題材について
題材の選定条件:審査請求がされ、拒絶理由通知が出されたが、これに応答することなく拒絶査定が出された案件
例1:審査経過が「審査請求 ⇒ 拒絶理由通知 ⇒ 拒絶査定」
例2:審査経過が「審査請求 ⇒ 拒絶理由通知 ⇒ 意見書/補正書 ⇒ 拒絶理由通知 ⇒ 拒絶査定」
題材:特願2022-018581
出願人:株式会社クラレ
代理人:杉本 修司(ほか 4名)(野田・杉本特許事務所)
発明の名称:熱可塑性液晶ポリマーフィルム、積層体、および成形体、ならびにそれらの製造方法
審査記録(最終処分:拒絶)
2023年 4月13日 審査請求
2024年 3月 5日 刊行物等提出による通知書
6月18日 拒絶理由通知
8月15日 意見書及び手続補正書の提出
10月 8日 刊行物等提出による通知書
11月12日 拒絶理由通知
2025年 1月 8日 意見書及び手続補正書の提出
4月 8日 拒絶理由通知
9月 2日 拒絶査定
検討対象:3回目の拒絶理由通知(及び2回目の拒絶理由通知)
拒絶理由:36条6項2号(明確性)※検討結果次第で2回目の拒絶理由の対応を検討
簡単な概要
第30回及び第31回の題材は「特許事務所のOA応答統計第12回」の事務所から選んでいる。また、この2件はいずれも、非常にレアな審査経過を経ていることから今回選択した。
第一に、情報提供を受けている案件であり、第二に、2回も応答しておきながら、最終的には権利化を断念しているという経過が非常に珍しいのだが、なぜか「特許事務所のOA応答統計第12回」の案件リストの中にこのような案件が2件もあった(第11回までのOA応答統計の案件リストには1件もなかったのだが。。)
これまでは、各回のOA応答統計の中から1案件を選定していたが、上記のような経緯から、今回は2案件を選定し、第30回と第31回の題材にすることにした。1件目(第30回)は化学分野、2件目(第31回)はソフト分野である。
それでは、題材について簡単に説明していく。
本件は、3回の拒絶理由通知を受けている。新規性/進歩性(29条)、サポート要件(36条6項1号)、明確性要件(36条6項2号)の拒絶理由に始まり、2回目の拒絶理由通知では新規性/進歩性(29条)、実施可能要件(36条4項1号)、サポート要件(36条6項1号)の拒絶理由が通知され、3回目の拒絶理由通知で明確性要件(36条6項2号)の拒絶理由が通知されて、これに応答することなく拒絶査定となった。
情報提供を受け、進歩性だけでなく、サポート要件などの拒絶理由も受けていたが、出願人は必死に応答し、進歩性やサポート要件の拒絶理由については解消するに至ったものの、残る明確性要件だけは解消できないと判断し、権利化を断念したものと推察できる。
ここまで頑張ってきながら、なんとも悔しい結果であろう。
審査請求の請求項1は以下の通りである。
【請求項1】
光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマー(以下、熱可塑性液晶ポリマーと称する )で構成された、熱可塑性液晶ポリマーフィルムであって、
10分~1時間の熱処理により、フィルム内に斜方晶構造の結晶を生成し得る、 熱可塑性液晶ポリマーフィルム。
これに対し、1回目の拒絶理由通知で、新規性/進歩性(29条)、サポート要件(36条6項1号)、明確性要件(36条6項2号)の拒絶理由が通知され、出願人は以下の通りに請求項1を補正した。
【請求項1】(1回目の拒絶理由対応)
光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマー(以下、熱可塑性液晶ポリマーと称する )で構成された、熱可塑性液晶ポリマーフィルムであって、
前記ポリマーはp-ヒドロキシ安息香酸(A)および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸 (B)との繰り返し単位を(A)/(B)=77/23~80/20のモル比で含有する 共重合体であり、
1~175μmの膜厚を有し、
前記ポリマーの融点以下、融点より50℃低い温度以上で行われる10分~1時間の熱 処理により、フィルム内に斜方晶構造の結晶を生成し得る、 熱可塑性液晶ポリマーフィルム。
上記の補正後の請求項1により、主引用文献が挿し代わり、2回目の拒絶理由通知で新規性/進歩性(29条)、実施可能要件(36条4項1号)、サポート要件(36条6項1号)の拒絶理由が通知され、出願人はさらに以下の通りに請求項1を補正した。(なお、この補正で請求項2も独立項として追加されたが、明確性要件のポイントは共通しているため、ここでは割愛する。)
【請求項1】
光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマー(以下、熱可塑性液晶ポリマーと称する )で構成された、熱可塑性液晶ポリマーフィルムであって、
前記ポリマーはp-ヒドロキシ安息香酸(A)および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸 (B)との繰り返し単位を(A)/(B)=77/23~80/20のモル比で含有する 共重合体であり(但し、前記ポリマーがp-ヒドロキシ安息香酸(A)および6-ヒドロ キシ-2-ナフトエ酸(B)との繰り返し単位を(A)/(B)=80/20のモル比で 含有する場合を除く)、
1~175μmの膜厚を有し、
前記ポリマーの融点以下、融点より50℃低い温度以上で行われる10分~1時間の熱 処理により、フィルム内に斜方晶構造の結晶を生成し得る、 熱可塑性液晶ポリマーフィルムにおいて、
1時間の熱処理により、フィルムの融点Tmが325℃以上に上昇する、熱可塑性液晶 ポリマーフィルム。
これに対し、審査官は、以下の理由から明確性要件違反と判断した。
「請求項1,2に係る発明は、「・・・1時間の熱処理により、フィルムの融点Tmが325℃以上に上昇する」ことを発明特定事項としているが、熱処理温度が不明であり、特定しようとする発明の範囲が明瞭でない。」
そして、出願人は応答することなく、拒絶の最終処分が確定した。
検討の公開まで
「拒絶理由対応のすすめ」は、実際に検討された上で、記事の詳細を読む方が、スキルアップに効果的かもしれません。まずはご自身で検討してみてから記事を読みたいという方がいることも想定し、具体的な検討の詳細は、記事のアップから期間をあけて、8月20日に公開する予定です。
また、以下の「応答方針の検討」をご覧になる前に、「拒絶理由対応の本質」を読まれることをお薦めします。こちらを読んで頂いた上で以下の記事を読まれる方が、理解が深まると思います。
以下の「応答方針の検討」には、応答方針に至るまでの思考過程と、応答案の概要を載せています。
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