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分析シリーズ(権利化能力) 「意見書のみ応答率」の分布からみえる傾向の考察5

意見書のみ応答率の高さの要因

概要

「意見書のみ応答」は審査官の判断に真っ向反論する対応であるが、特許庁の審査官が下した判断の誤りをどの観点から見出すのか。そこには「技術的要因」と「法律的要因」の二つが考えられる。

 その発明の属する技術分野の技術的理解が深ければ、審査官の知らない技術知識に基づいて判断の誤りを見つけることができ、その結果審査官の判断誤りを指摘しやすくなるだろう。
 また一方で、進歩性や明確性といった法律が課している要件についての理解が深ければ、審査官の見落としている法的論点から突破口を見出して判断の誤りを指摘する機会が増えるだろう。

 このように「技術的要因」と「法律的要因」が深ければ「意見書のみ応答」の回数は増えてくるように思えるが、また別の視点から捉えると、たとえ意見書のみ応答の回数が多かったとしても、それが特許事務所の実力によるものなのか、企業(企業知財)の権利化能力の高さによるものなのか、という疑問がある。

”意見書のみ応答率の高さ”が企業の力によるものならば、権利化能力に優れた特許事務所を探す上で、「意見書のみ応答率の高さ」は、かえってその事務所の適正な評価を惑わす要因にもなりかねない。

 そこで今回は、意見書のみ応答率の高い特許事務所を対象に、「特定の出願人から多くの受任を受けているか」及び「最も多く意見書のみ応答をしている出願人の案件数はどの程度か」を調べてみた。なお、この情報は例えば以下のような推測に利用することができるだろう。

 特定の出願人から多くの受任を受けている事務所は特定の技術分野についての技術的理解が深まるはずである。しかし、その事務所の意見書のみ応答のほとんど全てがその出願人の案件であった場合、事務所の実力がすごいのか、企業の実力がすごいのかはよくわからない。
 大きな偏りもなく複数の出願人から依頼を受けながら、特定の出願人の案件における意見書のみ応答の数が多くなっている場合、権利化能力に長けているのは、特許事務所側ではなくその出願人(企業知財)側の可能性が高くなる。  満遍なく複数の出願人から依頼を受け。満遍なく種々の技術分野において意見書のみ応答をしているような事務所であれば、その意見書のみ応答は事務所の実力によるものと推測できる。

順位意見書のみ応答率上位の事務所名
(上位23事務所/240事務所中)
90%以上が1出願人意見書のみ応答数
最多出願人
応答数割合
1安藤弁理士事務所三洋物産三洋物産20100%
2弁理士法人真明センチュリー三洋物産20100%
3好宮特許事務所信越グループ信越化学1473.7%
4弁理士法人いくみ特許事務所日東電工861.5%
5弁理士法人高田・高橋国際特許事務所日本電信電話857.1%
6松本・岡本国際特許事務所ディスコディスコ16100.0%
7弁理士法人籾井特許事務所日東電工1593.8%
8弁理士法人M&Sパートナーズフィリップスフィリップス1392.9%
9新都心国際特許事務所東京精密857.1%
10弁理士法人有古特許事務所住友ゴム330.0%
11弁理士法人ブライタス日本製鉄990.0%
12レクシア特許法律事務所小林製薬956.3%
13天野特許事務所GSユアサ746.7%
14弁理士法人朝日奈特許事務所シムボティック320.0%
15あいわ弁理士法人ファナック666.7%
16インフォート弁理士法人NTTドコモ888.9%
17協和特許法律事務所大日本印刷660.0%
18弁理士法人山王内外特許事務所三菱電機685.7%
19廣田特許事務所全部1件ずつ110.0%
20プレシオ国際特許事務所三井化学東セロ
住友ベークライト
325.0%
21弁理士法人お茶の水内外特許事務所アース製薬440.0%
22弁理士法人キュリーズ京セラ9100.0%
23弁理士法人 楓国際特許事務所村田製作所
オムロン
350.0%

「技術的要因」と「法律的要因」のメリットデメリット

 技術的理解の深さのメリットは、その技術分野の出願を依頼したい企業にとって非常に大きなものになるだろう。なぜなら、拒絶理由対応だけでなく、出願に向けた打合せの場でも非常にスムーズに話を進められるからである。
 しかしデメリットは、「他の技術分野への応用が利きにくい」という点と「既に競合関係にある企業がクライアントになっている可能性が高い」という点にあるだろう。

 法律的要因の深さのメリットは当然ながら、特定の技術範囲に限定されず、幅広く応用が利くという点にあるだろう。しかしデメリットの難点は、企業の側でその確からしさを測る術がないことである。技術的な理解の深さは、その技術分野の出願を依頼する企業の側で十分に評価することができるが、法律的な理解の深さは、企業の側にもそれを評価できる同等の知財部員が必要になる。

 企業の皆様は、これらのメリットデメリットを参考にしながら、どちらの要因によるのが好ましいのかを各自で判断し、特許事務所選びに役立てるのがよいだろう。

事務所の実力なのか、企業(出願人)の実力なのかが不明な特許事務所

 一人の出願人からほとんどの依頼を受けている場合、当然、意見書のみ応答のほとんどがその特定の出願人の案件になる。この場合、事務所の意見書のみ応答の比率をみても、その結果が事務所の実力が発揮されたものなのか、企業の実力が発揮されたものなのかは不明といえる。

 90%以上が一人の出願人からの依頼である事務所は、この類型に該当する可能性が高い。このような事務所には以下が挙げられた。

 ・安藤弁理士事務所(1位) 出願人「三洋物産」
 ・好宮特許事務所(3位) 出願人「信越グループ(内、信越化学がメイン)」
 ・松本・岡本国際特許事務所(6位) 出願人「ディスコ」
 ・弁理士法人M&Sパートナーズ(8位) 出願人「フィリップス」

 なお、安藤弁理士事務所の意見書のみ応答の100%が三洋物産が出願人の案件であった。
 好宮特許事務所の意見書のみ応答の100%が信越グループの企業が出願人の案件であり、そのうちの7割以上が信越化学が出願人の案件であった。
 松本・岡本国際特許事務所の意見書のみ応答の100%がディスコが出願人の案件であった。
 弁理士法人M&Sパートナーズの意見書のみ応答の93%(14件中の13件)がフィリップスが出願人の案件であった。

企業の力が発揮されている可能性がある特許事務所

 特定の出願人の依頼が多くなれば、その出願人の案件が多くなる以上、意見書のみ応答の数も多くなるのが自然である。一方で、特定の出願人からの依頼の割合は支配的ではないものの、その出願人の意見書のみ応答率が支配的になっている場合、企業の力が発揮されている可能性が高い。事務所の力が発揮されているならば、他の出願人の案件にも意見書のみ応答の数が反映されているはずだからである。

 90%以上が一人の出願人からの依頼である事務所以外の事務所を対象に、特定の出願人による意見書のみ応答が支配的である事務所には、以下が挙げられた。

 ・弁理士法人真明センチュリー(2位) 三洋物産 20回/全20回中(100%)
 ・弁理士法人籾井特許事務所(7位) 日東電工 15回/全16回中(93.8%)
 ・弁理士法人ブライタス(11位) 日本製鉄 9回/全10回中(90%)
 ・インフォート弁理士法人(16位) NTTドコモ 8回/全9回中(88.9%)
 ・弁理士法人山王内外特許事務所(18位) 三菱電機 6回/全7回中(85.7%)
 ・弁理士法人キュリーズ(22位) 京セラ 9回/全9回中(100%)

「法律的要因」の深さから意見書のみ応答を導いていそうな特許事務所

 その事務所の意見書のみ応答案件の中で、最も多く登場する出願人の意見書のみ応答数の割合が低ければ低いほど、複数の出願人の案件で満遍なく「意見書のみ応答」がなされていることになる。(例えば、この割合が10割なら意見書のみ応答は一人の出願人に集中しており、3割であれば四人以上の出願人に対して意見書のみ応答がなされており、1割であれば十人以上の出願人に対して意見書のみ応答がなされていることを導ける。)
 特許事務所はコンフリクトを避けなければならないため、直接の競合となる複数の企業のクライアントとなることは基本ないだろう。つまり、出願人の数は、異なる技術分野の数と捉えることもでき、意見書のみ応答がなされる出願人の数が多いほど、広い技術分野での応答がなされているといえ、このような特許事務所は「法律的要因」の深さによって意見書のみ応答を導く傾向が強いと考えることができるだろう。

 意見書のみ応答が最も多く登場する出願人の意見書のみ応答割合が3割以下となっている特許事務所には、以下が挙げられた。

 ・弁理士法人有古特許事務所(10位) 住友ゴム 3回/全10回中(30%)
 ・弁理士法人朝日奈特許事務所(14位) シムボティック 3件/全15件中(20%)
 ・廣田特許事務所(19位) 全て異なる出願人 1件/全10件中(10%)
 ・プレシオ国際特許事務所(20位) 三井化学東セロ 3件/全12件中(25%)

 驚いたのは「廣田特許事務所」である。表れた10件の意見書のみ応答が全て異なる出願人の案件であった!

権利化に注力していそうな企業

 今回の結果で「出願人」の側に目を向けてみると、「三洋物産」と「日東電工」が、複数回登場している。また、三洋物産が登場しているのは意見書のみ応答率が1位と2位で、日東電工が登場しているのは意見書のみ応答率が4位と7位であり、どちらも意見書のみ応答率がより上位にある特許事務所における意見書のみ応答の筆頭出願人となっている。

 この2つの企業は、企業として「権利化」を特に重要視し、そこに力をかけている企業なのかもしれない。

全体を通しての傾向の考察

 さて、上記の観点を複合的に捉えてみると、一つ目の「事務所の実力なのか、企業(出願人)の実力なのかが不明な特許事務所」は、1位、3位、6位、8位と、意見書のみ応答率上位のグループの中でも更に上位に固まった
 一方で、三つ目の「「法律的要因」の深さから意見書のみ応答を導いていそうな特許事務所」では、10位、14位、19位、20位と、上位グループの中の下位寄りに集まっている。

 突出した意見書のみ応答率は、出願人からの依頼が偏っている方が到達しやすいという傾向が見て取れる気もする。
 また、それが事務所の力なのか企業の力なのかはさておき、他よりも突出した権利化を実現するには、技術的な理解の深さが重要になる。つまり、特許の権利化の最大化を目指す上では、事務所と企業の関係が密であることが重要なのかもしれない。なぜならば、偏った依頼は、少なくともその出願人の事業分野(技術分野)に精通する効果をもたらすからである。

真に突出した意見書のみ応答率を目指したいならば、法律的要因も必要になるだろうが、企業と事務所が相互に深い技術的要因を備えていられる状態が必須なのかもしれない

 その論拠として挙げられる要因の一つには、権利化に特に注力していそうな企業が意見書のみ応答の筆頭となっている特許事務所がより上位にあるという点である。「企業の力が発揮されている可能性がある特許事務所」には、6つの企業(三洋物産、日東電工、日本製鉄、NTTドコモ、三菱電機、京セラ)が挙げられたが、そのうちの複数回登場した三洋物産と日東電工がより上位にあるのは果たして偶然だろうか。
 一つの推論として、6社はいずれも権利化に力を入れているが、そのなかで三洋物産と日東電工は、他の4社以上に、特許事務所との密な関係が築けていると考えることは十分にできるだろう。

 そしてもう一つの要因として、意見書のみ応答率の高いほとんどの特許事務所の規模がC~Eである点が挙げられる。事務所規模についてはここには載せていないが、既に紹介している意見書のみ応答率上位事務所のランキングには示している。規模が大きくて多くのクライアントを持っている特許事務所よりは、中小規模の特許事務所の方がクライアントとの一対一の密な関係を築きやすいはずであると考えれば、意見書のみ応答率の高いほとんどの特許事務所の規模がC~Eであるという事実も納得しやすいのではないだろうか。

 実務家の視点からすると、知財の専門家である以上目指すべきは技術分野によらない「法律的要因」とも思える。(私自身が目指したいのは、技術分野に依存しない高い実務力であるため、どうしても法律的要因を重要視してしまう。)
 この考えも、決して間違いではないだろう。一つの考え方として、クライアントと密な関係が築けることを前提にすれば、実務家の側(特許事務所側)が技術的要因を深めずとも企業側に任せればよく、実務家の側は、企業側から提供される技術知識を理解できるだけの知識さえ備わっていればよいとも考えられる。
 しかし、法律的要因を深めなければ、どのような技術知識が特許性の主張に役立つかを精査することはできず、技術的要因を深めなければ、どこにその法的観点から突破口を見出せるような技術知識があるかを探すことができない。

 当たり前であるが、理想的には「法律的要因」と「技術的要因」の両方を兼ね備えているのがよく、上位の中の上位にいる特許事務所は、他の特許事務所と比べるとこの理想に近付いているのかもしれない。

・企業と事務所の関係が密である方がよい
・特許事務所(実務家)側は法律的要因を深めるべきである
・特許事務所側にも最低限の技術知識は必要である

 この結果は、ある意味で当たり前のことしか導いていないだろうが、当たり前のように思えることが実際には難しいのであろう。確かに、この3つの条件のうちの一つをクリアすることは私にもそれほど難しくないことのように思えるが、三つ全てをクリアすることは見た目ほど簡単ではない気がする。

 それが実際に「意見書のみ応答率」の差に表れているとみることも可能ではないか。

 命題自体は単純なものだからこそ、極めれば成果に表れるし、ちゃんと極めたものが報われる。「質の追求」とは、決して複雑なことをするわけではなく、得てしてそのようなものであると私個人は思うところである。

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