語(ELECTRIC)」の結合であり、この点から要部認定(分離)された事例であるため、2つの語に識別性の差が生じていた点で比較になるだろう(親しみのある語は識別性がない)。
・視覚上の切り分けを施しても分離されない事例
上述の通り、「MT METATRON」と「LUKA」は色遣いによって視覚的に区別できる態様の商標である。このようなデザインを施しても、分離観察されずに、一体不可分な結合商標として認定されるケースがあることは、商標デザインを考えるときの幅を拡げてくれるだろう。
一体不可分に見せたいからといって色遣いを揃えなければならないわけではない。重要なのは「結合力」と「分離力」のバランスであろう。
「識別性を有するが、識別性に大きな差が無い語」が「まとまりよく並び一体的な印象を与える」場合には、視覚上の切り分けが施されていたとしても、分離されず、一体的な商標と判断される余地がある。
不服2024-1406 | 審決日 2024/6/25 |
適用条文 | 本願商標 | 判断 |
3条1項6号 | ぐっすりタイム (標準文字) | 〇 (3条非該当) |
- 審決抜粋
- 所感
3 原査定の拒絶の理由(要旨)
本願商標は、「ぐっすりタイム」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中、「ぐっすり」の文字は「深く眠っているさま。」の意味を有し、「タイム」の文字は「時。時間。」の意味を有する語である。
そして、本願の指定商品を含む様々な業界において、「ぐっすり(グッスリ)タイム」の文字が、「ぐっすり眠る時間」ほどの意味合いで用いられており、熟睡できる時間をもたらすことをうたった商品の宣伝・広告用の語句として、一般に使用されている実情が見受けられる。
そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する需要者は、「ぐっすり眠る(熟睡できる)時間をもたらす効果をうたった商品」であるといった商品の特性や優位性を表した宣伝文句の一種であると理解し、認識するにすぎないから、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であるかを認識することができないものといわざるを得ない。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。
4 当審の判断
本願商標は、「ぐっすりタイム」の文字を標準文字で表してなり、その構成中、「ぐっすり」の文字は「深く眠っているさま。」などを、「タイム」の文字は「時。時間。」などを、それぞれ意味する語であるところ(出典:「広辞苑 第七版」株式会社岩波書店)、それらの語義を結合して連想、想起される本願商標全体の意味合いは「深く眠っている時間」ほどの漠然としたものである。
そして、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、「ぐっすりタイム」の文字やこれに類する文字が、原審説示のごとく、商品の特性や優位性を表した宣伝文句として広く一般的に使用されている事実は発見できず、そのほか、本願商標に接する需要者が、それを自他商品の識別標識としては認識し得ないというべき事情も発見できなかった。
そうすると、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものとはいえないものである。
したがって、本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
・業界において使用されていない事実
「ぐっすりタイム」は、その言葉だけをみれば、「ぐっすり眠れる時間」と認識でき、指定商品の一つである「サプリメント」においては、ぐっすり眠れる効果が得られるサプリメントといった意味を認識するだろう。
その意味では、3条1項3号や6号に該当するようにも思える。しかしながら、たとえば「入眠タイム」といったように、入眠というダイレクトな記載ではなく「ぐっすり」という状態から、やや間接的に表現されているため、明らかに3条1項3号や6号とはいえないことも確かにそうである。
審決はこれを「連想、想起される本願商標全体の意味合いは「深く眠っている時間」ほどの漠然としたものである。」と評価した。
但し、この評価は、商標登録が認められるという心証を前提に評価されたものとも思える。
重要視されたのは「その業界での使用実績があるか」の判断であり、使用実績がないという事実が認められるから、「漠然とした」表現に対して、商標登録を認めたとも考えることができるだろう。
私見では、本願商標は「漠然とした状態」を示すものと評価することもできるだろうし、その商品の品質や効用を表すものと評価することもできる、どちらに転ぶこともできる商標であり、業界の使用実績がないことが決め手となったのではないかと思える。
3条系での商標を取りたいと考える者は、商標出願前に使用実績の有無を調べるのがよいだろう。
不服2023-650040 | 審決日 2024/5/16 |
適用条文 | 本願商標 | 判断 |
3条1項3号 | 〇 (3条非該当) |
- 審決抜粋
- 所感
3 原査定の拒絶の理由の要旨
本願商標は、「Liturgies」の文字を普通に用いられる方法で左横書きしてなるところ、同文字は、「礼拝式、典礼」の意味を有する英語である。
そして、本願の指定商品には、ろうそく及び灯芯が含まれているところ、一般に様々な宗教及び宗派が存在しているとしても、礼拝等の宗教儀式において、ろうそくが用いられることは珍しいことではなく、日本でも普及している仏教の寺院やキリスト教の教会において、その施設内でろうそくが使用されていることは、一般的な事実である。
現に、本願の指定商品の需要者であるキリスト教関係者が、礼拝の実施に際して、「liturgy」の文字を使用していること及びキリストの礼拝においてろうそくは重要な要素とされている実情が確認できる。
そうすると、本願商標を、その指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、同商品が、「礼拝で使用される商品」であるといった、商品の品質又は用途を表示したものとして認識することから、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
4 当審の判断
本願商標は、上記2のとおり、「Liturgies」の文字を普通に用いられる方法で横書きしてなるところ、これは、一部の英和辞典に、「礼拝式,典礼」の意味を有する「liturgy」の複数形として載録されているものの、我が国において一般に親しまれた語とはいえないから、これに接する者に、直ちに特定の意味合いを理解させるものではない。
また、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、「Liturgies」の語が、商品の品質や用途を表すものとして一般に使用されている事実は発見できなかった。
他に、本願商標に接する需要者が、これを商品の品質又は用途を表示するものと理解するというべき事情も見いだせない。
そうすると、本願商標は、これに接する取引者、需要者により、商品の具体的な品質等を直接的に表示したものとして直ちに理解されるとはいい難く、むしろ、特定の意味合いを認識させることのない、一種の造語として認識、把握されるとみるのが相当である。
してみれば、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質等を表示するものとはいえず、自他商品を識別する機能を果たし得るものである。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するとはいえないから、これを理由として本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
・一般に親しまれた語といえないこと
外国語を使用する場合、その語が「一般に親しまれた語」といえるか否かは、3条を判断する上で、重要な要素となる。なぜならば、親しみのある語については、需要者において、その語の訳がすぐに想起される一方で、親しみのない語については、その語から訳が思い浮かばない以上、何らかの外国の文字としてしか認識されないからである。
たとえ、訳の内容が「商品の品質又は用途」を示すものであったとしても、審査において、その語が需要者において一般に親しまれている語といえるかの判断が抜けている場合には、そこを主張することを頭に入れておきたい。
なお、審決が「一般に親しまれた語とはいえない」と判断した後で「実際に業界において、商品の品質や用途を表すような使用がされているか」を調べていることにも留意すべきである。
一般に親しみのない語であっても、業界において使用実績があれば、その業界の需要者にとっては、商品の品質や用途として認識できるからである。
商標出願を検討する際には、「一般に親しみのある語といえるか」の他に「その業界での使用実績があるか」の判断も忘れないようにしたい。
不服2023-19844 | 審決日 2024/6/24 |
適用条文 | 本願商標 | 引用商標1 | 判断 |
4条1項11号 | 〇 (商標非類似) |
- 審決抜粋
- 所感
(1)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 商標の類否について
商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかも、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最三小判昭和43年2月27日民集22巻2号399頁参照)。
また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合には、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、原則として許されないが、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあると解される(最一小判昭和38年12月5日民集17巻12号1621頁参照)。
イ 本願商標について
本願商標は、別掲1のとおり、…図形(以下「本願図形部分」という。)と、その下に、「絹屋」の文字(以下「本願文字部分」という。)を配した、図形と文字を結合した構成よりなるところ、本願図形部分と本願文字部分とは、相互に一定の間隔を空けて、重なり合うことなく、独立して表されていることから、視覚上分離して看取し得るものである。
そして、本願図形部分は、…特定の称呼及び観念を生じないものである。
また、本願文字部分の「絹屋」の文字は、その構成文字に相応して「キヌヤ」の称呼を生じ、「絹布を織り、または売る人。また、その家。」(出典:株式会社岩波書店「広辞苑第七版」)の意味を表す語として辞書に載録されているものの、当該語は、我が国において、広く一般に親しまれている語とまではいえないものである。しかしながら、「絹」と「屋」の漢字は、我が国で一般に親しまれている平易な漢字であることからすれば、その漢字の語義から「絹布を織り、または売る人。また、その家。」程の観念を生じるものである。
そうすると、…本願商標は、その構成中の図形部分と文字部分が、それぞれ独立して出所識別機能を有する要部となり得るものであることから、本願文字部分「絹屋」を要部として抽出し、他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許されるというべきである。
したがって、本願商標は、その要部の一つである本願文字部分の「絹屋」の文字に相応して、「キヌヤ」の称呼を生じ、「絹布を織り、または売る人。また、その家。」程の観念を生じるものである。
ウ 引用商標について
引用商標は、別掲2のとおり、複数の図形要素を組み合わせた幾何学模様の赤色の図形(以下「引用図形部分」という。)を配し、その下に、赤色の太字で「キヌヤ」の片仮名(以下「引用文字部分」という。)を配した、図形と文字を結合した構成よりなるところ、引用図形部分と引用文字部分とは、…視覚上分離して看取し得るものである。
そして、引用図形部分は、…特定の称呼及び観念を生じないものである。
また、引用文字部分の「キヌヤ」の片仮名は、その構成文字に相応して「キヌヤ」の称呼を生じる一方、当該片仮名自体は、辞書に載録されていない。
他方、…引用文字部分である片仮名の「キヌヤ」より直ちに「絹屋」の文字のみを想起させるとはいい難いものであるから、引用文字部分は、特定の意味合いを有するものとは認められず、特定の観念を生じることのない一種の造語として理解されるとみるのが相当である。
そうすると、…引用商標は、…引用文字部分「キヌヤ」を要部として抽出し、他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許されるというべきである。
したがって、引用商標は、その要部の一つである引用文字部分の「キヌヤ」に相応して、「キヌヤ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
エ 本願商標と引用商標との類否について
外観について、本願商標と引用商標は、その構成全体が相違することに加え、本願文字部分と引用文字部分とを比較しても、文字種及び文字数の差異から、両者は、外観上、相紛れるおそれはない。
次に、称呼について、本願文字部分と引用文字部分は、「キヌヤ」の称呼を生じることから、両者は、称呼を共通にするものである。
さらに、観念について、本願文字部分は「絹布を織り、または売る人。また、その家。」程の観念が生じるものであるのに対し、引用文字部分は特定の観念を生じないものであって、両者は、観念上、相紛れるおそれはない。
そうすると、本願商標と引用商標とは、「キヌヤ」の称呼を共通にするとしても、外観及び観念において相紛れるおそれのないものであるから、これらを総合して判断すれば、両者は、互いに相紛れるおそれのない非類似の商標というのが相当である。
・商標類否+結合商標の規範(最判)
商標類否と結合商標の規範が引用されていたので、せっかくなので受験生向けに載せておきました。
・観念の差が登録に傾いた?
本願商標と引用商標は、称呼を共通にしており、外観は異なるものの、要部認定によって図形部分は無視されるので、文字部分だけを見ると「絹屋」と「キヌヤ」は、漢字と片仮名の関係ですので、外観の違いだけから、非類似とすることにはやや抵抗があるようにも思います。そうすると、本件では、観念の差が登録の決め手になったかもしれません。
商標出願の際に、調査した先行商標と比較するとき、外観や称呼はわかりやすいのでそこに目が行きがちです。また、「観念」はどのように認定されるかもわからないことが多く、出願人の意図した観念が認定されないことも珍しくありませんが、需要者が客観的に認識するであろう「観念」にも目を向けて、商標の類否を判断し、出願に繋げていければ、商標中~上級者といってもよいかもしれませんね。
不服2023-650013 | 審決日 2023/12/12 |
適用条文 | 本願商標 | 引用商標1 | 判断 |
4条1項11号 | × (商標類似) |
- 審決抜粋
- 所感
1 本願商標及び手続の経緯
本願商標は、別掲1の構成よりなり、第12類、第18類及び第25類に属する日本国を指定する国際登録において指定された、別掲2のとおりの商品を指定商品として、2019年(令和元年)10月16日に国際商標登録出願されたものである。
(1)結合商標の類否判断について
複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、その構成部分全体によって他人の商標と識別されるから、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは原則として許されないが、取引の実際においては、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、必ずしも常に構成部分全体によって称呼、観念されるとは限らず、その構成部分の一部だけによって称呼、観念されることがあることに鑑みると、商標の構成部分の一部が需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
(2)本願商標について
本願商標は、別掲1のとおり、欧文字「Y」を図案化したとおぼしき図形を左側に配し、その右側の上段に、大きく、「SCORPIO」の文字を、右側の下段に、小さく、「ELECTRiC」の文字を表してなるものである。
そして、本願商標の構成中の図形部分は、直ちに特定の事物を想起させないから、これよりは特定の称呼及び観念は生じないものである。
また、「SCORPIO」の欧文字は、「さそり座」を意味する英語(「ジーニアス英和辞典 第5版」株式会社大修館書店)であるが、これが、我が国において一般に親しまれている語であるとはいえないから、特定の意味合いは想起されず、これよりは、当該欧文字を英語風又はローマ字風に発音した、「スコーピオ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。
他方、「ELECTRiC」の欧文字は、構成中「i」の欧文字が小文字となっているものの、この欧文字全体として、「電気の」を意味する英語(前掲書参照)である「ELECTRIC」の文字を表したものと容易に理解されるものである。
そして、この欧文字は、本願の指定商品中、第12類に属する指定商品との関係において、需要者に、商品の品質を表したものと認識させることから、当該部分は自他商品の識別標識としての機能を有しないか、極めて弱いものというのが相当であり、これより、自他商品の識別標識としての称呼及び観念は生じない。
また、本願商標は、図形部分と各文字部分とが、重なることなく、間隔を空けて配置されていることから、視覚上、分離して看取、把握され得るものであり、構成上からは、図形部分と各文字部分とが、それらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合している事情は見いだせない。さらに、図形部分及び「SCORPIO」の文字部分は、いずれも特定の観念を生じないものであるから、これらの図形部分及び各文字部分との間に、観念的にも密接な関連性を見いだすことはできない。
そうすると、本願商標は、その構成中の図形部分と、「SCORPIO」の文字部分とが、それぞれ独立して需要者に対し商品の出所識別標識としての機能を果たし得るものといえる。…
したがって、本願商標からは、本願要部に相応して、「スコーピオ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。
(3)引用商標について
引用商標は、濃淡のある緑色で、「SCORPiO」の文字を筆書き風に表してなるところ、これよりは、「スコーピオ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。
(4)本願商標と引用商標の類否について
本願商標と引用商標を比較すると、外観について、全体の構成との比較においては相違するものの、本願要部である「SCORPIO」の文字部分と、引用商標の「SCORPiO」の文字との比較においては、文字の書体や「I」と「i」の大文字と小文字の差異等の相違があるとしても、それぞれの構成中の欧文字7文字全てが、同じ綴りからなるものであるから、両者は外観上、近似した印象を与えるというのが相当である。
そして、称呼においては、「スコーピオ」の称呼を共通にするものである。
また、観念においては、いずれも特定の観念が生じないから比較することができない。
したがって、本願要部と引用商標とは、観念において比較できないとしても、「スコーピオ」の称呼を共通にし、外観上近似した印象を与えるものであるから、これらの外観、称呼及び観念によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して考察すれば、本願商標と引用商標は、相紛れるおそれのある類似の商標というのが相当である。
・結合商標の規範(最判)
結合商標の規範が引用されていたので、せっかくなので受験生向けに載せておきました。審決では、たまにこれを挙げてくれるものもありますが、多くは規範載せずに判断を進めていますね。
・要部認定について
本願商標では「Yっぽい図形部分」「SCORPIO」「ELECTRiC」の3つについてそれぞれ判断しており、個々の識別性から「ELECTRiC」に識別性がないことが認定されました。
本件は国際商標登録出願ですが、「SCORPIO」が「我が国において一般に親しまれている語といえない」と判断されたのは、驚きだったかもしれません(どれだけ英語力が低い先進国なのだと思ったかもしれませんね)。
私個人としては、スコーピオンがさそりくらいは皆知っているから、SCORPIOがさそり関連の言葉であろうとの認識はあるでしょうし、一般的に親しまれていないと言い切ったのは違和感がありました。「ELECTRIC」の方が一般に知られている語ではあるので、審判官に相対的な感覚が混ざり込んでしまったのかもしれませんね。
・類否判断について
本件で最も違和感があったのは、「外観近似(類似)」の判断ではなかったでしょうか。文字数と綴りがあっていても、両商標の外観は明らかに違っています。書体も違いますし、本願商標は整頓された文字ですが、引用商標は上端を揃えて下端が段々と右上に上がるようにして文字サイズが小さくなっており、文字の端も擦れたような書体(筆書き風)です。一般的な感覚では、これらの商標を分離して見ても、近似するとは思わないように思います。
そもそも、文字数と綴りが同じというのは「称呼が一致する条件」であり、外観に差異があると認めた上で、「文字数と綴りが同じであること」のみを根拠に外観近似と判断したのは、論理的には不十分であり、さすがに審決に誤りがあったように思いました。
不服2023-650011 | 審決日 2023/12/25 |
適用条文 | 本願商標 | 引用商標1 | 判断 |
4条1項11号 | × (商標類似) |
- 審決抜粋
- 所感
本願は、2020年(令和2年)10月23日にGermanyにおいてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して、2021年(令和3年)4月21日に国際商標登録出願されたものであ…る。
(1)本願商標について
本願商標は、別掲1のとおり、「AS」の欧文字をモノグラムにしたとおぼしき図形(以下「本願図形部分」という。)を大きく表し、その下に、「all stars」の欧文字(以下「本願文字部分」という。)を横書きしてなるところ、本願図形部分は、直ちに特定の事物を表したもの、又は意味合いを表すものとして認識されるとはいえないことから、特定の称呼及び観念は生じないものである。
また、本願文字部分のうち、…「all-star」の文字は「オールスターチームに選ばれた選手」の意味を有する語(前掲書)として親しまれているものである。してみれば、本願文字部分は、「オールスターチームに選ばれた選手」程の意味合いを認識させるものである。
そして、本願図形部分と本願文字部分(以下、これらをまとめて「両部分」という。)とは間隔をあけて配されていること、これらを構成する線の太さが異なること、それぞれの高さが大きく異なることからすれば、両者は視覚上分離して看取され得るものであって、観念的に関連性を有しているわけではないし、一連一体となって何らかの称呼が生じるともいえないもので、ほかに両部分を常に一体のものとしてのみ観察しなければならない特段の事情も見い出せない。
さらに、「all stars」の文字は、本願の指定商品との関係において、商品の品質等を表示するものでもないから、商品の出所識別標識としての機能を十分に発揮し得るといえるものである。
してみれば、両部分は、それぞれが独立して商品の出所識別標識としての機能を果たし得るものといえるから、本願文字部分を要部として抽出し、他の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。
(2)引用商標
ア 引用商標1
引用商標1は、上記第3の1のとおり、「ALL STAR」の欧文字及び「オールスター」の片仮名を二段に書してなるところ、下段に表された「オールスター」の文字は、上段の「ALL STAR」の文字の読みを片仮名表記したものと容易に理解できるものである。
そして、上記(1)のとおり、…「ALL STAR」の文字は「オールスターチームに選ばれた選手」の意味を有する語として親しまれている「all-star」の文字に通ずるものである。してみれば、「All STAR」の文字全体としては、「オールスターチームに選ばれた選手」程の意味合いを認識させるものである。
したがって、引用商標1は、その構成文字に相応して、「オールスター」の称呼を生じ、「オールスターチームに選ばれた選手」の観念を生じるものである。
(3)本願商標と引用商標の類否について
ア 本願商標と引用商標1の類否
本願商標と引用商標1の外観を比較すると、本願商標は図形と文字とからなるのに対して、引用商標1は文字のみからなることから、両商標は、その構成全体の比較において外観上相違するものであって、本願文字部分と引用商標1との比較においても、両者の外観は、「オールスター」の片仮名の有無、語尾における「s」の欧文字の有無及び大文字のみからなるものか小文字のみからなるものかという差異を有するものである。
しかしながら、引用商標1の構成中の「オールスター」の文字は、上段に表された「ALL STAR」の文字の読みを表したものと容易に理解できるものであること、また、両商標を構成する文字部分は、いずれも一般的な書体であること、さらに、語尾の「s」の文字以外の文字つづりを共通にするものであることからすれば、これらの差異は看者に対し、強い印象を与える外観上の差異とはいい難いものである。
してみれば、本願文字部分と引用商標1とは、外観上似通った印象を与えるものと判断するのが相当である。
次に、称呼については、本願商標から生じる「オールスターズ」の称呼と、引用商標1から生じる「オールスター」の称呼とを比較すると、称呼における識別上重要な要素である語頭音から第6音までの「オールスター」の音を同じくし、異なるところは語尾における「ズ」の音の有無のみである。
そして、「ズ」の音の有無は、単数形か複数形かの相違によるものであることに加え、比較的聴取され難い語尾に位置するものであるから、その差異が聴者に対し、強い印象を与えるものとはいい難いものであって、両者を一連に称呼するときは、全体としての語調、語感が近似したものとなり、称呼上互いに紛れるおそれがあるものと判断するのが相当である。
さらに、観念については、両商標は、ともに「オールスターチームに選ばれた選手」の観念を生じるものであるから、観念を同じくするものである。
以上によれば、本願文字部分と引用商標1は、外観において似通った印象を与えるものであって、称呼において互いに紛らわしく、観念を同一にするものであるから、その外観、称呼及び観念が、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合すれば、本願商標と引用商標1は、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれのある類似の商標というべきである。
2 請求人の主張について
(1)請求人は、本願商標はその構成全体が視覚上まとまりよく一体的に構成されているものであること、構成全体から生じる「アズオールスターズ」の称呼は比較的短い音数であって、よどみなく一気に称呼されるものであること、本願図形部分が、「~のように」「~のごとく」「~と同じように」の意味を有する英単語「AS」であって、これと本願文字部分とが一体となって「オールスターズのように」「オールスターズのごとく」「オールスターズと同じように」等の意味合いを想起させる旨を述べ、本願商標は常に一体のものとしてみるべき旨を主張している。
しかしながら、仮に、本願図形部分が「AS」(エイエス)の欧文字を表したものと認識されることがあるとしても、直ちに「~として」を意味する英単語「as」(アズ)と理解するというより、むしろ、本願文字部分を構成する「all」と「stars」の各頭文字を大文字表記したものと理解すると見るのが自然である。さらに、上記1(1)のとおり、両部分は間隔をあけて配されていることに加え、これらを構成する文字の書体が異なること、文字の大きさが全く異なることからすれば、両者はやはり視覚上分離して看取され得るものである。そして、両部分は、観念的に関連性を有しているわけではないし、一連一体となって何らかの意味合いが生じるともいえないもので、ほかに両部分を常に一体のものとしてのみ観察しなければならない特段の事情も見い出せない。
さらに、「all stars」の文字は、本願の指定商品との関係において、商品の品質等を表示するものでもないから、商品の出所識別標識としての機能を十分に発揮し得るといえるものである。
してみれば、本願図形部分が、英単語「AS」の欧文字を表したものと認識されるとしても、上記1(1)のとおり、両部分は、それぞれが独立して商品の出所識別標識としての機能を果たし得るものといえるから、本願文字部分を要部として抽出し、他の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。
・称呼の認定「AS」は単語の「As」か「All Stars の略語」か
本件は、「all stars」の部分だけが要部認定されたわけだが、請求人(出願人)は本願商標を「アズオールスターズ」と主張した一方で、審判官は「「AS」は「all stars」の頭文字を採った略語と捉えるのが自然である」と判断した(いわば、二段に「オールスターズ」を表示したものと捉えた)。
この点は、「海外の感覚と日本の感覚の違い」なのか、出願人が苦し紛れに英単語の「As」と主張したのかが気にあるところである。私も、ぱっと見で、「all stars」の頭文字を採った略語だと思ったが、頭文字を並べるという表現方法が文化的に根付いているかは、国にもよるだろう。仮に、ドイツ人がこの商標を見たときに、英単語の「As」と捉えるのが通常であると感じるならば、「アズオールスターズ」という称呼の方が妥当ということになる。
事実として言えることは、このような「言語」に対する習慣や練度の違いが、国際的に商標を取ろうとするときの難しいところでもあるということだろう。
・単数/複数の「s」の称呼
本件でさらに気に留めたい点が「all satr」と「all stars」の称呼の違いである。私は、国際的に英語に慣れ親しんでいる国と、そうでない国の違いが出たように思う。
英語は、単数と複数をきっちり使い分ける言語であるため、ネイティブからすれば「s」の違いは、称呼として明らかに違いを聞き分けることができるように思える。(個人的には、割と協調的に「s」の音を発しているように思う。)
一方で、日本語は、単数/複数を使い分けずに話ができる言語である。日常会話で「一つの」とか「複数の」とかをきっちりと言う人は稀だろう。
審決は「「ズ」の音の有無は、単数形か複数形かの相違によるものであることに加え、比較的聴取され難い語尾に位置するものであるから、その差異が聴者に対し、強い印象を与えるものとはいい難いものであって、両者を一連に称呼するときは、全体としての語調、語感が近似したものとなり、称呼上互いに紛れるおそれがある」と判断したが、「聴取され難く、語感が近似する」という感覚は、英語圏の人の感覚とはずれているかもしれない。
不服2023-1766 | 審決日 2024/4/19 |
適用条文 | 本願商標 | 判断 |
3条1項6号 | × |
- 審決抜粋
- 所感
2 商標法第3条第1項第6号の該当性について
本願商標は、「松本雑貨」の文字を普通に用いられる方法で横書きしてなるところ、その構成中「松本」の文字は、「姓氏の一。」の意味を有する語であり、「雑貨」の文字は、「種々のこまごました日用品。」(いずれも「大辞林第四版」株式会社三省堂)の意味を有する語である。
そして、「松本」の文字は、我が国において、ありふれた氏と理解されるものである。
また、別掲のとおり、雑貨を取り扱う会社やお店等であることを表す際、姓氏等を冠して「○○雑貨」のように一般に使用されている事実が認められる。
してみれば、本願商標は、全体として「(ありふれた氏である)松本氏による雑貨を取り扱う会社又は店」といった意味合いを表したものと認識されるとみるのが相当である。
そうすると、本願商標をその指定役務に使用したときには、これに接する需要者は、「(ありふれた氏である)松本氏による雑貨を取り扱う会社又は店に係る役務」であることを表したものと認識するにとどまり、本願商標は、自他役務の識別標識としての機能を果たし得ず、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標というのが相当である。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。
3 請求人の主張について
(1)請求人は、本願商標の構成中「松本」は、請求人(出願人)の会社の冠名を兼ねた固有の名字であってそれ自体が識別力を有しており、しかも「松本」と「雑貨」の文字の組み合わせによって、単なるありふれた氏又は名称のみからなる商標ではなく、需要者に識別可能な程度のまとまり良い一体の四文字の漢字列を構成し、本願商標はその構成自体が自他識別力を有する旨主張し、過去の登録例を挙げている。
しかしながら、上記2のとおり、「松本」及び「雑貨」の語の意味や、「松本」の文字が我が国においてありふれた氏と理解されること、雑貨を取り扱う会社やお店等であることを表す際、姓氏等を冠して「○○雑貨」のように一般に使用されている事実を併せみれば、本願商標は、その指定役務に使用したときには、自他役務の識別標識としての機能を果たし得ず、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標というべきである。
・「ありふれた氏+普通名称」は3条1項6号で処理
受験生向けの基礎的な知識かもしれないが、商標が「ありふれた氏」+αで構成されていた場合、思わず「3条1項4号?」となるかもしれないが、4号は「のみからなる」なので、3条1項6号で処理できないかを考えよう。
・常に3条1項6号に該当するわけではない
審決も述べているように、本件は、指定役務との関係から、「雑貨を取り扱う会社やお店等であることを表す際、姓氏等を冠して「○○雑貨」のように一般に使用されている事実。」が大きく考慮されているものと考えられる。
松本がありふれた氏であることは疑いのない事実ではあるが、姓氏等を冠した使用が一般に広まっていないような指定商品/役務であれば、ありふれた氏を用いていても登録の可能性はあることに留意したい。
・最初に名称を決めるときに商標の取り易さも考えた方がよい
本件のようなケースは典型であるが、店名や商品・サービスの名称を決めるときには、商標の取り易さも考えた方がいい。
「松本雑貨」は「何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる」程度の周知性がなければ商標登録できなくなり、雑貨屋という業種からすると、周知性を得るのは簡単なことではないだろう。今更店名を変えることも難しいとなると、商標権を得るハードルの高い名称を選んでしまったことがネックとなってしまったと見ることもできよう。
個人や知財部の無い中小企業から商標の相談を受けるときは、このようなリスクを提示してあげられるとよいだろう。
不服2023-6928 | 審決日 2024/6/18 |
適用条文 | 本願商標 | 判断 |
3条1項3号 | × (一部の指定商品役務について該当) ※本願は補正で該当の指定商品役務を削除して登録されている |
- 審決抜粋
- 所感
3 原査定の拒絶の理由(要旨)
本願商標は、「完全栄養食」の文字を赤色で縁取りし、横書きに表してなるところ、当該表現方法は普通に用いられる方法の域をでないものである。
4 当審における審尋
(1)「完全栄養食」について
本願商標は、別掲1のとおり、「完全栄養食」の文字を赤色で縁取られたデザインが施された書体で表してなり、第5類、第9類、第29類、第30類、第32類、第35類、第39類、第42類、第43類及び第44類に属する別掲2のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として登録出願されたものであるところ、一般に、商品又は役務に標章等を使用する際に、様々なデザイン化が行われている現状にあっては、本願商標の構成態様が格別に特殊な態様であるとはいい得ないものであって、これが看者に「完全栄養食」の文字を表したものであるという以上の格別の印象を与えるものというべき事情も見当たらないことからすると、本願商標は、これに接する取引者、需要者をして「完全栄養食」の文字を普通に用いられる方法の範囲内で表示したものと理解、認識させるにすぎないというのが相当である。
(4)請求人の主張について
請求人は、…本願商標の書体は、請求人の代表的な商品である「CUP NOODLE」において採用されている特徴的なフォントと同じデザインであるところ、…この特徴的なフォントそのものが、請求人商品を識別する重要な標識として広く消費者に認識されるようになっており、本願商標は、その態様が特徴的であって、一般的、日常的に使用されているというような実情にもなく、商標法第3条第1項第3号における「普通に用いられる方法で表示する」には該当しない旨述べている。
しかしながら、請求人の商品である「カップヌードル」のパッケージに表された「CUP NOODLE」の文字に使用されている書体は、別掲4に示したとおり、一般的な書体(フォント)である「Columbus」に酷似するものであり、当該書体の一類型といい得るものである。…
また、…本願商標は漢字表記であり、文字種が異なることに加え、「CUP NOODLE」の文字に使用されている書体それ自体が、請求人の出所を表すものとして取引者、需要者の間に広く認識されていることを客観的に裏付ける証左もない。
そうすると、本願商標を構成する文字は、特徴的な書体で表されているとはいい得ないものであり、また、上記のとおり文字種も相違するものであるから、本願商標に接する取引者、需要者をして、「CUP NOODLE」の文字に使用されている書体と本願商標に使用されている書体が同一のデザインであると直ちに認識させるとはいえない。
したがって、仮に、本願商標の書体が「CUP NOODLE」の文字に使用されている書体と同一のデザインであるとしても、本願商標の書体そのものが、自他商品役務の識別標識としての機能を発揮するとの請求人の主張は採用することができない。
・商標文字のデザインと「普通に用いられる方法」の範囲
本件では、カップヌードルのデザインを模するように、赤で文字を縁取っているが、このようなデザインも「普通に用いられる方法の範囲」を超えないとされた。
審決が「様々なデザイン化が行われている現状にあっては」と述べているように、昔はこのようなデザインによって「普通に用いられる方法での表示」を回避しやすかったのだろうが、時代の流れによって、現在では判断が厳しくなっている。
使用によってその名称が「普通名称化」するのと同様に、いわば、デザイン文字の使用によってその表示方法が「普通方法化」していったと言えるだろう。
審決は「構成態様が格別に特殊な態様であるとはいい得ないものであって、これが看者に「完全栄養食」の文字を表したものであるという以上の格別の印象を与えるものというべき事情も見当たらないことからすると」と述べており、出願人としては。①「構成態様が格別に特殊な態様であること」②「文字を表したものである以上の格別の印象を与えるものであること」を主張していくのが効果的であるものと考えられる。
不服2023-17509 | 審決日 2024/6/24 |
適用条文 | 本願商標 | 引用商標 | 判断 |
4条1項11号 | 麵屋がんてつ (標準文字) | 〇 (商標非類似) |
不服2023-20283 | 審決日 2024/5/7 |
適用条文 | 本願商標 | 引用商標1 引用商標2 | 判断 |
4条1項11号 | スエヒロレストラン (標準文字) | × (商標類似) |
- 審判1審決抜粋
- 審判2審決抜粋
- 所感
(1)本願商標について
本願商標は、「麺屋がんてつ」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同じ大きさ及び書体で、字間なく横一列にまとまりよく表されているから、一連一体の語を表してなると認識、理解されるもので、構成文字全体を一連に発音した「メンヤガンテツ」の称呼も冗長なものではない。
また、本願商標の構成中「麺」の文字部分は、「粉を練ったものを細長く切った食品。」の意味を有する語、「屋」の文字部分は、「その職業の家またはその人を表す語。」の意味を有する語(いずれも「広辞苑第7版」岩波書店)であり、「がんてつ」の文字部分は、辞書等に載録された既成語ではないから、特定の意味合いが生じない造語と認められるものであるところ、それらを一連に表した本願商標は、具体的な意味合いを直ちに認識させるものではない。
そうすると、本願商標は、その構成文字に相応して、「メンヤガンテツ」の称呼を生じるが、特定の観念を生じない。
(2)引用商標について
引用商標は、別掲のとおり、筆文字様の崩した書体で文字を横書きしてなるところ、その形状や商標全体の構成などからして「がんてつ。」の平仮名を書したものとかろうじて理解できるが、該文字は、辞書等に載録された既成語ではないから、特定の意味合いが生じない造語である。
そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して、「ガンテツ」の称呼を生じ得るが、特定の観念を生じない。
(3)本願商標と引用商標の比較
本願商標と引用商標を比較すると、外観においては、語頭の「麺屋」の文字及び語尾の「。」の有無に加え、その他の「がんてつ」の文字部分についても、本願商標が標準文字であるのに対して、引用商標の書体は筆文字様の書体を相当崩したものであるから、両商標の構成態様は、明らかに異なるものであり、判別は可能である。
また、称呼においては、「ガンテツ」の構成音を含む点において共通するが、語頭の「メンヤ」の構成音の有無により、全体としての語調、語感は異なるものになるから、聴別は可能である。
さらに、観念については、いずれも特定の観念は生じないから、比較できない。
そうすると、両商標は、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において判別及び聴別は可能だから、それらが取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、その出所について混同を生ずるおそれはないと判断するのが相当であり、類似する商標とは認められない。
(ア)本願商標について
本願商標は、前記2のとおり、「スエヒロレストラン」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「レストラン」の文字は、…役務の一業態を表すものとして一般に用いられていることから、役務の質を表したものと理解され、自他役務の識別標識としての機能を果たし得ない部分であるといえる。
他方、「スエヒロ」の文字は、「すえひろがり。」の意味を有する「末広」(出典:「広辞苑 第七版」株式会社岩波書店)の文字を片仮名表記してなるところ、本願の指定役務との関係においては、自他役務の識別標識として機能を果たし得るものであって、当該文字部分が、看者に強く支配的な印象を与えるものといえることから、当該文字を要部として抽出し、これと引用商標とを比較して、商標そのものの類否を判断することも許されるというべきである。
そうとすると、本願商標は、その構成中の要部である「スエヒロ」の文字に相応して、「スエヒロ」の称呼を生じ、「すえひろがり」の観念を生じるものである。
(イ)引用商標について
a 引用商標1及び引用商標5
引用商標1…は、…「スエヒロ」の文字を普通に用いられる方法で横書きしてなるところ、…「スエヒロ」の称呼を生じ、上記(ア)と同様に、「すえひろがり」の観念を生じるものである。
b 引用商標2
引用商標2は、…その構成中、「銀座」の文字部分は、「東京都中央区の繁華街。」(出典:「広辞苑 第七版」株式会社岩波書店)を意味する語として一般に知られている語であることから、…引用商標2の指定役務との関係においては、自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないものといえる。
他方、「スエヒロ」の文字は、上記(ア)と同様に、…当該文字を要部として抽出し、これと本願商標とを比較して、商標そのものの類否を判断することも許されるというべきである。
そうとすると、引用商標2は、その構成中の要部である「スエヒロ」の文字に相応して、「スエヒロ」の称呼を生じ、「すえひろがり」の観念を生じるものである。
(ウ)本願商標と引用商標との類否について
本願商標と引用商標は、…両商標は、その全体の外観構成において相違するものの、本願商標の要部である「スエヒロ」と、引用商標1及び引用商標5並びに引用商標2の要部である「スエヒロ」の文字部分とを比較すると、両者はいずれも語頭から語尾までの「スエヒロ」の全ての文字を共通にするから、外観上、近似した印象を与える。
次に、称呼においては、…両者は、「スエヒロ」の称呼を共通にする。
そして、観念においては、本願商標と引用商標はいずれも「すえひろがり」の観念を生じるから、両者は、観念においても共通する。
以上からすると、本願商標と引用商標は、外観において近似した印象を与え、「スエヒロ」の称呼及び「すえひろがり」の観念を共通にするものであるから、外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は、相紛れるおそれのある類似の商標というのが相当である。
・どちらの事件も商標が「標準文字」であり、かつ、「識別力のある語」+「役務の質を表す語(識別力のない語)」の組合せだが、判断が分かれた事例である
「麵屋がんてつ」における「麵+屋」はいずれも識別力がなく、「末広烈トラン」における「レストラン」も識別力がないが、前者は一連一体の商標と認定され、後者は「スエヒロ」を要部とする商標と認定された。
なお、審決1(「麵屋がんてつ」)では、審決は「麺」及び「屋」の意味は記載しているが、これらが「役務の質を表す語」とも「識別力がない語」とも述べていない。一方で、審決2では、「レストラン」の語が「役務の質を表し、識別力がない語」であることを述べている。(結論に合わせて、書いたり書かなかったりしていますね)
・識別力のない語の”一般性”
審決2では「レストラン」が役務の一業態(質)を表すものとして”一般に用いられる”と評価している。「麵屋~」は、ラーメン屋さんの名称としては馴染みがあるが、「レストラン」ほどの一般性はないだろう。たとえば、審決1の商標が「麵屋がんてつ」ではなく「ラーメンがんてつ」であったとしたら、審決2と同じように、「がんてつ」を要部認定される可能性は高まるようにも思える。
・引用商標の”周知性”
審決2では、引用商標を5つ取り上げ、特に、「スエヒロ」の商標だけでなく「銀座スエヒロ」の商標を引用し、あえてそこから「スエヒロ」を要部認定して対比している点に審判官の意図が垣間見える。
社会常識的に、引用商標による「スエヒロ」の商標周知性が高まれば、需要者はそれだけ「スエヒロ」を要部と認識しやすくなると言えるだろう。審決2では、複数の引用商標が挙げられた点(引用商標の数)も関係するだろうが、周知性の高い「銀座スエヒロ」を引用商標2にあえて持ち出したこと(「銀座スエヒロ」の周知性)が大きく影響したようにも感じられる。
不服2023-5906 | 審決日 2024/4/18 |
適用条文 | 本願商標 | 引用商標 | 判断 |
4条1項11号 | × (商標類似) |
不服2023-8151 | 審決日 2024/6/25 |
適用条文 | 本願商標 | 引用商標 | 判断 |
4条1項11号 | 〇 (商標非類似) |
- 審判1審決抜粋
- 審判2審決抜粋
- 所感
本願商標の構成中の「and BURGER」の欧文字は、「and」の欧文字と「BURGER」の欧文字とを結合させたものと容易に理解されるところ、「BURGER」の欧文字は、「ハンバーガー」の略語(株式会社岩波書店発行「広辞苑 第7版」)であるから、「バーガー」の称呼とともに「ハンバーガー」の観念が生じるものである。
さらに、本願商標の構成中のハンバーガー図形は、当該商標の構成中に「BURGER」の欧文字を有してなるため、これよりも「ハンバーガー」の観念が生じ得るといえることから、その構成中の「BURGER」の欧文字及びハンバーガー図形は、当審補正商品中の「ハンバーガー」との関係においては、自他商品の識別標識としての機能を有さないと判断するのが相当である。
他方、本願商標の構成中のハンバーガー図形内に顕著に表された筆記体の「and」の欧文字とハンバーガー図形の下に記載された「and」の欧文字は、いずれも「…と…」の意味を有する英語(株式会社大修館書店発行「ベーシックジーニアス英和辞典 第2版」)であり、当審補正商品との関係において、当該文字が当審補正商品の品質等を表示するものではないので、自他商品の識別標識としての機能を有さないものと判断すべき特別な事情はないものである。
…
そうすると、本願商標は、引用商標との類否を判断するに当たって、本願商標の構成中の自他商品の識別標識としての機能を有さないハンバーガー図形及び「BURGER」の欧文字を捨象し、本願商標の構成中の「and」の欧文字を要部として抽出し、これのみを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。
…
本願商標と引用商標とを比較すると、両商標は、構成全体を見た場合、「&」記号の有無、ハンバーガー図形の有無及び「BURGER」の欧文字の有無等において明らかな差異があることから、外観において相違する。
しかしながら、本願商標の要部である「and」の欧文字と引用商標とは、「AND(and)」の欧文字のつづりを同じくするものであるから、外観において類似するものである。
また、本願商標の要部である「and」の欧文字と引用商標とは、「アンド」の称呼及び「…と…」の観念を共通にするものである。
そうすると、本願商標の要部と引用商標とは、外観において類似し、称呼及び観念を共通にするものであるから、本願商標と引用商標とは相紛れるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。
本願商標は、前記2のとおり、「マナプレミアム」及び「MANA Premium」の文字を二段に横書きしてなるところ、下段の「MANA Premium」の文字は、「MANA」と「Premium」の文字間が半角文字程度のスペースを介して近接して表示されており、まとまりの良い一体的な構成からなるものとの印象を与え、上段の「マナプレミアム」の文字は、下段の「MANA Premium」の文字の読みを片仮名で表記したものと無理なく認識し得るものである。
そして、上段と下段は中央をそろえて配し、全体がまとまりよく一体的に表されてなるものであり、外観上、いずれかの文字が需要者に強く支配的な印象を与えるとはいえない上に、本願商標から生ずる「マナプレミアム」の称呼も、無理なく一連に称呼できるものである。
また、本願商標の構成中、「MANA」の文字は「マナ(ポリネシア人・メラネシア人などの信じる超自然力)」を意味(「プログレッシブ英和中辞典 第5版」株式会社小学館)する英単語であるものの、我が国においてなじみのない語であることから、特定の意味合いを有さない一種の造語として認識され、「プレミアム」及び「Premium」の文字が「特急の、高級な、高品質の」等を意味(前掲書)する英語であるとしても、上記構成及び称呼においては、これに接する取引者、需要者が、殊更「プレミアム」及び「Premium」の文字部分を捨象して、「マナ」及び「MANA」の文字部分のみに着目するというよりは、むしろ、「マナプレミアム」及び「MANA Premium」の文字全体をもって一体不可分の一種の造語として認識し把握されるとみるのが自然である。
そうすると、本願商標の構成中、「マナ」及び「MANA」の文字部分を分離抽出し、この部分だけを引用商標2と比較して、商標そのものの類否を判断することは許されないというべきであるから、当該文字部分を分離抽出し、これを前提に、本願商標と引用商標2とが類似するとして、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、妥当なものではない。
・どちらの事件も「識別力のある語」+「識別力のない語」の組合せだが、判断が分かれた事例である点が興味深い
「and BURGER」における「BURGER」はハンバーガーの”略語”であり、「MANA Premium」における「Premium」は”品質”を示す用語である。その意味で、どちらも3条系の識別力を有さない語である。
しかし、前者は「and」を要部認定できるとし、後者は「MANA」を要部認定できないと判断している。(見た目の印象からは、寧ろ「and BURGER」の方が引用商標との違いが大きく感じるにもかかわらずである)
・「and」を際立たせる図形と、一体性を補強する「マナプレミアム」の振り仮名
2つの事件における要部認定の判断の違いは、ハンバーガーに挟まれた筆記体の「and」と、振り仮名の「マナプレミアム」にあるのかもしれない。
両商標はどちらも「and BURGER」と「MANA Premium」の欧文字だけの商標ではない。
前者の審決は「筆記体の「and」の欧文字は、ハンバーガー図形内に埋没することなく、十分に目を引く大きさで顕著に表されている」と評価しており、後者の審決は「殊更「プレミアム」及び「Premium」の文字部分を捨象して、「マナ」及び「MANA」の文字部分のみに着目するというよりは、むしろ、「マナプレミアム」及び「MANA Premium」の文字全体をもって一体不可分の一種の造語として認識し把握されるとみるのが自然である。」と評価していることからすると、「and」の筆記体が要部認定を肯定する方向に作用し、「マナプレミアム」の振り仮名が要部認定を否定する方向に作用したと考えることもできよう。
本願商標は要部認定を避ける方が商標登録に繋がり易いといえるため、絶対の効果を保証するものではないが、「マナプレミアム」のように「振り仮名」によって要部認定を避ける方向へと誘導するテクニックは本願商標を検討する上で覚えておくとよいだろう。
不服2023-9430 | 審決日 2024/6/18 |
適用条文 | 本願商標 | 引用商標 | 判断 |
4条1項11号 | SAVAGE (標準文字) | 〇 (商標非類似) |
- 審決抜粋
- 所感
引用商標は、別掲2に示すとおり、「小野人」の漢字と「SAVAGES」の欧文字とを上下2段に横書きしてなるところ、上段と下段との間に若干のスペースを有するものの、両者は近接して配置されており、各構成文字が概ね同じ大きさ、同じ色彩で書されていることからすると、引用商標は、外観上、構成全体として一体的なものとして印象づけられるものであり、殊更に、「SAVAGES」の欧文字のみが強い印象を与えるものではない。
また、引用商標の構成文字全体に相応して生じ得る「オノジンサベージズ」の称呼は、よどみなく一連に称呼し得るものである。
そして、引用商標の構成中の「小野人」の漢字は、辞書等に載録された特定の意味合いを表す語ではなく、引用商標の指定商品との関係において、商品の品質等を表示する語ではないこと、引用商標は、外観上、構成全体として一体的なものとして印象づけられるものであり、殊更に「SAVAGES」の欧文字のみが強い印象を与えるものではないこと、また、当該商標より生じ得る「オノジンサベージズ」の称呼は、よどみなく一連に称呼し得るものであることからすると、引用商標に接する取引者、需要者が、殊更に「小野人」の漢字を捨象し、「SAVAGES」の欧文字のみに着目し、商取引に当たるとは考え難いといわざるを得ない。
なお、引用商標の構成中の「SAVAGES」の欧文字は、「未開人」等(株式会社大修館書店発行「ベーシックジーニアス英和辞典 第2版」)の意味を有する「SAVAGE」の英語の複数形であるが、我が国における英語の普及の程度にかんがみても、一般に慣れ親しまれた英語とまではいい難いことからすると、「小野人」の漢字及び「SAVAGES」の欧文字よりなる引用商標は、構成全体として、特定の観念は生じないものと判断するのが相当である。
したがって、本願の指定商品は、引用商標の指定商品と同一又は類似のものを含むとしても、引用商標の構成中の「SAVAGES」の欧文字のみを分離、抽出し、その上で本願商標と引用商標とが類似する商標であるとして、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。
・異種の文字を並記しても「一連一体」と判断され得ること
引用商標は、漢字と欧文字(「小野人」と「SAVAGES」)を上下2段に横書きしたもので、「SAVAGES」のみを要部認定できそうにも思えたが、審決は「一連一体のもの」としたところが興味深い。
なお、審決は「小野人」が特定の意味合いを表す語でなく、品質表示でもないことを、考慮要素に入れている点も留意すべきであろう。つまり、「小野人」に何らかの意味があれば、それだけを抽出することができる(=「小野人」と「SAVAGES」をそれぞれ要部認定できる)方向に判断できる余地を残していると考えることもできよう。
・一般に慣れ親しまれた英語でない場合、その語から観念は生じない
これはよく見る基本的な考え方なので、商標実務の初級者のために一応挙げておきました。英語よりももっと馴染みのない言語であれば、観念はより一層起こりにくいですが、商品との関係もあるので注意が必要。(例えば、ファッションやコスメは、欧州の言葉が用いられることも多々あるので、需要者の認識は違ってくることもあります。)