「拒絶理由対応のすすめ」の概要
これまで、判例分析の記事をメインに挙げてきたが、今年(2024年)からは、拒絶理由対応についても記事を挙げていこうと思う。具体的には、実際に審査中の出願を対象に、私ならどう対応するか、私ならどのように意見書を書くか、といったことを書いていこうと思う。月に1件か、多くても2件くらいのペースになるだろう。
技術分野はランダムに選ぶ予定である。
なぜランダムに選ぶかというと、その方が、より多くの人に興味を持ってもらえる可能性が広がるということと、私の拒絶理由対応のアプローチの本質部分に、技術分野はあまり影響しないことを直接的に示せるからである。
具体的なフローは以下の通りである。
(1)直近2~3ヶ月の間に拒絶理由通知を受けた出願の中から適当に案件をピックアップする。
(2)本願と、拒絶理由及び引例を読んで、応答方針を考える。
(3)実際にされた拒絶理由対応を見て、それぞれの対応を評価する。
(4)望ましいと思う応答方針を挙げる。
フローの(3)で実際にされた対応を見るのは、技術知識の不足を埋めることを目的としている。(2)よりも前に実際の拒絶理由対応の内容を見て、後出しじゃんけんで好き勝手に実際の対応を批評するようなことはしないが、この点は信じてもらうしかない。
また、一つの記事では、なるべく一つの拒絶理由を題材にする。29条1項と2項はまとめてでよいが、例えば拒絶理由通知に29条と36条の拒絶理由が挙げられていたとしても、原則的に扱うのはいずれかの拒絶理由だけとする。一度に色んな拒絶理由についてあれこれと述べて発散させたくないからである。
なお、どこの馬の骨とも知れない「弁理士X」が、他人の拒絶理由対応に対して好き勝手に意見を述べるとは、なんて傲慢なやつなのだと思われないために、以下に私の拒絶理由対応の統計を記しておき、参考になりそうかの判断材料に使っていただきたい。
参考にならない方にとっては、不快なだけの内容かもしれないので、絶対的にお薦めしない。拒絶理由対応は特定人が対応しているので、理不尽な批判や誹謗中傷をするつもりはないが、あまりに包み隠した表現をしては、この取り組み自体の意義がなくなるので、不適当や不十分と感じる点については素直に意見を述べたいと思う。
直近50件の拒絶理由対応の統計(2023年12月30日時点)
まず最初に、2023年12月30日時点での直近50件の拒絶理由対応(拒絶理由通知への対応および拒絶査定への対応)を以下の表に示す。
50件中の全件数 | 補正有り対応 | 補正無し対応 | 補正無し対応率 | |
17条の2第3項 | 4 | 1 | 3 | 75% |
29条(1項/2項) | 38 | 19 | 19 | 50% |
実施可能要件 | 1 | 0 | 1 | |
サポート要件 | 10 | 5 | 5 | 50% |
明確性要件 | 24 | 10 | 14 | 58% |
なお、次の表に結果を示している通り、この50件は、こちらの対応に対し、応答(特許査定/拒絶査定/拒絶理由通知など)が来たものを近い順に50件ピックアップしているため、12月30日時点で応答が来ていないものは50件に入っていない。また、当然ではあるが、私の立てた応答方針が採用された案件のみを対象にしている。
また、この50件には、誤記の対応のみの拒絶理由対応は含まれていない。つまり、実質的に発明の内容に対してされた拒絶理由を対象にしている。例えば、1つの拒絶理由通知において、29条と36条(誤記のみ)が拒絶理由に挙げられていた場合、29条の対応についてはカウントの対象となるが、36条については対象としていない。また、誤記対応以外にも29条の解消を目的に請求項を補正した場合は、29条に対して「補正有り」で対応したものとしてカウントしているが、誤記対応以外に請求項を補正しなかった場合は、29条に対しては「補正無し」で対応したものとしてカウントしている。
なお、言うまでもないことと思うが念のため述べておくと、許可対応(拒絶理由を発見しない請求項を独立項とする対応)は、審査官の判断に反論しているわけではないため、「補正あり」でカウントしている。
上記の対応に対する結果は以下の表の通りである。
解消 | 係属 | 承服 | 解消率 | ||
17条の2第3項 | 補正有り(1件) | 1 | 0 | 0 | 100% |
補正無し(3件) | 1 | 2 | 0 | 33% | |
29条 | 補正有り(19件) | 17 | 2 | 0 | 89% |
補正無し(19件) | 17 | 2 | 0 | 89% | |
実施可能要件 | 補正有り(0件) | 0 | 0 | 0 | – |
補正無し(1件) | 1 | 0 | 0 | 100% | |
サポート要件 | 補正有り(5件) | 5 | 0 | 0 | 100% |
補正無し(5件) | 5 | 0 | 0 | 100% | |
明確性要件 | 補正有り(10件) | 9 | 1 | 0 | 90% |
補正無し(14件) | 14 | 0 | 0 | 100% |
なお、解消は、拒絶理由通知で述べられた内容の拒絶理由が解消したことを示しているため、次に特許査定を受けた場合だけでなく、別の拒絶理由による新たな拒絶理由通知が来た場合も含まれる。
また、係属とは、対応後に、拒絶理由や拒絶査定がきた場合で、さらにそのままの請求項で反論をしたものに限っている。例えば、補正無しで対応した後に拒絶査定がきた場合、その請求項を補正して不服審判を請求していたとすれば、係属ではなく「承服」となる。また、補正せずに不服審判を請求した結果、拒絶審決となり、審判が確定した場合も、係属ではなく「承服」となる。つまり、補正の有無にかかわらず、対応によって拒絶理由が解消せず、同じ請求項に対する審理がさらに続いているか、あるいは同じ請求項に対する審理を続けた結果拒絶理由が解消した場合に、「係属」となる。
上記のように、母数が少ないものもあるが、私は、審査官(あるいは審判官)から通知される拒絶理由のおよそ50%を補正無しで対応し、そのほとんどが解消している。(補正有りの対応もほとんどが解消し、結果的に承服となった案件はこの母集合の中にはない。)
50件の拒絶理由通知の中には、拒絶理由が1つのものもあれば複数のものもあり、拒絶理由通知を一つの単位として見ると、
拒絶理由通知に挙げられている拒絶理由の少なくともいずれかに対し、補正をせずに対応した案件の数は30件であり、60%であった。
また、拒絶理由通知で挙げられた全ての拒絶理由に対して補正をせずに対応した案件(つまり意見書のみを提出して対応した案件)の数は18件であり、36%であった。
X(旧ツイッター)アカウント「審査官ラボ」さんから頂いた情報では、2023年末時点での統計で、意見書のみの反論は50~60件に1件程度(2%弱)とのことなので、平均の約20倍ということになる。
50件というデータ数の統計学上の過不足は措くとして、50件の統計データの上では、私の拒絶理由対応は、「平均の約20倍の割合で補正無しで対応し、かつ、ほぼ全ての拒絶理由が解消する拒絶理由対応」となっているものと客観的に評価できるだろう。
特に着目したい点は、ほぼ全てが解消しているという点である。つまり、結果はダメでもいいから「意見書のみ(補正無し)の対応」をしているというわけではなく、補正をしなくても拒絶理由が解消する意見書が作成できているということを、客観的な統計データが示してくれている。
そして、私がこれからの「拒絶理由対応のすすめ」の記事で書いていきたいのは、拒絶理由が解消する見込みが十分にある意見書の書き方である。
なお、前もって言っておくが、決まった書き方があるわけではない。適切な書き方は事案によると思うので、私からお話しできるのは、どういう思考で対応方針を検討しているかと、実際に出来上がる意見書の案文である。
なぜこのような数字を挙げたかというと、端的に言って、私の書く記事が参考となるかのわかりやすい指標になると思ったからである。
既に同じくらいの対応ができている方やそれ以上の対応をしている方にとっては、私の書く記事にそこまでの価値はないだろう。また、実務経験が浅く、50~60件に1件どころか、意見書のみで反論すること自体をまだ考えることができない方も、いきなり私の記事を読んで内容を理解することは難しいかもしれない。
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