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拒絶理由対応のすすめ 第31回 ”権利化断念出願シリーズ(13)”

題材について

題材の選定条件:審査請求がされ、拒絶理由通知が出されたが、これに応答することなく拒絶査定が出された案件

例1:審査経過が「審査請求 ⇒ 拒絶理由通知 ⇒ 拒絶査定」
例2:審査経過が「審査請求 ⇒ 拒絶理由通知 ⇒ 意見書/補正書 ⇒ 拒絶理由通知 ⇒ 拒絶査定」

題材:特願2023-098879
出願人:DGSHAPE株式会社
代理人:後藤 高志(ほか 2名)(弁理士法人 協働特許事務所)
発明の名称:切削加工システム

審査記録(最終処分:拒絶)
 2023年 6月16日 審査請求
      11月 7日 刊行物等提出による通知書
 2024年 7月 2日 拒絶理由通知
      10月15日 意見書及び手続補正書の提出
 2025年 1月 7日 拒絶理由通知
       3月 5日 意見書及び手続補正書の提出
       5月27日 拒絶理由通知(最後)
      10月21日 拒絶査定

検討対象:3回目の拒絶理由通知
拒絶理由:29条2項(進歩性)

簡単な概要

 第30回及び第31回の題材は「特許事務所のOA応答統計第12回」の事務所から選んでいる。また、この2件はいずれも、非常にレアな審査経過を経ていることから今回選択した。

 第一に、情報提供を受けている案件であり、第二に、2回も応答しておきながら、最終的には権利化を断念しているという経過が非常に珍しいのだが、なぜか「特許事務所のOA応答統計第12回」の案件リストの中にこのような案件が2件もあった(第11回までのOA応答統計の案件リストには1件もなかったのだが。。)

 これまでは、各回のOA応答統計の中から1案件を選定していたが、上記のような経緯から、今回は2案件を選定し、第30回と第31回の題材にすることにした。1件目(第30回)は化学分野、2件目(第31回)はソフト分野である。

 それでは、題材について簡単に説明していく。

 本件は、3回の拒絶理由通知を受けている。その全てが進歩性(29条2項)の拒絶理由であり、1回目の拒絶理由通知では引例が7件、2回目の拒絶理由通知では新たな引例が1件挿し変わって7件、3回目の拒絶理由通知では前回と同じ7件の引例で最後の拒絶理由通知が出されている。

 1回目の拒絶理由通知では、請求項4及び5に対し拒絶理由がないと判断されており、請求項4及び5は、請求項1とは異なる独立項である。
 2回目の拒絶理由通知では、請求項3及び4に対し拒絶理由がないと判断されており、これは、上記の請求項4及び5と同様の独立項である。
 3回目の拒絶理由通知では、請求項2及び3に対し拒絶理由がないと判断されており、これは、上記の請求項4及び5と同様の独立項である。

 つまり、ずっと拒絶理由がないと判断されている独立項(出願時の請求項4及び5)については残しつつも、本命の請求項1以外には権利を欲していなかったため、最終的にはOKクレームで権利化を進めることはせず、権利化を断念してクローズしたものと推測できる。

 出願人は、1回目の補正で、請求項2に記載された発明を新たに請求項1として、元の請求項2は削除する補正を行った。
 また、出願人は、2回目の補正でさらに、請求項2(出願時の請求項3)に記載された発明及び「エラー前時間は、エラー後時間以上である」との発明特定事項を足し、元の請求項2は削除する補正を行った。
 つまり、請求項1 → 請求項1+2 → 請求項1+2+3+α と補正がされている。2回目の補正後の請求項1(請求項1+2+3+α)は以下の通りである。

 【請求項1】
 被加工物が切削される切削空間が形成された本体、および、制御装置を有する切削加工 機と、
 前記切削空間内の切削動画を撮影する撮影装置と、
 表示画面と、前記制御装置および前記撮影装置と通信可能に接続された通知制御装置と 、を有するエラー通知装置と、 を備え、
 前記制御装置は、
  前記被加工物が切削されているときに発生したエラーを検出するエラー検出部と、
  前記エラー検出部によってエラーを検出したとき、前記通知制御装置にエラー情報を 送信する送信部と、 を備え、
 前記通知制御装置は、
  前記切削加工機の切削中に、前記撮影装置によって撮影された前記切削動画を記録す る記録部と、
  前記送信部によって送信された前記エラー情報を受信する受信部と、
  前記受信部が前記エラー情報を受信したときの受信時刻を基準とした所定のエラー記 録時間の動画をエラー動画としたとき、前記撮影装置によって撮影されている前記切削動 画から前記エラー動画を抽出する抽出部と、
  前記抽出部によって抽出された前記エラー動画を前記表示画面に表示する表示部と、 を備え、
 前記記録部は、前記切削加工機が切削プログラムの実行を開始するタイミングで前記切 削動画の撮影を開始し、前記切削プログラムの実行が終了するタイミングで前記切削動画 の撮影を停止し、
 前記表示部は、前記エラー動画と共に、前記受信部によって受信した前記エラー情報に 基づいたエラーメッセージを前記表示画面に表示し、
 前記エラー記録時間は、
  前記受信時刻よりも前のエラー前時間と、
  前記受信時刻よりも後のエラー後時間と、
を有し、
 前記エラー前時間は、前記エラー後時間以上である、切削加工システム。

検討の公開まで

 「拒絶理由対応のすすめ」は、実際に検討された上で、記事の詳細を読む方が、スキルアップに効果的かもしれません。まずはご自身で検討してみてから記事を読みたいという方がいることも想定し、具体的な検討の詳細は、記事のアップから期間をあけて、8月27日に公開する予定です。
 また、以下の「応答方針の検討」をご覧になる前に、「拒絶理由対応の本質」を読まれることをお薦めします。こちらを読んで頂いた上で以下の記事を読まれる方が、理解が深まると思います。
 以下の「応答方針の検討」には、応答方針に至るまでの思考過程と、応答案の概要を載せています。

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応答方針の検討(結論:補正して応答) 公開期間2026/8/30~2026/9/30

 結論としては、そのままの独立項での権利化は困難と判断する。一方で、補正により権利化にチャレンジすることはできただろう。
 今回提案する補正は当然、許可クレームへの補正ではない。出願人が頑なに許可クレームでの権利化を選択しなかったことと、本件が情報提供を受けていることを併せて推理すると、エラー種別(同時エラーと事後エラー)に応じた時間でエラー動画を抽出する」といった内容の発明特定事項を含んだ権利は、「欲しい権利」ではないと考えられる。
 私が提案する補正は、いわゆる「実質的にはたいした限定になっていない補正」であり、権利化に挑戦する価値があるであろうと考えた上での補正の提案である。

 まず、本件の審査官は、相対的に他の審査官と比べて、丁寧に拒絶理由通知を記載してくれている。請求項1に係る発明に対しての、拒絶理由通知における審査官の判断には、特に異論はないといってよいだろう。

 そこで、今回私が提案する補正案は2案あり、どちらもチャレンジングではあるが、案1の方がさらにチャレンジングな補正案である。

補正案1
 被加工物が切削される切削空間が形成され、利用者が前記切削空間を視認できる窓部が設けられた本体、および、制御装置を有する切削加工機と、
 前記切削空間内の切削動画を撮影する撮影装置と、
 表示画面と、前記制御装置および前記撮影装置と通信可能に接続された通知制御装置と 、を有するエラー通知装置と、を備え、
 前記制御装置は、
  前記被加工物が切削されているときに発生したエラーを検出するエラー検出部と、
  前記エラー検出部によってエラーを検出したとき、前記通知制御装置にエラー情報を 送信する送信部と、を備え、
 前記通知制御装置は、
  前記切削加工機の切削中に、前記撮影装置によって撮影された前記切削動画を記録す る記録部と、
  前記送信部によって送信された前記エラー情報を受信する受信部と、
  前記受信部が前記エラー情報を受信したときの受信時刻を基準とした所定のエラー記 録時間の動画をエラー動画としたとき、前記撮影装置によって撮影されている前記切削動 画から前記エラー動画を抽出する抽出部と、
  前記抽出部によって抽出された前記エラー動画を前記表示画面に表示する表示部と、を備え、
 前記記録部は、前記切削加工機が切削プログラムの実行を開始するタイミングで前記切 削動画の撮影を開始し、前記切削プログラムの実行が終了するタイミングで前記切削動画 の撮影を停止し、
 前記表示部は、前記エラー動画と共に、前記受信部によって受信した前記エラー情報に 基づいたエラーメッセージを前記表示画面に表示し、
 前記エラー記録時間は、
  前記受信時刻よりも前のエラー前時間と、
  前記受信時刻よりも後のエラー後時間と、
を有し、
 前記エラー前時間は、前記エラー後時間以上である、切削加工システム

補正案2
 被加工物が切削される切削空間が形成され、利用者が前記切削空間を視認できる窓部が設けられた本体、および、制御装置を有する切削加工機と、
 前記切削空間内に配置され、前記切削空間内の切削動画を撮影する撮影装置と、
 表示画面と、前記制御装置および前記撮影装置と通信可能に接続された通知制御装置と 、を有するエラー通知装置と、を備え、
 前記制御装置は、
  前記被加工物が切削されているときに発生したエラーを検出するエラー検出部と、
  前記エラー検出部によってエラーを検出したとき、前記通知制御装置にエラー情報を 送信する送信部と、を備え、
 前記通知制御装置は、
  前記切削加工機の切削中に、前記撮影装置によって撮影された前記切削動画を記録す る記録部と、
  前記送信部によって送信された前記エラー情報を受信する受信部と、
  前記受信部が前記エラー情報を受信したときの受信時刻を基準とした所定のエラー記 録時間の動画をエラー動画としたとき、前記撮影装置によって撮影されている前記切削動 画から前記エラー動画を抽出する抽出部と、
  前記抽出部によって抽出された前記エラー動画を前記表示画面に表示する表示部と、を備え、
 前記記録部は、前記切削加工機が切削プログラムの実行を開始するタイミングで前記切 削動画の撮影を開始し、前記切削プログラムの実行が終了するタイミングで前記切削動画 の撮影を停止し、
 前記表示部は、前記エラー動画と共に、前記受信部によって受信した前記エラー情報に 基づいたエラーメッセージを前記表示画面に表示し、
 前記エラー記録時間は、
  前記受信時刻よりも前のエラー前時間と、
  前記受信時刻よりも後のエラー後時間と、
を有し、
 前記エラー前時間は、前記エラー後時間以上である、切削加工システム

 私の提案は、「利用者が視認できる窓部」の存在を特定することである。そして、この補正の意図は「動機」を遠ざけることにある。つまり、「既に利用者が視認できる窓部がありながら、あえて撮影装置を備えることの動機がない」という方向での主張をするための補正である。

 この補正は、本願明細書の段落【0004】の「ところで、上記切削加工機において、切削中にエラーが発生することがあり得る。利用者は、切削中において継続して切削の様子を目視しているとは限らない。そのため、切削加工機にエラーが発生したときに、利用者は、発生したエラーを事後的に知ることがあった。よって、利用者は、どのような状況でエラーが発生したかが分からないことがあった。」との記載にも適ったものである。
 言い換えれば、本願発明は「窓部を設けて利用者が切削の様子を目視できるようにしているが、それでもなお生じる課題がある」という背景から生まれた発明であり、このような課題に気付かない限りは、わざわざ窓部が設けられている切削加工機の様子を撮影するために撮影装置を備えるという技術思想には至らない、という主張が可能であろう。
 そして、段落【0004】にこのような記載をしていることから、上記補正案が出願人の意向を損なわない補正の可能性も十分にあるだろうと私は考えた。

 審査官の挙げた引用文献にはいずれも、利用者が視認できるような窓付きの切削加工機が開示されていない。引用文献6には撮影装置を切削空間の外に配置して様子を撮影するために窓が設けられていることが図示されているが(段落【0043】等)、その配置からしても利用者が切削空間を視認する目的のものとは言えないだろう。

 この補正の(都合の)良いところは、たとえ、窓付きの切削加工機を開示する文献が見つかったとしても、それだけで「動機付け」が完成しないという点である。つまり、そのような引用文献があれば「引用文献においては、既に窓部が設けられており、切削の様子を視認して異常を知ることができるのであるから、あえて撮影装置を設ける動機はない」という主張も可能となるのである。
 そのため、審査官としては「窓部を設けて利用者が切削の様子を目視できるようにしているが、それでもなお異常が検知しきれないことがある」という課題の存在を示唆するような文献を見つけなければならない。しかしながら、そのような文献があるとすれば、おそらく本願発明には新規性がない(といえるような文献のはずである)。現状、新規性の拒絶理由がきていないことからすると、このような文献は見つかっていない可能性も十分考えられるだろう。

 補正案2は、上述の方向性と絡めて、「撮影装置が切削空間内に配置される」という限定を追加したものである。窓部は利用者が視認するのに用いるため、撮影装置は切削空間内に配置しているという技術的な意義の主張が可能となる。但、挙げられた引用文献を見る限り、撮影装置はあまり切削空間内に配置させたくないようにも思えるため、出願人の取りたい権利と合致していれば、この限定を追加してもよいという程度の提案となる。
 引用文献1は、図1を見る限り、フレーム2の外側に撮影装置が配置されているので、補正案2を開示していない。一方で、引用文献5や6には「撮影装置が切削空間内に配置される」ことが直接あるいは実質的に開示されている(引用文献5の図1や引用文献6の図5bまたは図6b等)。
 そのため、「撮影装置が切削空間内に配置される」という限定は、その構成そのものの適用の容易想到性のために追加しているのではなく、利用者が窓部を使って視認するという切削加工機を前提としているからこそ、窓部を覗く利用者の邪魔とならないように配置しているという、補正案1の主張を強化するための補正である。

 なお、別に「撮影装置が切削空間内に配置される」ではなく、本願明細書の段落【0039】にあるように「本体の外部であって、窓部を通じて切削空間内を撮影できる位置に配置される」という限定であってもよい。寧ろ、この補正の方が課題との親和性は増し、進歩性(非容易想到性)は認められ易くなるだろう。
 つまり、利用者が視認できる窓部である以上、利用者の邪魔にならない位置にあるといえるが、裏を返せばそれは、利用者が視認しているときには切削空間内を撮影できない位置である可能性も考えられる。しかし、段落【0004】は、利用者が視認できないこともあるという伏線があるため「利用者が視認しているときには撮影装置が実質的に機能しない(切削空間内を撮影できない)としても許容され、一方で、利用者が視認できていないときには切削空間内が撮影できるため、窓部を通じて撮影できる位置に配置されていても課題を解決でき、本体の外部にあることで削り粉の付着といった問題はなくなる」といった主張ができる。
 今回の補正案2で「撮影装置が切削空間内に配置される」を採用したのは、通常は、利用者が除く窓部を通じて撮影するという方法は採らないのではないか、と思ったからである。

 最後に、補正案1にせよ2にせよ、この補正案で戦う場合には、引用文献4に対するけん制は意見書できちんと触れておかなければならない。引用文献4の背景技術には「担当する生産ライン内のあらゆる状況を改善担当者が常に監視し続けることは、時間的に困難である。また、改善担当者はコスト的に複数の生産ラインを担当することが一般的であるので、担当する生産ライン内のあらゆる状況を改善担当者が常に監視し続けることは、空間的にも困難である。以上の理由から、改善担当者が直接に上記状況を目で確認する方法として、生産ライン内をビデオカメラなどで撮影し、撮影した映像( 動画) を後に改善担当者が確認することよって、上記状況を改善担当者が目で確認することが有効であると考えられている。」との記載があるからである。
 この記載は、視認できるにもかかわらず撮影装置を設けるという思想で共通している。しかしながら、引用文献4が想定しているのは、複数の工程で設計される生産ラインにおける監視であり、窓部から切削空間内の様子を見るというものとは想定している状況が異なっている。このことは、下線部の「空間的にも困難である」との記載にも表れている。(本願発明は、一つの切削空間内の確認のため、空間的な困難性はない。)
 つまり、生産管理においてラインを監視するというのは、一般的には、ある特定の装置における作業の状況を見るのではなく、ライン全体が正常に作動しているかを見るという意味と解するのが当業者における通常の理解であり、このことは引用文献4の発明の詳細な説明で説明されている具体的な実施形態の説明からも明らかであろう。

 引用文献4の背景技術の記載は、上記補正案で進歩性を主張した場合に審査官が気付く可能性は十分に高いと考えられるし、こちらから何も言わないでおくと、この部分の記載だけに審査官が飛び付いてしまうおそれもある。従って、このような場合には、先手を打って、引用文献4の記載が本願発明の技術思想を開示するものではないことを主張しておくべきであろう。

 今回提案した補正案は、かなり厳しい戦いではあるだろう。しかし、補正案1の程度の補正で特許査定が得られるのであれば、出願人のメリットは大きいものと推測される。そのため、私が代理人ならば、補正案を提案し、出願人に挑戦を促す方向の提案をするだろう。

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